学園に戻った後、フーケについてどう説明しようかといろいろキュルケが考えてくれていたみたいだけど、それは杞憂におわった。思いのほかフーケは大物だったらしく、一学生に捕まえることなどできないと思われてたみたいだ。むしろ宝と生徒を取り返しただけでも大手柄だと褒められたくらいだった。
「いやーなんとかなるもんだねー」
「運がよかっただけよ」
「運も実力の内ってね!」
「調子いいんだから」
結局その日はもう遅いと報酬についてなどはまた後日話すということになった。
キュルケたちとは一度分かれて、深夜にこっそりルイズの部屋で待ち合わせということになった。
「サヤカ、ほんとによかったの?」
「なにが?」
「なし崩し的にキュルケたちに話すことになっちゃったけど、私から断ってもいいのよ」
「いや、ちゃんと話すよ。今回はいっぱい迷惑かけちゃったしね」
シエスタの件もそうだし、ルイズを助けてくれた件も。あと怖がらせちゃったことも。
「あんたがいいならいいけど・・・」
なんだかもやもやしてますという顔のルイズ
「もしかしてあたしを独り占めできなくて焼いてるのかぁ?うりうり」
「は、はあ!違うわよ!勘違いしないで!」
どうやら図星だったらしく、ぷりぷり起こりながらずんずん先に行ってしまった。
「ちょっとルイズ、ごめんって、おーい!」
そんなルイズのあとをあたしは慌てて追いかけるのだった
深夜、ほとんどの生徒が寝静まる中、ルイズの部屋にはあたしたちのほかにキュルケとタバサもいる。
タバサに関しては話を聞きに来たにもかかわらず、椅子に座って読書をしているが
「さっそくで申し訳ないけど、アレについて説明してくれるかしら?」
はじめに口を開いたのはキュルケだった。本当は私がリードすべきなのだろうが、どう話したらいいか悩んでるうちに口を開くタイミングを逃してしまった。
「改めて説明って言われると、どこからどう説明したらいいのやら」
「とりあえず、あなたの魔法についてから聞かせてちょうだい」
聞かれて、そういえば魔法少女についてはルイズ以外に説明していないなと気が付いた。
「サヤカが話す気がないようだったから聞かなかったけど、さすがに見逃せないわ。見た感じ杖を持ってるようには見えないし」
まずはそこからだよねと、前にルイズにしたような説明をする。一通り話し終えれば、やはりみんな気になることは同じようで
「どんな願いも叶うの?」
願い事についての質問が多かった。思いのほか一番食いついたのはタバサだ。
いつの間にか本を閉じてテーブルに置いている。心なしか距離も近い。
いつもどこか冷めた顔で世界を見てる彼女の目が、今は熱を持ってるのを感じる。
「でもこの世界にキュウべえっていうのが居ないんじゃ何の意味もない話よ」
ルイズが物知り顔で言うが、あんたも同じこと聞いてきた気がするのは気のせいですかい?
「・・・」
その言葉にタバサは何か思案していた。あたしのことをじっと見ている
「でも、サヤカがこの世界に来れたってことはまだ可能性はゼロじゃないんじゃない?」
「そういわれたらそうなんだけどね、ぶっちゃけあまりお勧めはしないよ」
「どうしてよ、そのキュウべえっていうのがこっちで契約してくれれば、魔女なんていないここでは願い事なんてかなえ放題じゃない」
やはり彼女は聡明だ。この少ない情報でその結論にたどり着く。
結局魔女というものがあってそれに対抗する手段として魔法少女という存在を説明している以上、この世界で魔法少女になれば、その義務を放棄できることになって、願い事を叶えるという結果だけが残る。
「まあ、そんな単純な話じゃないというかなんというか・・・」
「なによ、歯切れが悪いわね」
今度はルイズからだ。ここまではルイズにも説明してた話だ。でもここからは初めて話す話だ。
「今回、あの『悪魔の繭』、あたしたちの世界ではグリーフシードって呼んでるんだけど、あれがあったことから考えても、キュウべえがこちらに来る可能性もゼロとは言えなくなっちゃったのは事実だね。」
「なら」
どこかすがるような声でタバサがこちらに向き直る。
「だからみんなにちゃんと説明するべきだと思ってね。今回は集まってもらったんだ。迷惑をかけたからっていうのも大きいけどね」
そのタバサの声にかぶせるように言う。
そのあたしの様子から何か感じたのかみんな黙っている。あたしの次の言葉を待っているんだろう。
「まず、あのグリーフシードだけど、あれはね魔女の卵なんだよ」
「はあ!?そんな危ないものが学園に置いてあるの?!」
ルイズが信じられないという顔をする
「まあ。そのままじゃ卵は孵らないよ。卵の羽化にはそれなりの穢れが必要だから」
「穢れ?」
「そう、負の心。妬みとか嫉みとかそういう感情のエネルギーが必要なんだ。でも安心して、あれ単体にそういうものを集める力はないし、今回あたしが浄化したからもう心配ないと思う」
「あの時光ってたやつかしら?」
「そうだよ」
本当は浄化というより吸収が正しいけど、話がややこしくなるから今は省略だ。
「ならこれからもサヤカがグリーフシードってやつを浄化すれば魔女は現れないってことでしょ?何の問題もないじゃない」
確かに、あの状態のグリーフシードなら何の問題もない。しかし、根本的に間違えている。
「それを説明するには、まず魔女がどこから生まれるかを説明しなくちゃいけない」
「どこからって・・・魔女ってそもそも何なの?」
「『魔女とは、人々に災いをもたらす存在。
異空間(結界)を作り、その中で使い魔を生み出す。
魔法少女は、その魔女を倒す存在。』そうキュウべえは言ってたよ」
「人々に災いをもたらすって?」
「あたしの世界の疫病や、災害、自殺なんかも魔女が絡んでたよ。心の弱った人間ほど魔女の餌食になりやすい」
「そんな恐ろしい存在だなんて・・・」
キュルケが真剣な顔で言う。そんな彼女を一目見て、タバサが今度は口を開いた
「魔女が怖いのはわかった。でも何で魔法少女になるべきじゃないかの説明にはなってない」
「あはは、さすがに気づいちゃうか」
「確かに、魔女の恐ろしさはわかったけど、それを食い止めるための魔法少女でしょ?魔女に対抗できるくらいなんだから、すごい力があるんじゃないの?」
「そうだよ、そこは何も間違っちゃいないよ。」
「なら」
タバサには、きっとどんな犠牲を払ってでも叶えたい願いがあるのだろう。だからこんなにも縋りつくのだろう。
「タバサ、あんたにもなにか事情があるのかもしれないけどさ、希望と絶望は差引きゼロなんだよ。何かを願った分だけ誰かを呪うことになる」
「・・・それってどういう意味」
ルイズが聞く、ここからはルイズにも話していない魔法少女の真実だ。
「願いを叶えたらその分の代償は払うことになるってことだよ」
「代償って・・・魔女と戦うことが代償じゃないの?」
「確かにそれを代償と呼ぶこともできるよ、でもそうじゃない。あんたたちはもうその代償を見ているはずだよ」
「見たってどこで・・・」
ルイズとキュルケが思案する傍らで、タバサの目が見開かれるのが分かった
「・・・あの怪物」
「ご明察。あれこそが願いの代償・・・。」
今の私はみんなにどう見えてるのだろう。ちゃんと美樹さやかに見えてるだろうか。それとも・・・
「魔法少女はやがて魔女に成る」
もっと邪悪な、得体のしれない者に見えているのだろうか