ちょっとドタバタしつつも、彼女の正義感は揺るぎません。
「ルイズ! 待ってよ! 待ってってば」
早足で歩いて行くルイズに追いついたあたしは、ルイズの肩を掴んで止めた。
そうしなくちゃルイズはどこまでも歩いて行きそうな勢いだったからだ。
「どうしちゃったのルイズ、らしくないじゃん」
とりあえず声をかけることにしたけど。当のルイズは俯いたまま顔を見せてはくれない。
ルイズと知り合ってまだ日は経ってないけど、ルイズが自分の悪口なんかでこんな簡単に落ち込むような玉には見えない。何か理由があるはずだと思う。
「ごめんね・・・」
しばらくするとルイズは弱々しい声であたしに謝ってきた。
「へ?」
それに対してあたしは間抜けな反応を返したわけだけど、ルイズはそんなこと全然気にしていないようだった。
「私のせいであんたまでバカにされちゃった」
ルイズがそんなことを考えてるとは夢にも思わなかった。
「私に無理やり召喚されたばっかりに、やな思いさせちゃったから」
あんなにも強く見えたルイズが体以上に小さく見えた。
自分がバカにされることよりも人がバカにされる方が辛いだなんて、本当にどっかの誰かさんみたいで、さらにほっとけなくなってしまった。
「そんなこと全然気にしてないよ」
あたしはさらにルイズの肩を引くと腕の中にルイズをしまい込むように抱いて続けた。
「あたしはあんたがどんな人生を歩んできたか、どんなことができてどんなことが出来ないか・・・まだ全然知らないんだけどさ。あんたが優しいってことはなんとなくわかるんだよね。」
「サヤカ?」
「前のあたしにはそれが全然わからなくて、取り返しのつかない失敗しちゃったこともあったけどさ。今ならもう間違えない」
今でもあの時のこと後悔してる。
杏子の優しさに気づけなかったこと、杏子をあたしの自己満足な破滅に道ずれにしてしまったこと。
あの時、もっと杏子と話をしていれば、もっと違う結末があったのかもしれない。
そう思うと、目の前のルイズが愛おしく感じた。
「何も知らないからこそ、ルイズのことを余計な偏見なしで見れるんだ。ルイズは強いよ。他の人がどんなにルイズをバカにしたって、あたしがルイズを認めてあげる」
ルイズの肩が少しこわばったような気がした。
「ルイズは・・・ルイズの心は誰より優しくて強い。それはさ、力とか能力とかなんかよりも、大切で尊いものだ。だからそんなルイズの使い魔でよかったって思うよ」
「サヤカはわたしの大切な友達よ」
「2人きりの時はね。
でも人前では使い魔扱いするってあんたが言ったんじゃん。」
「でも今は誰もいないわ」
「むむ! 揚げ足をとるとは、ルイズ・・・恐ろしい子!」
ルイズの肩から力が抜けて、笑ったのがなんとなくわかって安心する。
ルイズを抱えるあたしの腕にルイズの手が添えられる。
「ありがとうサヤカ」
「ん、苦しゅうない」
「少し、気が楽になったわ」
もう大丈夫だろうと思い腕を外した。
それと同時に振り返ったルイズの顔はもういつも通りで―――
「メイジの実力を見るなら使い魔を見よっていうなら」
力強く―――
「きっとあんたを召喚した私は最高のメイジになるわね」
そう言ったルイズの顔にあたしはしばらく見惚れるのであった。
あたしがルイズの笑顔にやられる事件のすぐあと。ルイズがあたしを連れてきたのは、調理場だった。
「ルイズこんなところになんの用?」
「あんたのご飯よご飯。あんた昨日から何も食べてないでしょ?」
「そうだっけ?」
「生徒用の食堂では平民を椅子に座らせることはできないから。サヤカはここでご飯を食べなさい。終わったらあとは好きにして」
この体になってから、食事なんて特別必要なかったから気にならなかったけれど、普通ならおなかが空くころか。
本当は食べなくても平気だけど、どうしたものか。
「ちょっとそこのあんた」
ルイズはせわしなく働く黒髪のメイドの1人を呼び止めた。
ん?黒髪のメイド?
「あ、シエスタ」
「サヤカさん」
向こうもあたしに気づいたみたい、嬉しそうな顔をしたがその横のルイズを見ると慌てて頭を下げた。
「どのような御用でしょうか?」
「サヤカ、あなたこの子知り合い?」
「うん、朝の洗濯の時にお世話になってね」
「そう、なら丁度いいわ。あなた、シエスタとか言ったわね、あたしの使い魔がこれからここで食事をすることになると思うから、この子の面倒を見てあげて」
「かしこまりました」
シエスタは少し驚いていたが、嫌な顔をせずに引き受けた。当たり前か、貴族相手に嫌な顔とかしないもんね。
「そういうことだからサヤカ、私は食堂に行くわね」
「うん、ありがとうルイズ」
「とも…主人として当然のことをしたまでよ!」
そういうとスタスタと去って行った。
友達と言いかけて真っ赤になっていたのは非常に眼福であったとここに記しておくことにする。
「サヤカさん、それではこちらに」
「あ、うん」
シエスタについて行くと案内されたのはこじんまりとした食堂だった。奥にはガタイのいいコックがいる。
「おうシエスタじゃねえか」
そのコックが話しかけてきた。
「なんだそいつは」
じろじろとあたしを見るコック。そこにはなんだかいい感情がないような気がした。
あたしが制服を着ているからかな?
「マルトーさん、この人はミスヴァリエールの使い魔でサヤカさんです。サヤカさんこちらコック長のマルトーさん」
「どうも」
「ほう、あんたが噂の使い魔か」
「はあ」
そのあとまたじっとあたしを見たマルトーだったがすぐに興味を失ったのか自分の作業に戻ってしまった。
「ありゃりゃ、嫌われちゃったかな?」
「普段はあんな風じゃないんですけど、今日は忙しくて余裕がないのかもしれません」
シエスタはそう言って苦笑いを浮かべたけど、あたしはなんだか見透かされたような気持ちになった。原因はわからないけど、あのマルトーという男はあたしの何かに気づいたような、そんな気がしてならなかった。
それから余り物だといって随分いいものを食べさせてもらった。幸いあたしはどれだけ食べたって体型は変わらないからよかったけど、女の子としては体重が気になるくらいの量は食べた。
だってシエスタが嬉しそうに料理の紹介をするんだもん!食べないわけにはいかんでしょ!
「ありがとうシエスタ、どれも美味しかったよ」
「喜んでもらえて嬉しいです」
そう言って軽く飛び跳ねるような動作をしたシエスタのふくよかなものが揺れると、その拍子にそういえばと今朝のことを思い出した。
「今朝のお礼、そういえばまだしてなかったよね」
「いえいいんですよ!本当に」
「今回も食堂の案内とかさせちゃったし、このままだと申し訳無さすぎて、もうここに来れなくなっちゃうかも・・・」
「え! そんなあ・・・」
「そうなればあたしは食事もできずにそのまま・・・」
およよよよ、とわざとらしく目元を抑える。
きっとシエスタにはこれくらいがちょうどいいのだろう。結局、あたしの目論見通りシエスタは「仕方ないですね」と苦笑いしながらデザートの配膳という仕事を任せてくれた。
読んでくださりありがとうございます。
ルイズとの信頼関係も少しずつ深まっていく様子が描けたかなと思います。
次回は、サヤカの本領発揮!?
さらに派手に、そして少し危険な展開が待っています。
楽しんで読んでもらえたら嬉しいです。
キュルケ
名前:キュルケ
正式名:キュルケ・アウグステ・フレデリカ・フォン・アンハルツ=ツェルプストー
出身:ゲルマニア
年齢:17歳前後
性別:女性
立場:貴族・火のメイジ
ゲルマニアの名門貴族ツェルプストー家の令嬢。
トリステイン魔法学院に留学している火属性のメイジ。
奔放で自信家、恋愛にも積極的。
だがそれは軽薄さではなく、
「自分が何者で、何を望んでいるか」を理解したうえでの態度でもある。
本来の歴史では、
同室のルイズとは何かと衝突しつつも、
戦場では背中を預けられる信頼関係を築いていく存在。
炎の魔法を得意とし、攻撃力が高い。
一方で戦況や人間関係を冷静に見渡す視野を持ち、
感情だけで突っ走ることは少ない。