ゼロの人魚姫   作:北町スイテイ

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第39話「あたしにはさ、神様がついてるんだ」

~さやか~

 

出発して二日目の夕方ごろには港に着くことができた。

 

「サヤカ、ソウルジェムはここにはありそうなの?」

「いや、間に合わなかったみたい」

 

しかし、一足遅かったようで港からソウルジェムの反応はなく、さらに早く移動を開始していた。

 

「次のアルビオン行の船を待つしかないようね」

「キュルケも、タバサも、こんなことにつき合わせちゃってごめんね」

「そんなこと気にしなくていいわよ。友達なんだから」

「…気にしてない」

「そんなことより、船が出るまでどうせ暇だし、ちょっと観光でもしていきましょうよ」

「って言ってもあたし一文無しだよ?」

「そんなの私が出すわ」

 

そういうとキュルケはあたしの腕を引っ張る

 

「それに、今回の件はルイズが悪いんだから。今日遊んだお金は後日三倍にして請求するわ」

 

最後にあたしにウィンクする。

 

「ここには有名なお風呂があってね。何でもお湯をためてそこに体を沈める”オンセン”っていうのが有名らしいわ」

「温泉?!」

 

前々から思っていたが、この世界は中途半端にあちらの世界の文化が混ざっている。

 

「しばらくシャワーも浴びれなかったし。一緒に行きましょう」

 

正直あたしとしてはもうずいぶんと浴槽に浸かっていないし、あまりにも魅力的な誘いだった。

 

「まあ、船が来るまでできることないもんね…」

「そうそう、一番早い便も明日の朝早くだし、今は体を休めるときよ」

「それもそうか」

 

結局あたしたち三人で温泉に入り、適当な宿で過ごすことになった。

 

 

 

 

 

 

―――その夜。部屋の窓を開け、あたしは重なり合う二つの月を見ながら考え事をしていた。

 

今回の事件がなければ、あたしはガンダールヴのルーンの影響に気が付けなかったかもしれない。そう思うとぞっとしたが、同時に思った。

 

(それも悪くなかったのかな…)

 

正直あちらの世界に帰ったとして、あたし一人でいったい何ができるというんだろう。

あたしは弱い。魔法少女としても人間としてもあまりにも弱すぎる。

魔法少女になった時、どんなことがあっても後悔なんてしないと思ってた。

でも結果はどうだろう。あたしはあまりにも多くの人に迷惑をかけた。

 

後悔しないようにって言ってたマミさんとの約束を守れなかった。

 

心配してくれるまどかを傷つけた。

 

ほむらの事を信じてあげられなかった。

 

杏子をあたしの自滅に巻き込んだ。

 

 

こんなあたしがしゃしゃり出て、状況がまた悪い方に行ったら…

 

そもそも助けに行くべきなのだろうか?

その気持ちも、円環の理としてのあたしがそうしなきゃいけないと思い込んでるだけじゃない

と、どうしていえるのだろうか。

 

結局、あたし自身がどうしたいかがないのがいけないんだろう。

 

「どうしたのサヤカ、眠れない?」

 

同室で寝ていたキュルケが、あたしの気配に気が付いてか起きてきた。

 

「ごめん、寒かった?」

「別に平気よ。あなたこそ寝なくて平気なの?まだ調子は良くないんでしょ?」

「大丈夫だよ。もともと寝なくても平気だから」

「それは魔法少女だから?」

「………あたしが特別だからかな」

 

どうしてかな、今日は少ししゃべりたい気分だった。

 

「特別…前にも似たようなこと言ってたわよね」

 

確か魔女の説明の時に、あたしは特別だって話したっけ。

 

「あたしにはさ、神様がついてるんだ」

「神様?」

「そう、神様。その神様はほんとにたくさんの魔法少女を助けてきたんだ。本当に数えきれないほどのね」

「それはあなたの世界の・・・魔法少女の神様ってこと?」

「そうだね、魔法少女たちの神様…そうかもしれない」

「その神様とあなたがどうかかわってくるの?」

「あたしはさ、その神様に最初に助けてもらったんだ」

 

まどかの願いは、まどかがそれを願った時間、時空を起点に未来と過去に広がっていった。

だから最初に救われたのは、時間的にも場所的にも一番近かったあたしなんだ。

 

「まどかはあたしの大切な親友だった。だから特別扱いしてくれたのかな?」

「…」

「だからあたしは特別。ビップ待遇の魔法少女なんだ。」

 

自虐的に言う

本当に多くの物をまどかは救った。でもその中にまどか自身は入っていたのだろうか?

 

「ずっと頑張るあの子を見てきた」

「…」

 

要領を得ないあたしの話を、キュルケは静かに聞いてくれてる。

賢いキュルケの事だ、またあたしがごまかしていることぐらいお見通しだろうけど、それを許してくれるキュルケは本当にすごいと思う。

だから今は少し甘えさせてもらおう。

 

「あたしずるい子なんだ。ズルをしてここにいる」

 

あたしの願いをなかったことにしないでいてくれたまどかに感謝してる。だからこそあたしはまどかのそばでまどかを守っていくし、一人にはしない、と思ってた。

 

「いつもあたしは中途半端。役目を放り出してこんなところでルイズの使い魔してる」

 

なのに、ガンダールヴのルーンの効果なのか、今は自分の役割に疑問を持ってしまった。

ほむらがやったことは、本当にいけないことだったのか…と。

 

「あたしはいつかあっちの世界に帰るけど、それが正しいことかどうかわかんなくなっちゃった…」

 

円環の頃のまどかと、今のまどか。どちらが幸せなんだろう。

円環としてではなく、美樹さやかとしてあたしはいったいどうしたいんだろう。

 

「サヤカ…」

「なーんて!ちょっとアンニュイな気分になってただけ!」

 

明るくそう言うけれど、本当はちっとも前を向けそうになくて。窓から街並みを見下ろした。

 

すると背中にやわらかいぬくもりが覆いかぶさってきた。

一瞬ぎょっとしたが、おとなしくされるがままにした。

 

「そんなに悩むなら、答えが出るまでここで考えればいいじゃない」

「……いいのかな」

「そんな急がないといけないの?」

 

…悔しいけど、ほむらが作った新しい世界は平和だ。あそこにいる間、悔しいけどあたしも幸せな気分だった。こんな未来があればな、と思った。身に余るほどに。一秒でもこの時間が続けばいいのにと思ってしまうほどに―――

おそらくそれはほむらも同じだろう

 

「時間は、あると思う…」

「ならいいじゃない。まだ帰る方法も見つかってないんだし、見つかった時にまた考えましょう。一緒に考えてあげるから」

 

そう言って、また昨日のように頭をなでてくれた。

 

「キュルケってさ、あたしの事子ども扱いしてる?」

「あら?今頃気が付いたの」

 

でも、悪い気はしなかった。彼女の母性がそうさせるのか、不思議とキュルケは相手を安心させる才能があるらしい

 

「これでもあたしは精神的には子供じゃないんですけど?」

「それは処女を卒業してから言いなさい」

「しょっ!」

 

と思ったが急に爆弾を投下してきた。

 

「ちょ、な、あ、な」

「安心なさい、初めての時は私が手伝ってあげるわ。それとも今から練習がしたいかしら?」

「しない!しないから!」

「あら、ざんねん」

 

おそらくあたしを気遣って言った冗談だろうけど、あの色気で言われたら本気かと思っちゃう。

 

 

そのあと改めて睡眠は必要ないという話はしたが、「なら抱き枕になりなさい」と布団に引きずり込まれた。

なんだか手つきが怪しかったがおそらく寝ぼけていたんだろう。うん、きっとそうだ。

 

 

キュルケが言うように、ゆっくり考えよう。焦らなくても時間はあるはず。

 

そんなことを考えながら、暖かいキュルケの腕の中で目を閉じるのだった。

 

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