ゼロの人魚姫   作:北町スイテイ

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第42話「ルイズには、このこと話さないでほしい…」

朝一のアルビオン行の船に乗り、出航までもう間もなくという時だった。

 

「っ!」

 

船に乗ったあたりから、ガンダールヴのルーンがしきりにうずいていた。

なにかしようとしているが、何をしようとしているかわからないため、念のため結界を強めた。そのせいかソウルジェムとのパスは思った以上に細くなり、立つこともままならない。

仕方なしに部屋のベッドで横になっている。

 

「サヤカ、あなた本当に大丈夫なの?」

「っ、だ、だいじょうぶ」

「全然大丈夫に見えないわ」

 

横ではキュルケが心配そうに私の事を見つめている。

握っているキュルケの手のぬくもりが、今はとても心強かった。

 

「こんなに冷えて、脈も薄いわよ。町の医者に見せましょう?」

「それは、だめ」

「サヤカ…」

 

これ以上距離を離されても、ガンダールヴのルーンが届く保証はない。一刻も早くルイズに追いつきたかった。

それに、これは病気やケガではない。医者に見せたところで何かわかるとは思えないし、もし万が一何かわかってしまったら、それはそれで面倒だ。

魔法という存在がある以上、化学ではわからないこともわかってしまうかもしれない。

 

「心配はうれしいけど、――――」

 

あたしが言葉をつづけようとした時だった。

 

「――っ!」

 

先程とは違う、魔力の枯渇ではない。明確な痛み。

 

「――ぁ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

 

体の中を直接かきむしるような、あたしの痛覚遮断すら無視するこの痛みは―――

 

(ソウルジェムが直接攻撃されてる!?)

 

「サヤカ!」

 

キュルケが、痛みのあまりもだえるあたしの肩を抑える。

 

「タバサ!シルフィードを呼んで!」

「わかった」

 

痛みに思考を支配されながら、部屋を出ようとするタバサにあたしは無我夢中で近くにあったキュルケの腕をつかんだ。

 

「まって!」

「駄目よ。このままじゃあなたが持たないわ」

 

あたしの声にタバサは一度足を止めてくれていた。

あたしがキュルケをつかんだ手を、やさしく解こうとするキュルケに、もうこれ以上隠しては置けないと悟る。

 

「話す…話すか、ら」

「話すって、何をよ。言っとくけど説得しても無駄よ。あなたをこのままにするくらいなら、無理やり縛って医者の所に連れて行くから」

「…」

 

その意見にタバサも賛成のようだ。

 

「あたし、がこうなってる原因、は、もうわかってるから、だから医者はいらない」

「信じられないわ」

「信じられなくても、いい、でも最後まで、聞いてほしい」

 

胸を押さえ苦しみながら。懇願する。

この痛みは間違いなくソウルジェムに何かあった時の痛みだ。あたしにとってソウルジェムがどれだけ大切か知っているはずのルイズがそんなことをするとは思えないから、きっとなにかあった。

予想だけど、ガンダールヴのルーンがしきりに疼いていたのも、ルイズの身を守ろうとするルーンの効果だったのだろう。

また急ぐ理由が増えた。

 

「あたしのこの症状は、ソウル、ジェムと離されたのが、原因」

「なんとなくそんな気はしてたわ、でもなんで今になってこんなに悪化してるの」

「それは――あ゛ああッ!!」

 

また衝撃。

視界が一瞬白く弾ける。

喉が勝手に鳴る。

肺が空気を吐き出して、吸えない。

 

「サヤカ!」

 

痛みをごまかすように自分の二の腕をつかむ

 

「一つだけ……約束してほしい」

「あなた今自分がどんな状況かわかってる?!」

「お願い。キュルケ、タバサも。」

 

頑ななあたしの態度に、焦った表情のキュルケが分かったから早く言いなさいと先を促す。

 

「ルイズには、このこと話さないでほしい…」

「あなたの身体の事よ!なんで隠すの」

「……」

「ああ、もう!わかったわ。ルイズには絶対に話さない。これでいい?タバサもいいわね」

 

コクっとうなずくタバサ。それを確認してあたしは話し出す。

 

「多分だけど、ルイズが危ないんだと思う」

「ルイズが?」

「使い魔のルーンはまだ消えてないから、命は大丈夫なんだろうけど」

 

手元の輝くルーンを掲げて見せる。

 

「なんで光ってるの?」

「多分だけど、あたしにルイズの危険を知らせてるんだ」

 

 

 

あたしはこの前図書室で調べたガンダールヴのルーンの効果について話した。

 

「信じられないわ、あの子が虚無の使い手だなんて」

「それは、間違いないはずだよ、ルーンの形も完全に一致したし」

 

胸の痛みはいつの間にか引いていた。何があったかわからないけど、まだ体が動くことから、ソウルジェムはルイズの近くにあるのは間違いない。

 

「だとしても、そのルーンがあなたを苦しめている理由がわからないわ」

 

そう、きっとガンダールヴのルーンだけだったらこんなことにならなかったんだろう。本来これはルイズを守れるようにルーンの持ち主を助ける役割だったはずだ。

だけど―――

 

「使い魔のルーンは、体に刻まれているようで、本当は魂に刻まれるんだと思う」

「魂?」

「そう、ルーンを通して使い魔とご主人様の魂をつなげる。そういうものなんだと思う」

 

視界の共有などがいい例だろう

 

「本来、このルーンは私の魂に刻まれて、あたしとルイズをつなげるはずだった」

「はずだった?」

「あたしの身体は、いわば人形なんだ」

「人形?」

「…」

 

あたしの言葉にキュルケは理解できないという顔をしていたが、タバサは何か別の事を考えているように見えた。

 

「ソウルジェムがインキュベーターとの契約で作られるって前に説明したのを覚えてる?」

「覚えているわ、だからあなたはあれがないと魔法が使えないんでしょ?」

「そうだね、でも正確ではない」

「正確じゃないってどういうこと?」

「……」

 

急に黙るあたしにキュルケは眉をひそめる。

そんなキュルケに代わり、タバサが一歩前に出る

 

「正確じゃないって、どういうこと?」

 

積極的とは言えない彼女が前に出てきたことに少し驚く。冷静そうに見えて、案情に厚い子だ。きっとあたしの身体を案じているんだろう。

 

「インキュベーターは宝石を作ってるんじゃなくて、入れ物を用意しただけなんだよ」

「入れ物?」

「そう、あたしたちから取り出した――――

 

 

 

―――魂を入れるためのね」

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