「それでもギーシュがかっこつけるからお尻を蹴飛ばしましたよ」
「それでモンモランシーとはどうなったの?」
「なんとか復縁できたよ。二人とも思い合ってるんだからこうなって当然なんだけどね」
「あなたの方も大変だったみたいね」
ルイズたちが戻ってきたのはずいぶんと暗くなってきたころだった。
「でもうれしいわ、サヤカがこんな風に学園の人間に認められて」
「それを言ったらルイズの方がすごいじゃん、王族から直々に褒美って結構すごいんじゃないの?」
「そっ、それほどでもないわよ」
そういいながらもうれしそうな顔が隠しきれていない姿に、かわいいなあと感想をもちつつ、お互いの今日の出来事を報告している。
そしてそろそろ床に就こうかと話していると
コンコン
「こんな夜更けにお客?キュルケだったら追い出していいわ」
「そんなこと言わないでよ」
生意気なことを言うルイズだが、最近よく話すようになっていることはタバサ経由で聞いていたので、彼女が来たとしてもなんだかんだ部屋に上げればいいかと思いながらドアを開ける。
「はいはーい、いまいきますよーっと」
そこにいたのはフードで顔を隠した小柄な人物だった。
「夜分遅くにすいません。ルイズに話があってきました」
「えっと、要件は?」
「できれば中で話をさせていただいてもいいですか?あまり人に聞かれたくないので」
ぶっちゃけとても怪しいがこの部屋の家主はルイズだ。あたしはドアの前の人物に少し待つように伝えると、ルイズにどうするべきかを聞いた
「フードを被った客?怪しすぎじゃない」
「あたしもそう思うんだけどさ、こんな夜中に女の子一人ってなんか訳ありっぽくない?」
怪しいことは怪しいが、万が一の時はあたしがいるしだいじょうぶだろうという判断でその人物を中に入れることにした。
「まずは部屋に入れて頂きありがとうございます」
「挨拶もいいんだけどさ、そろそろそのフード脱いだら?ぶっちゃけ怪しさ満点なんだよね」
「それもそうですね」
来訪者はあたしの言葉に以外にもすんなりとそのフードを脱いだ
「姫様!」
その顔を見た瞬間のルイズは素早かった。すぐその場に片膝をつくと首を垂れる
「ちょっと!あんたも!」
「え!ええ!」
と思ったらあたしの腕をつかんで一緒に頭を下げさせた。
「ばか!あんたこの方が誰だと思ってるの!」
「ええ?わかんないって、あたしわかんないから」
ルイズの突然の罵倒に困惑するあたし
「いえ、その方は悪くありませんわ。正体を隠してきたのはわたくしです。あまり責めないで上げてください」
フードを脱いだ少女は紫色の髪をした。とても品があるように見える人物だった。
「突然の訪問をお許しください」
そう言って彼女はスカートのすそを上品に上げる
「わたくしは、トリステイン王国第一王女――アンリエッタ・ド・トリステインです」
「トリステインって・・・この国の王女さまぁ!!」
「ちょっと!王族の前でそんなはしたない声出さないで!」
「え、え、なんで王女様がこんなところに」
「もうあんたはほんとに黙って!」
ついにルイズに拳骨を貰ったところであたしは黙ることになった。
「ルイズ、今日は王宮に来てくれていたにもかかわらず、お話もできなくてごめんなさいね」
「いえ!そんな恐れ多いこと」
深く頭を下げるルイズに、アンリエッタは静かに首を振った。
「今宵は王女としてではなく……あなた個人にお願いがあって参りました」
その言葉に、ルイズの肩がぴくりと揺れる。
「お願い……でございますか?」
「ええ。けれどその前に――」
アンリエッタは一瞬だけ視線を巡らせ、扉と窓を確認した。
そして小さく息をつく。
「この話は極秘です。ここで聞いたことは、決して他言無用に」
「は、はい!」
ルイズは強くうなずいた。
あたしはというと――
(うわ、めんどくさい匂いしかしない)
王族の極秘案件とか、絶対ろくでもない。
しかもわざわざ夜にフード被って来るとか、絶対ただ事じゃない。
アンリエッタはゆっくりと胸元に手を当てた。
「実は……ある“手紙”を取り戻してほしいのです」
「手紙……?」
「はい。それは現在、アルビオンにあります」
その国名が出た瞬間、ルイズの表情が引き締まった。
「アルビオン……」
あたしも名前くらいは聞いた。
それもあまりいい話じゃない。
この世界では戦争が普通だと聞いたがその中でも一番ホットな戦地って感じ。政治とか難しいことはわからないけど、国の中で戦争が起こっているらしい。
「その手紙は、決して他者の手に渡ってはならないもの……」
アンリエッタが瞳を伏せる。その姿はさながら悲劇のヒロインといったところか
「もし奪われれば、トリステイン王国の存亡に関わります」
ルイズはごくりと唾を飲み込んだ。
「わ、わたくしに……それを?」
「ええ。あなたにしか頼めないのです、ルイズ」
まっすぐな瞳。
王女としての命令ではなく、
一人の少女としての懇願がそこにあった。
――けど。
(あー……やっぱり)
あたしはその目を見て、内心で眉をひそめる。
必死なのはわかる。
守りたいものがあるのもわかる。
でも――
(ルイズを巻き込む目だ)
王女の目だ。
目的のためなら個人を使う覚悟を持った目。
悪意じゃない。
でも優しさだけでもない。
その温度差に、胸の奥がざらついた。
「どうか……力を貸してください」
アンリエッタは静かに頭を下げた。
王女が、貴族の少女に。
部屋の空気が張りつめる。
その沈黙の中で――
ルイズが口を開こうとした、その瞬間。
あたしは無意識に一歩前に出ていた。