~キュルケ~
ベッドの中に引きずり込んだルイズの使い魔は、驚くほど素直に私の胸に収まっている。
普段のこの子なら、簡単に振りほどけるはずなのに。
今はそれすらできないほど弱っている。
ソウルジェムを奪われたせいか、力が抜けたように静かだ。
呼吸はしているけれど、どこか薄い。
あのフーケの一件から、この子と本格的に関わるようになった。
土くれのフーケーーー
けれど私の脳裏に焼き付いているのは、フーケのゴーレムではなく、血だまりから這い出たあの大きな影。
オクタヴィア。
最初に見たときは、さすがに気が動転した。
得体の知れない存在。
常識から外れた魔力の塊。
それでも、不思議と震えはこなかった。
恐怖より先に、胸の奥に引っかかるものがあった。
サヤカは、あれを自分だと言った。
『あたしは癒しの祈りで魔法少女になった』
あの時の顔。
強がっていたけれど、指先は少しだけ震えていた。
キョウスケ、と呼んだ名前。
なるほどね、と私は思った。
あの魔女は、叶わなかった恋の成れの果て。
選ばれなかった想い。
届かなかった祈り。
恋が壊れるなんて、珍しいことじゃない。
あの魔女は、失われた恋の残骸だ。
……嫌いじゃないわ、そういうの。
腕の中の少女を見る。
眠らないと言っていた。
だからきっと、目を閉じているだけ。
けれど、その睫毛は静かに影を落とし、唇は柔らかく閉じられている。
こうしていると、随分年下に見える。
いつもの余裕ある物言いで、つい対等に扱っていたけれど——
社交界の灯りの中に立たせるには、まだ早すぎる気さえする。
ドレスよりも、制服の方が似合いそうな、そんな年頃。
この二日の旅で、少しずつ見えてきた。
体調が悪いくせに、自分から手伝うと言い出す。
ふらついているのに、笑って誤魔化す。
休ませようとすれば落ち着かない。
何かをしていないと、不安になるらしい。
尽くすことで、自分の価値を確かめてるのかしらね。
……危なっかしい。
私は、好きになったらちゃんと尽くす女よ。
でも、それは余裕があるからできるの。
愛が永遠じゃないことを知っている。
心が冷めることもあると知っている。
燃えるときは燃える。
消えたら、それまで。
泣き縋ったりはしない。
未練も抱えない。
この国に留学させられたのも、大人たちの恋の後始末。
愛し合った結果。
それだけの話。
別に不幸だなんて思っていない。
それもまた、愛の形。
でも、この子は違う。
一直線で、疑いを知らない。
恋に身を投げたら、
きっと溺れるまで泳ぎ続ける。
壊れるとわかっていても、止まらない。
放っておいたら、全部差し出して、
最後には何も残らなくなる。
無意識のうちに、腕に力を込めていた。
ぎゅっと抱き寄せる。
一瞬だけ体が強張る。
それから、ゆっくりと力が抜ける。
私の胸元に、素直に体重を預ける。
ああ、ほんとに。
こんなに軽いのね。
あなたが自分を大事にできないなら、
その分は私があなたを思いっきり大事にするわ。
今はまだ難しいかもしれないけれど
私の腕の中にいる間くらいは、
誰かのためじゃなく、自分のために休みなさい。
炎は、ただ焼くだけじゃない。
凍えたものを温めることもできるのよ。