今日はあたし一人でお留守番だ。
ルイズはキュルケとタバサと三人で王宮に行った。あたしも行こうかと思ったが、王宮は王宮でめんどくさいらしく来ない方がいいと言われてそうすることにしたのだ。
「のどかですなあ」
今日の家事も終わり使い魔たちとお昼寝ライフを満喫しているときの事
「ちょっと、押さないで」
視界の陰に数名の女子生徒の影が見えた。ほとんどは知らない生徒だが、何人か見覚えのある生徒もいる。
黄色いお嬢様ロールがマミさんに似てたからなんとなく印象に残ってた。
彼女が他の女子生徒に押されながらあたしの前まで来た。
「こんにちは、ミスサヤカ」
「こんにちは、えっと確かギーシュの元カノの」
「モトカノ?よくわかりませんがモンモランシーよ。モンモランシー・マルグリット・ラ・フィエール・ド・モンモランシ」
「モンモ・・・あーうんよろしく」
「友人はモンモランシーと呼びますわ」
いつの間にかほかの女子生徒から一歩前に踏み出した形になったモンモランシ
「それで、あたしになんか用?」
「あ、えっと」
彼女は少し顔を赤くしながら視線を左右に揺らしている。
「もしよろしければなんですけど!」
意を決したような彼女の勢いに少し退く
「あんたの演奏を聞かせてくださるかしら・・・」
徐々に自信を失っていくモンモランシ、ルイズの使い魔だとバカにしていた一団に自分も居た負い目だろうか、今はもうそんなことをしていないからあたしは全然気にしていなかったんだけど、根が真面目なのかこんなお願いおこがましいと思ったのかもしれない。
「以前は失礼なことを言いましたわ。でも、あなたの音をもう一度聞きたいの」
そう言ってもらえるのは悪い気はしなかった
「いいよ、あたしの演奏でよければ」
あたしの言葉に他の女子生徒とがきゃー!と色めきだす。もしかしてだが、この一団はあたしの演奏が聴きたいがために集まったのだろうか?だとしたら光栄なことだ、あんなつたない演奏でもこんなに聞きたいと思ってもらえるなら
「あなたの演奏、本当に素敵だったわ。もう一度聞けるなんて嬉しい」
「そんなに気に入ってくれたんだ」
「なんででしょうね、あなたの演奏を聴いてると別れた彼を思い出すの」
「そうそう!なんだか切ない気持ちになるのよ!」
「私も!」
やいのやいのと他の女子生徒も一緒になってもみくちゃにされたが、何とかそこから抜け出すと少し開けた場所に行く。
「お披露目会の時の曲が聞きたい感じかな?」
「できればいろんな曲を聞かせて頂きたいですわ。あなたの楽器、最近貴族の間で流行ってるみたいなんですけど、まだ演奏者と呼べるほどの腕前の人はあまりいないの」
それもそうだろう、そもそもこの世界に存在していなかった楽器なのだから。
「それなら何曲かよさげなのを引いてみるよ」
そういうとヴァイオリンを出す。いつものように調律を済ませていると、その様子をモンモランシたちは興味深そうに見ている。いつの間にか長椅子まで準備されていた。
やがて調律が終わりヴァイオリンを構える。ギャラリーが増えていたがそんなことは気にならない。
♪――――
曲はバッハのG線上のアリア、この中庭にぴったりな穏やかな曲だ。
弓を弾く手は迷いなく音をなぞる。
中庭のギャラリーはいつの間にか沈黙していて、聞こえるのは私の演奏と草のすれる音だけだ。
―――♪
一曲目が終わる、拍手はないしかし皆が息をのむのが分かる。そのまま次の曲エルガーの愛の挨拶
♪―――
モンモランシを見る。
ロマンチックに、彼女の手を取るように弓を弾く。
彼女はあたしの音楽に心惹かれているようだったが、その乙女の目の奥に後悔が見える。
(なんだ、まだギーシュの事好きなんじゃん・・・)
ならばこの曲は彼女にはふさわしくないだろう。そう思い弾き方を変える。彼女の為にではなくこのギャラリーの為の演奏だ。
―――♪
演奏が終わる
「なんてロマンチック」
「素晴らしいわ」
先程とは違い拍手が起きた。
その拍手の中で、モンモランシは寂し気にどこかに思いをはせている。
ぽっかりと空いた彼女の傷が、あたしには痛いほどわかった。
だから、最後の曲はあたし自身の後悔の証。後悔してほしくないから、まだ間に合うから
この曲があなたの背中を押せますように
~モンモランシ~
初めて聞いた彼女の演奏が頭から離れなかった。
聞けたのはほんの少し、自分の出番が終わり使い魔をねぎらっていた。彼女の演目に興味などなかった。ただお父様のメンツの為に御挨拶はしなきゃいけなくて、その為に会場に行ったのだ。
♪―――
その音はすっと私の心の隙間に入り込み、彼との別れを思い出させた。
あれから気が付くと心にはあの時のメロディーが流れていた。
ほかにもそういう子はいるようで、みんなで相談して彼女にお願いした。今まで彼女を蔑ろにしていたくせにと思いはしたけれど、それ以上になんだかあの音に会いたかった。
そしてとても長い間聞いていない気がする彼女の演奏はやはりすごかった。彼女の演奏は彼との日々を思い出させて幸せな気分にしてくれた。
だけど、それが妙にむなしかった。自分で彼を遠ざけたくせに、彼との思い出を捨てられない私は、なんて未練がましい女なんだろう。
気が付くと二曲目が終わっていた。周りはとても盛り上がっていて、この世界で自分だけが一人のような気がした。
―――
ふと目線を上げればルイズの使い魔と目が合った。
「っ!?」
その目まっすぐな目が、私を射抜いている。
そして最後の曲が始まった。
♪――――
先程とは違う、重く、水の中を這うような音だった。
指先が冷たく、凍るような音。
説明されなくてもわかる。これは後悔の懺悔だ。
「・・・」
こんなにも静かな彼女から、こんなに静かな音なのに、悲鳴が聞こえる気がした。どこにも行けない心が泣いている。
「・・・っ」
気づけば頬を涙が伝っていた。
彼女はきっと私に言っているのだ、それでいいのかと、このまま戻れなくなってもいいのかと。
もう彼女はこちらを見ていないけれど、私の背中を押してくれているのはわかる。
いいのかな。あきらめなくても
そう心で問いかけると、まるで私の声が聞こえているかのように彼女が私の目を見た。
気のせいだったのかもしれないけど、きっと彼女は応援してくれたのだ。
なら、その応援ありがたく受け取ろう。
――――♪
演奏が終わった時、そこにはもうモンモランシの姿はなかった。
『もう離しちゃだめだよ』
そんな声が、胸の奥で響いた気がした。