本作はキャラクターの感情や選択を軸に、少しずつ世界の輪郭が浮かび上がっていく構成になっています。
物語の流れや心の揺れを、肩の力を抜いて楽しんでいただけたら幸いです。
ところ変わってテラス。
あの後シエスタから手伝いを勝ち取ったあたしは、朝食の分はもう仕事がないということで、ほかの使い魔を見ながら広場で時間をつぶし、ただいまからデザートの配膳を開始するところであった。
「注意するのはそれくらいです」
「了解いたしましたメイド長どの!」
「ちょっとサヤカさん、その呼び方はやめてください」
「えーなんでよー。いいじゃんメイド長!」
「メイド長はもうほかにいるので、その、気まずいです」
「あはは、それはきまずいわ。ごめんね」
「わかってくれればいいんです」
「それでは、この美樹さやか、配膳に行ってまいります!!」
「気を付けてくださいね」
「りょーかい」
授業が終わったのか校舎から生徒が出てくるところだった。
何となくルイズの姿を探すけれど、見当たらない。
「どうしたんだろ?」
何か用事でもあったのだろうか、まあ絶対にテラスに出なくてはいけないというルールはないわけだし、もしかしたら教室でゆっくりしているのかもしれない。
あたしはあまり深く考えることもなく、配膳の続きをはじめた。
半分ほど終わったころ、テラスの一部が騒がしいことに気が付いた。
そこは確かシエスタが担当していた場所のはずだった。
(なにかあったのかな?)
あのシエスタがなにかミスをするとは思えないが、一応様子を見に行くことにした。
「君の心ない行動が、二人のレディの心を傷つけたんだよ。その責任は取ってほしいね」
「本当に申し訳ありませんでした」
近くまで来るとなにやら気ざったらしい説教が聞こえてきた。
意外なことに怒られていたのはシエスタだった。
彼女の声は聴いているこっちがかわいそうになるくらい震えている。
「シエスタどうしたの?」
放っておけなかったあたしはすぐにシエスタの横までやってくるとその肩に手を置いた。
「サヤカさん、心配させてごめんなさい。私が貴族様に無礼な行いをしたのです」
「そうだ。そこのメイドがこの香水を僕に渡しさえしなければこんなことにはならなかったんだ」
彼の話によると、彼がこの香水を落としてしまいシエスタがそれを拾いこの男、名をギーシュというらしいけどこいつに渡そうとしたわけだ。
しかし彼はそれを無視。そのままではまずいと再度声をかけたとき、ケティとかいう彼のガールフレンドがその香水がモンモランシーのものだと気づき浮気が露見、その場にモンモランシーもいたもんだから、一瞬のうちに修羅場になったうえ彼は二人に振られたという訳だ。
「はあ? そんなん二股したこいつが悪いに決まってんじゃん!」
「サヤカさん!」
そんな当たり前のこともわからないのというようにあたしは言いはなった。
「何だい君は」
「サヤカさんまずいですよ。早く謝ってください!殺されてしまいます!」
焦ったようにシエスタがあたしに言ったけど、そんなので止まれるほどあたしの正義の心はやわじゃない。
「中途半端な態度で女の子二人をもてあそんだんだ。これくらいのばちじゃ足りないくらいだよ」
「君は平民だろ。平民が貴族に盾突くのかい?」
「そんなこと関係ない! 平民でも貴族でも人間としておかしいことをおかしいっていうのに何で身分なんてものが出てくるのさ。それにあたしはこの国の人間でもないし、どこぞの国の貴族になんと言おうとあたしの勝手でしょ」
間違ってることを放っておくなんてあたしには到底無理な話だった。
思えばこの性格でいろいろ苦労もしてきたけれど、こんなあたしだって好きだって言ってくれるやつだっている。だからこそあたしはこの正義の心を持ち続けることができる。
だからあたしはここで引くわけにはいかない。
あたしは杏子にとってのもう一人の自分なんだ。そのあたしが折れるなんて、そんなことできるわけない!
「そうだぞギーシュ今のはお前が悪い」
おそらくギーシュの友人らしき生徒がギーシュをからかうように言った。
それにギーシュはひどくプライドを傷つけられたようだ。
忌々し気にあたしを見ると、思い出したぞと話し始めた。
「君、昨日ルイズが召喚した使い魔だね」
その言葉に嫌な予感がした。
「主人が主人なら使い魔も使い魔だな」
「どういう意味よ」
「おや? 君はまだ知らないのかい?。君の主人はね、ゼロのルイズって呼ばれてるんだよ。それが何でかわかるかい?」
「・・・」
「それはね、魔法の成功率ゼロのポンコツだからだよ」
そういうことか。
なんて・・・なんて・・・
「馬鹿馬鹿しい」
「ん?」
「そんな風にしか人を評価できないなんて馬鹿馬鹿しいって言ってんのよ」
あたしがそう言うと、ギーシュは顔を真っ赤にして、人目にも怒っているのがわかりやすい顔で言った。
「君は、僕のことを馬鹿と言ったのかい?」
「そういったつもりだけど、伝わってないかな?」
「貴様、どこまで僕を馬鹿にすれば気が済むんだ」
「先にあたしのご主人様を馬鹿にしたのはあんたでしょ?」
口論は平行線、どっちも譲るはずはない。ギーシュはその貴族主義な考えを変える気はないし、あたしはあたしで自分の正義を曲げる気はない。
そんな停滞してしまった空気を動かしたのは、掃除用具を投げ捨ててあたしのほうに駆け寄ってきたルイズだった。その様子から事情は大方聞いたらしい。
「ちょっとサヤカ!なにしてるのよ」
「ごめんルイズ、今取り込み中」
「取り込み中、じゃないわよ! 早く謝っちゃいなさいよ」
「謝る? 冗談じゃないわよ! こんな奴に下げる頭なんてない!」
「馬鹿! ほんとに馬鹿! ただの平民のあんたがメイジにかなうわけないでしょ。ケガだけじゃすまないわ!」
「こいつに謝らないことが馬鹿ってんなら、あたしは馬鹿で構わない。たとえルイズだろうと今のあたしは止められないよ」
「ゼロのルイズ、君は使い魔の躾すらまともにできないのかい? あきれてものも言えないね」
どこまでもルイズを下に見るギーシュの態度に、あたしのただでさえ細い堪忍袋の緒がついに切れた。
「言ってくれるじゃない。女の子一人幸せにできないへなちょこ男子が」
たぶんこの言葉が引き金だったのだろう―――
「怒った、僕は怒ったぞ!」
ルイズが顔面蒼白になったときにはもう手遅れで―――
「ルイズの使い魔! 君に決闘を申し込む!!」
「望むところだこらあ!」
売り言葉に買い言葉で、あたしはギーシュと決闘をすることになったのだった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
続きを書く力をもらいました。
次回第8話「オクタヴィア、オクタヴィアのさやか」