ゼロの人魚姫   作:北町スイテイ

33 / 47
第33話「…笑うしかない…こんなの、笑うしかないじゃん…」

~???~

 

私は気がつくと、知らない場所に寝転がっていた。

頭には柔らかな枕の感触、今まで感じたことのないやわらかさだ。

 

体を起こすと、そこが自分の部屋だと思った。そう、思ったのだ。

見覚えのない机、壁、床。だけどどこか、自分のものだとわかる。

 

ふわふわした意識の中で、やるべきことはわかっていた。

近くにあった制服を手に取り、立ち上がる。

 

私の家は大きくはないが、とても高級に見えた。見たことのない道具も多い。

 

「どこか出かけるの?」

 

玄関まで来た母の声に、勝手に口が動く。

 

「うん、ちょっと病院」

 

自然な返事に思えた。

 

「気をつけてね、最近物騒だから」

「はいはーい」

「はいは1回」

「はーい、いってきます」

「行ってらっしゃい」

 

そうやって見送られ、外に出るとそこは知らないもののオンパレードだった。

天に突き刺さる石の建物、動く鉄の塊、空を飛ぶ鉄のドラゴン。

 

しかし、私はそれに気を止めず、進む。途中で『CD』を買ったくらいだろうか。

 

やがて目的地に着いた。

白く立派な建物、その中の一室に足を踏み入れる。

 

ガラガラガラガラ――

独特の感触が手をつたう。ドアが開いた。

 

ーーードキン

 

そこに居たのは、ベッドに横たわる少年。

知らないはずのその少年に、心臓がバクバクと音を立てる。

 

「やっほー恭介、今日も来てやったぞ」

「ありがとう、いつも悪いね」

 

頭の片隅でくすぶる違和感――

知らない町、知らない人間――

 

「さやか」

 

ーーー知らない世界

 

ここは私の夢じゃない、サヤカの夢だ。

 

気づいた瞬間、景色が絵の具のように溶け、ぐるぐると回り始める。

立っているはずの床も壁も、空もなくなった。

 

気が付くと、白黒の影の世界にいた。別の場面――まるで違う過去のようだ。

目の前には白黒の目だけが白く浮かぶシルエット。

その形は、ちょうど変身したサヤカのものだった。

 

「さやかちゃん!もうやめて!」

 

後ろから聞いたことのない女の子の声。

振り向けば、そこにも白黒の影が。

やがて周囲の影はツルのようにしなり、襲い掛かってくる。

 

サヤカは目にも止まらぬ速さで接近し、切り裂く。

 

「あはははははは!」

 

せわしなく動き回る彼女からは、いつもの快活な笑い声ではない、狂気じみた笑いが聞こえる。

 

「このままじゃさやかちゃんが壊れちゃうよ!」

 

その顔もろくにわからない少女の言葉に、私も賛成だった。

しかし、攻撃を受けてもサヤカは一歩も引かない。

影だからよくわからないが、身体は今、まともな状態ではない――。

 

「サヤカちゃん!ケガしてるよ、おねがい、止まって」

「うっさいなあ」

 

サヤカは少女をにらむ。もちろんルイズに目を向けることはない。

体のあちこちに青い光がまとわりつき、みるみるうちに傷が直っていく。

 

「こんなのすぐ直るんだから、ちょっとケガしたくらいでピーピー喚かないで」

「でも、治っても、さやかちゃんがそんな痛い思いするなんて」

「…」

 

彼女は本気で心配している。

しかしサヤカの目は、そんな友人に向けられるものではなかった。

 

「戦えもしないあんたが、あたしの事知ったような事言わないで」

 

そう言うと、サヤカは先頭に戻る。

戦い方は、これまでの毅然とした姿とは全く違う。

まるで野生動物のようで――

 

「死ね!しね!しねええぇ!!!!!」

 

美しい剣を粗雑なこん棒のように振るい、血が滴る。

目じりから流れるのは、涙のようでもあった。

 

やがて相手が動かなくなっても、腕は下りない。

嗚咽混じりの笑いが、空気を震わせる。

 

「…笑うしかない…こんなの、笑うしかないじゃん…」

 

いつの間にか傷は癒え、血も消えた。

それでも、瞳には涙が流れ続けていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。