見なかったことにしてください
~さやか~
数十分前―――
すぅ…すぅ…
ルイズが完全に眠ったのを確認してあたしは目を開けた。
「…」
自分の手元にソウルジェムを出す。
ソウルジェムは心なしか濁っている気がした。
横で眠るルイズを見る。そして、あたしの左手に刻まれたルーンも。
最初にソウルジェムに干渉されたときに結界を張ったはずだが、そもそもあたしとソウルジェムは切っても切れないつながりがある。
(距離を置くくらいしか対策はないか…)
おそらく左手の使い魔のルーンからソウルジェムに干渉されているが、完全にあたしとソウルジェムの関係を切れば、あたしは動けなくなる。
(とりあえずあたしに何が起きているのかを調べるのが先決よね)
確かコルベール先生が使い魔について図書室で調べていた気がする。
不思議なことに、この世界の言語もあたしは読めるようになっていたから、その辺は問題ないはずだ。
そうと決まればと準備を始める。
ひとまず応急措置だがソウルジェムとルーンの距離を離すためにここにソウルジェムを置いていくことにした。ルイズならソウルジェムがあたしにとって大事なものだってことを分かっているし。雑に扱うことはないだろう。
ただそのままテーブルに置くのも、今回の姫のようにお客が来た時に何をされるかわからないから申し訳程度に隠しておくことにした。幸いこの学園の敷地であれば対して距離はない。せいぜい図書室まで30mほどだ。
「これで良し」
あまりにもお粗末な隠し方だが、今夜はこれでいいだろう。明日の出発までに何か情報が見つかればいいんだけど。
図書館の位置は、前にタバサと来たことがあって知っていたが、夜の図書館はなかなか雰囲気がある。
当然人も明かりもない為。魔法で丸い光を生み出すとあたしの前をふよふよ浮かせる。
「使い魔の本、使い魔の本」
しばらく本の表紙を順番に見ていると
『始祖ブリミルとその使い魔たち』
「始祖ブリミルってたしか虚無だったよね?」
そんな話をコルベール先生とした気がする。系統が同じだと似たような使い魔を召喚することがあるとも言っていたから、もしかしたら…
そう思いその本を手に取るとページをめくる
どれくらい、読み進めていただろうか…
「…これは」
そこには始祖ブリミルの使い魔たちのルーンが刻まれている。左手のルーンと見比べると、全く同じものがあった。それは…
「ガンダールヴ?」
『神の左手、ガンダールヴ。
その掌は武器を選ばず、触れしものすべてを神速の業へと昇華す。
彼は主の前に立つ不壊の盾、また敵を断つ無双の剣なり。
その剣技は一人にして軍勢を覆し、歴史の流れをも斬り分かつという。』
初めてこの世界で武器を手に取った時に体が軽くなった気がしたが、ガンダールヴ能力だったのだろう。
でも、今あたしが知りたいのはこれじゃない。
あたしはさらにそのページを読み進める。
これでもない、あれでもないと本を読み漁りどれくらいたっただろうか。あたしはついにその一文を見つけた。
「……これだ」
『主を守らんと欲する時、ガンダールヴの刻印は真に目覚める。
主の命脈を脅かすものあらば、その力は限りを知らず。
されどその本質は破壊にあらず。
主の願いを成就せしめるため、魂そのものが守護の形へと整えられることにある。』
魂そのものが守護の形へと整えられる…
「なによそれ。」
つまりは、ガンダールヴになった使い魔は、意が応なしに主に好意を持ってしまうということだろうか。
あたしがルイズを守ってあげたいと思う気持ちも、助けてあげたいと思う気持ちも、すべてこのルーンに操られていたということなのだろうか。
それが本当なのだとしたら、ルイズはこのことを知っているのだろうか?
そんなはずない…と思いたいが確信がない。このルイズへのイメージすらこのルーンに操られている結果なのだとしたら…
そこまで考えた時だった。
横で浮かせていたライトが、ちかちかっと点滅したかと思うと視界が左右に揺れる。
(っこれは!?)
そのままライトが消えるとあたしもその場に倒れた。
「…なん、で」
この感覚には覚えがある。まどかにソウルジェムを投げ捨てられた時の感覚に似ていた。
あたしのソウルジェムが移動してる?
それもものすごいスピードで離れていく。
50m
60
70―――
(このままじゃまずい!)
今ここで死体になるわけにはいかない。しかし体は動かない。
そして…
100m
意識が落ちる―――