ゼロの人魚姫   作:北町スイテイ

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第36話「ママ…」

~さやか~

 

 

意識が落ちる―――

 

 

 

 

 

はずなのに

 

 

「ど、うして…」

 

感覚でソウルジェムが遠く離れているのは確実だ、でもあたしの意識はまだあった。

ただ体はいつもよりも重く体を持ち上げるだけで精一杯。

そこでやっと自分の左手の甲に気が付いた

 

「ルーンが光ってる?」

 

もっとよく探りを入れてみれば、ルーン越しにルイズとのつながりを感じる、そしてそのルイズからソウルジェムのつながりも。

 

「もしかして、使い魔のルーンを通して―――」

 

魔力が流れ込んでいるのか。

 

一応理論としては理解できる。

あたしとルイズをこの使い魔のルーンがつないでいるのなら、そこを経由してソウルジェムがあたしに干渉しているのだろう。

こんなに体が重いのは、あたしがガンダールヴのルーンを受け入れていないからか…

 

「ちょっとそれは卑怯なんじゃない」

 

どんな事情があってルイズがソウルジェムを持って行ったか分からないけど、あたしがガンダールヴを拒絶している限り現状碌に動けないわけだ。

でも、このままにもしておけない。

 

悔しいが、最低限動けるようにソウルジェムの結界を少し緩める。

すると先程よりもスムーズに体に魔力が流れるのが分かった。

立上り手をぐーぱーぐーぱーと握ったり開いたりする。

 

「何とか動けるか」

 

結界を緩めた影響がどう出るかは未知数だが、今は仕方ない。

まずは部屋に戻って何があったのかを確かめなくては。

 

あたしは本を元の場所にもどすと踵を返す。明かりをつけたいが、今は魔力が惜しいので目に少し魔法をかけて多少夜目が聞くようにするだけに留める。

本当はすぐにでもソウルジェム、ルイズを追いかけたいが、このままでは無理だろう。

 

あたしはそんなことを考えながらルイズの部屋へ向う。

 

 

わかっていたことだが、部屋にルイズはいなかった。

その代わりにテーブルの上に置手紙。

 

『サヤカへ

 

アルビオンへは、私とワルドで行くことにしたわ。

これは主としての命令よ。あなたはここで待っていて。

 

勝手なことをしたのは分かってる。

でも、私のわがままで、あなたを危険な目に遭わせたくなかったの。

 

ソウルジェムは必ず返すわ。

 

ルイズ』

 

「…」

 

これはまずいことになった。

ソウルジェムの離れるスピード的に空を飛んでいるんだと思うが、ルイズは魔法が使えないし、人間二人を浮かせてこのスピードは速すぎることから、なにか空を飛ぶ生き物に乗っていったんだろう。

 

「今のあたしじゃ追いつけない」

 

こんな時頼れる人間に一人だけ心当たりがあった。

 

 

 

 

 

とんとん

 

こんな夜中に迷惑だろうと思って静かにドアをノックする。起きていればうれしいのだが。

 

「…なに?」

 

もう一度ノックをしようとしたところで、中から寝間着姿の彼女が出てきた。

 

「タバサ、こんな時間にごめん。ちょっとお願いがあって」

「…」

 

じっとこちらを見るのは続けてもいいということだろう。

 

「実はルイズとアルビオンに行く予定だったんだけど置いてかれちゃったんだよね。ソウルジェムもルイズに預けてて魔法も使えないし、シルフィードを貸してくれないかなって」

「…待ってて」

 

彼女は言うと一度部屋に戻った。一応拒絶はされていないから、いい返事を貰えたらうれしんだけど。

 

「…」

「タバサ…」

 

再び現れた彼女は、いかにも完全に外出用の格好をしていた。

 

「…一緒に行く」

「そんな、悪いよ。アルビオンは今危険な状態だし、無理して付いてこなくても」

「…」

「わかった。貸し一つね」

 

この子は声は小さいし、あまりしゃべらないが意外と頑固なのだ。結局諦めて一緒に行くことにした。

正直今の私はろくに魔法も使えないから、一緒に来てくれるのは正直とても助かる話だった。

 

「あら?二人してこんな早くからどうしたの?」

「キュルケこそ、こんな時間にどうしたの?」

 

使い魔の広場に行く途中で珍しく早起きなキュルケと出くわした。

 

「そうそう!さっきルイズが私好みのいい男と二人で出かけて行ったのよ!あのルイズが! しかもグリフォンに乗って!」

 

だいぶ興奮気味に話すキュルケに少しのけぞったが、いい情報だ。やっぱり空を飛ぶ生物に乗っていったみたいだ。

あたしたちの方も簡単にだが事情を説明したら、キュルケも手伝ってくれるということだった。

 

「アルビオンにつくまでに追いつけたらいいんだけど」

「んーどうかしら、アルビオン行の船に乗るにはそれなりの手続きがいるから多少時間稼ぎにはなるだろうけど…」

 

キュルケたちの話によると、アルビオンは空に浮く島らしい。すごくファンタジーだ。しかもそこに行くための船は一日に数本しかないらしく、どっちみち港で足止めを食うはずだと。

 

「だとしても港町も広いし、着いてから見つける方が大変かも」

「それは大丈夫だと思うよ」

「でもあなた、今魔法が使えないんでしょう?」

「ソウルジェムとあたしはつながってるからね、大体の場所はわかるんだ」

「…」

 

キュルケはそれは便利ねと笑っていたが、タバサはあたしをじっと見ているだけだった。

 

「どうしたのタバサ?」

 

その様子に気が付いたキュルケが聞くと、

 

「…サヤカ、調子悪い?」

 

そう、あたしに問いかける。

結構気を付けていたつもりだけど、見抜かれていたらしい

 

「嘘をついても仕方ないよね。うん、今はあまり調子がよくないんだ」

「それはルイズがソウルジェムを持って行ったことと関係あるわけ?」

「まあ、関係あるっちゃあるかな?」

「あのばか、人の物を勝手に持っていくなんて何考えてるのよ」

 

キュルケはそう怒ってくれた

 

「いや、あたしもちゃんと説明してなかったのが悪いから」

「でも、本当に大丈夫?さっきよりも顔色が悪いけど」

 

ソウルジェムの結界を維持するのはっそう難しくはないが、ある程度こっちに魔力が流れるように調整するのは骨が折れる。しかも今はガンダールヴを通した細いライン越しだ。

 

「まだ大丈夫だよ。だけどなるべく早く追いつきたい」

 

歩きながら話していると広場についた

 

「きゅるるるる」

 

広場にはすでにシルフィードが待機していた。

三人もいるから乗れるか心配だったけど、意外とシルフィードの背中は広くて、ぜんぜん余裕だった。

 

 

 

取り敢えず、シルフィードの背中にいる間は安全だ。

前からタバサ、あたし、キュルケの順で乗る。

 

「サヤカ!あなたすごい冷たいじゃない。まるで死体よ!」

 

その言葉に少しショックを受けたが、碌に魔力を流せないこの体が冷たいのは事実だからしょうがない。

 

「私の事は気にしなくていいから、こっちに体を預けなさいな。温めるわ」

 

やっぱりキュルケは優しい。

 

「ママ…」

「ま!? ふざけてないでさっさとこっちに来る!」

 

無理やり引っ張られると、あたしの身体は抵抗なくキュルケの胸に収まった。

 

「あなた、こんな状態で動いてたの?」

「大したことないよ」

「大したことよ!後でルイズを叱らなくちゃね」

 

そう言ってキュルケはあたしの頭をなでた。

 

「あまり怒らないで上げて、ルイズは何も知らないだけだから」

 

そう、ルイズは何も知らないのだ。ソウルジェムの真実も、ガンダールヴのルーンの真実も。

 

彼女がその真実を知ったらきっと悲しむのだろう。

 

『使い魔の契約はどちらかが死ぬまで終わらない』

 

いつかそんな話をされた気がする。

このまま使い魔のままでいたら、あたしはどうなってしまうんだろうか?

ガンダールヴのルーンが、あたしが元の世界に戻ることを許すとは思えない。

 

なら契約の解除方法を探すべきだろう。

どちらにしても一度ルイズと話をしなくては。

 

そんなことを考えながら、あたしはキュルケに身を任せた。

 

 

 

 

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