ゼロの人魚姫   作:北町スイテイ

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すいません、まだストックはあるのですが3.4月は忙しい時期のため更新が不定期になる可能性がございます。


第45話「では誓いのキスを」

~ルイズ~

 

体の自由を奪われた私は、ふわふわとした感覚のまま、肩を抱くワルドに導かれて廊下を歩いていた。

 

「ウェールズ様、今よろしいですか?」

 

やがて廊下で兵士たちに何やら指示を出しているウェールズ皇太子を見つけると、ワルドが声をかけた。

けれど、私の思考には靄がかかったようで、自分から何か行動を起こすことができない。

 

「どうしましたか?」

「実は殿下にお願いがあって参りました」

「お願い?」

 

そう言ってワルドは、私の身体に腕を回す。

 

以前の私なら、きっと頬を染めて恥ずかしがっていたのだろう。

けれど今、胸に湧き上がるのは嫌悪感だけだった。

 

それでも、その腕を振り払うだけの力は、今の私にはない。

 

「実はこのたび、ここにいるルイズと結婚することになりまして。どうか立会人になっていただけませんか?」

「なんと……」

 

違う。いやだ。結婚なんてしたくない。

 

そう思っているのに、身体はまるで動かない。

 

それに気づかぬまま、ウェールズ皇太子が私の方を見る。

その眼差しは、どこか微笑ましいものを見るようで、それでいて少し切なげだった。

 

「すみません。どうやら彼女、照れてしまったようで」

 

怪しまれたと思ったのか、ワルドが慌てて取り繕う。

 

「それで、引き受けていただけますか?」

「ええ、もちろん」

 

当然、私の心の声など届かない。

ウェールズ皇太子は、ワルドの頼みを受け入れてしまった。

 

「今は少し立て込んでいてね。少し待ってもらえるかな?」

「いえいえ。無理を言っているのはこちらです。あなたに祝福していただけるだけでも、恐れ多いことです」

「私はそんなたいそうな存在ではないよ。では、私はこれで。準備ができたら上の教会へ向かうので」

「わかりました」

 

そう言って、ウェールズ皇太子は再び兵士たちのもとへ戻っていった。

 

「ルイズ。これで私たちは、晴れて夫婦になれる」

 

ワルドが静かに言う。

 

「今はまだ納得できないかもしれない。けれど、いつか必ずこの選択が正しかったと、君も思い知るはずだ」

 

そうして彼は、私を元の部屋へ連れ戻した。

 

このままでは、本当に結婚させられてしまう。

 

そう思ったとき、不意にサヤカの笑顔が頭をよぎった。

 

ポーチの奥に入れたソウルジェムに意識を向ける。

そこにあるはずのない体温を、必死に探す。

 

なんで、一人で来ちゃったんだろう。

 

意地なんて張らなければよかった。

 

もし、この場にサヤカがいたなら。

私を助けてくれただろうか。

 

ソウルジェムを奪った、私を――。

 

もう一度あなたに会って、謝って。

また今までみたいに一緒にいられるなら、どんな対価だって払える。

 

あなたといた時間は短かった。

それでも、その時間は――私の人生の中で、いちばん輝いている。

 

そのお礼だって、まだ言えてないのに。

 

「おや? どうしたんだい?」

 

気がつくと、自由のないはずの私の瞳から、一筋の涙がこぼれていた。

 

「悲しむことはない。この任務が終わったら、ゆっくり話そう。君が納得するまでは自由にさせてあげられないけど、血の誓いさえあれば家に帰すこともできる。寂しがらなくていいんだ」

 

見当違いな慰めの言葉が、ただ苛立ちを募らせる。

 

サヤカ。

サヤカに、会いたい。

今はただ、それだけを願っていた。

 

コンコン。

 

「ワルド様、ルイズ様。準備ができたと、ウェールズ皇太子が」

「今行くよ」

 

ワルドはそう言って、私の手を取る。

まるで私をリードするかのように、教会へとエスコートしていく。

 

いつの間に用意されたのか、兵士が白いベールを私の顔にかけた。

 

「今はこれくらいしかないけど、あとできちんとした式もするからね」

 

触れられたところが気持ち悪い。

あんなに安心できたはずの彼の声も、今はただ煩わしかった。

 

教会には兵士たちが並び、ステンドグラスの下には正装したウェールズ皇太子が立っている。

 

「皆の者。この厳しい戦況の中、よく戦ってくれている。最近は気の滅入る知らせばかりだったことと思う。しかし、今日は久方ぶりの朗報だ」

 

皇太子は声を張り上げる。

 

「今この場にいるジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドと、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。両名が、今ここで夫婦となる。どうか皆、祝福してほしい」

 

そう言って、ウェールズ皇太子は私たちを前へと招いた。

 

ワルドに導かれるまま、私は皇太子の前へと進む。

 

「ワルド子爵。あなたはこの女性を妻とし、愛し、守ることを誓いますか」

 

「誓います」

 

ワルドは、よどみなく答えた。

 

「ルイズ。あなたはこの男性を夫とし、共に生きることを誓いますか」

 

誓うわけない!

 

そう思っているのに、口から別の言葉が出そうになる。

 

「ちか……い……」

 

渾身の力で唇を引き結ぶ。

あまりにも強く噛み締めたせいか、唇が切れた気がした。

 

「ルイズ嬢?」

 

さすがに怪訝に思ったのか、ウェールズ皇太子が私の顔を覗き込もうとする。

 

「声が小さいみたいだよ、ルイズ」

 

ワルドがローブの中で杖を振った。

 

『誓います』

 

私の口ではない場所から、私の声が響く。

風の魔法だ。

 

ウェールズ皇太子には、ベールの中の私の口の動きまでは見えない。

 

「では――誓いのキスを」

 

いや。

いや、いや、いや。

 

ワルドが私のベールをめくる。

 

その顔が、ゆっくりと近づいてくる。

吐息が頬に触れる。

 

唇が――

 

あの日。

初めてサヤカとキスをした日。

 

あれが、私のファーストキスだった。

それが今、別の男に上書きされるなんて、嫌だった。

 

どうして、あなたじゃないの?

 

そう考えている自分に驚いて、そして気づいた。

 

ああ、そうか。

 

私、サヤカのことが――――

 

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