投稿日時を間違えていたので今日投稿します。すいません
シルフィードの背中に乗り、キュルケに体を預けながら、あたしはぼんやりと空を見ていた。
結構な時間飛んでいるが、港まではまだまだ時間がかかるらしい。
「タバサ、どれくらいで着く予定なの?」
「…休憩もしないと、この子がばてちゃう」
それも考えたら2日ほどだとタバサは言った。
「それじゃあ野宿ね」
「タバサが色々準備してたのって野宿の準備だったんだね」
その言葉にタバサはコクっとうなずく。
いくら風竜でもさすがに長時間飛び続けるわけにはいかないらしい。風の匂いが心地よく、背中で感じる振動に体が少しずつ慣れていく。
どれくらい飛んだだろうか、少し開けた森の中に着地した。タバサは静かにシルフィードを降りる。
「きゅい!」
「…お疲れ様」
あたしたちも降りるとシルフィードはほめてほめてとタバサにおでこを擦りつけていた。
夜は冷えるからと焚火の準備を始めたタバサとキュルケを手伝おうとしたが
「病人はおとなしく寝てなさい」
とキュルケに無理やり横にされた。正直、体は重いままだったから助かった。
寝ていろと言われたから一応目をつぶる。
二人ががさこそと準備している音を聞きながら、ソウルジェムの場所に意識を集中させると。どうやらあちらもどこかで野宿なのか動きを止めていた。
あまりにも遠いため正確な位置はわからないが、相手の方が移動は少し早いようだ。
意識を現実に戻す。
「サヤカ、調子はどう?」
「まあ、ぼちぼちかな」
火はキュルケが魔法でつけたようだ。こういうところはこの世界の便利なところだろう。
シルフィードは疲れたのか眠っている。タバサはそれによりかかるようにして本を読んでいた。
「タバサ。そんな暗いところで本読んで、また目を悪くするわよ」
「…」
「タバサは本当に読書が好きだねえ」
逆に本を読んでないときの方が少ない。
「今日は何を読んでるの?」
「『月影の森の小さな守り手』」
「それ、前も読んでなかった?」
「……これしかなかった」
どうやら急いで準備していたせいで、今日は新しい本がないらしい。彼女としては物語の中に没入するのが好きみたいだから、内容がかぶってたりはそんなに気にしていないのかもしれないが、あたしの事情に巻き込んだ手前少し罪悪感。
「よかったらあたしの世界の童話はなそうか?」
「サヤカの世界にも童話ってあるのね」
「そりゃありますよ。あたしの世界どんなとこだと思ってんのさ」
「魔女がはびこる終焉世界って感じね」
「ンなわけあるかい!」
横になったままキュルケとじゃれていると。タバサが本をしまっていることに気が付く。どうやらあたしの世界のお話に興味津々のようだ。
今日は色々付き合ってもらってるし、お礼になるかはわからないけど、あたしの世界の話で楽しんでもらえたらうれしい。
「ある寒い年の終わり、街の片隅で貧しい少女がマッチを売り歩いていました。―――
―――朝、通りすがりの人々はまるで眠るように穏やかな顔でこと切れている少女を見て「天国に行ったのだろう」と思うのでした。」
あたしはまずはマッチ売りの少女の話をした。タバサの呼んでいる本の系統的に好きかなと思ったからだ。
「おしまい」
「ええ、こんな悲しい結末なの!なんで町の人々は女の子を助けなかったのよ!」
キュルケは話の結末に納得できていないよう、こうすればああすればと言っている。
タバサはというと
「…女の子は大好きなおばあちゃんと再会できた?」
「きっとできたよ」
結構気に入ってくれたらしく色々聞いてくる。
やいのやいのと話し終えた頃。もう一話だけとせがまれた
「今度は何か恋の話とかない?」
「恋の話?」
「そうよ、私最近有名な作家の演劇を見てね。それはもう切ない恋の話だったのよ!そんな感じの話!」
「ええ、急に言われてもなあ」
恋の話恋の話・・・
「じゃあ人魚姫とかどう?」
「人魚姫?」
「そう、海のお姫様が地上の王子に恋をする話」
「いいじゃない!聞かせて!」
そんなキラキラした目で見られると断れないなあ、と今度は人魚姫の話を始めた。
「これはある海のお姫様のお話。
彼女は海の底で父や優しい姉妹たちと共に何不自由なく幸せに暮らしていました。―――
―――姫はその王子に一目ぼれして魔女に願います。―――
―――しかし王子は彼女に気が付くことはなく別の女性と結婚の約束をしました―――
―――王子を殺せば助かる、そう姉たちは人魚姫を説得しました―――
―――しかし人魚姫は王子を殺せませんでした。王子の事を愛していたからです―――
―――そして人魚姫は泡となって消えてしまうのでした。」
おしまい。
とあたしが言うと同時
「サヤカ!」
両肩をガシッとつかまれる
「あなた作家になりなさい」
目の前には鼻水と涙でちょっと人には見せられない顔になっているキュルケ
「いや、これあたしが考えた話じゃないし」
「これこそ舞台にするべきだわ!私の全力でバックアップするからこの話を世に広めるわよ!」
「話聞いてないじゃん…」
キュルケは思った以上にこの話を気に入ったみたいで、本気で舞台にするつもりみたいだ。
「手始めに小説にするわよ」
「ええ…」
まあよく考えたらこの世界には存在しない話だし。著作権の概念があるかも怪しいから犯罪にはならないだろう。
そう結論付けたあたしは、キュルケに流されるがまま舞台化まですることになることをこの時のあたしはまだ知らない。