ゼロの人魚姫   作:北町スイテイ

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の物語を読んでくださり、ありがとうございます。
本作はキャラクターの感情や選択を軸に、少しずつ世界の輪郭が浮かび上がっていく構成になっています。
物語の流れや心の揺れを、肩の力を抜いて楽しんでいただけたら幸いです。


第8話「オクタヴィア、オクタヴィアのさやか」

「どうやら逃げずに来たようだね」

 

今あたしはこの学校の中心に位置するヴェストリの広場にいた。

あのボンボンめ、あたしをいたぶるさまをよほど多くの人に見せつけたいらしい。

 

「サヤカお願い、やめて」

 

広場について、いよいよ決闘だというときになっても、ルイズはあたしの説得をあきらめてはいなかった。

 

「ルイズ止めないで、この最低男をあっと言わせてあの女の子たちとルイズに謝らせるまではあたし止まらないよ」

「私はあんたが心配なのよ」

「安心したまえルイズ、仮にもレディだ、手加減はするよ」

「それはどーも」

「当たり所が悪ければ死んじゃうわ!」

 

ルイズがあたしのことを心配しているのはわかる。

でも少しくらいあたしを頼りにしてくれてもいいと思ってしまう。

 

「ルイズ、少しは自分の素晴らしい使い魔とやらを信じてみたらどうだい。君さっきの授業の時言っていただろう。『私の使い魔を馬鹿にしないで、彼女は私になんかにもったいない最高の使い魔よ!』って」

 

あたしは思わずルイズを見てしまった。ルイズがそんなことを言ってくれたのをうれしく思った。

 

「まあ、そのあと教室を爆発させて、掃除をさせられているんだから。ただの滑稽なたわごとになったわけだが」

 

と、同時に。そんなルイズの言葉を馬鹿にするこのボンボンを絶対にぶちのめすと決意した。

ルイズがテラスに来るのがずいぶん遅いと思ったが、そういうことだったのか。

 

 

ルイズはずっとこんな侮辱に耐えてきたのだろうか。小さなその体で、こんな中身のないやつらの心ない言葉に傷つけられてきたのか・・・

そう思うとさっきまでの怒りが収まって、代わりにルイズを守らなくてはという思いが湧いてきた。

いまだに心配そうな顔であたしを見上げるルイズを見て。小さく微笑む。

 

「ルイズ、心配しないで。あいつの言う通りってのは癪だけど、このさやかちゃんを信じなさい」

 

そういうとルイズはしぶしぶ引いてくれた。

話しているうちに野次馬がずいぶん増えていて一種のお祭りのようになっていた。

 

「ギャラリーも待ちわびている。そろそろ始めようか」

 

そう言ってギーシュは胸ポケットに刺さっていたバラを手に取るとそれを振る。

瞬間、何もなかった地面が盛り上がると青銅でできた騎士のような人形が出来上がった。

 

「僕の二つ名は青銅、青銅のギーシュだ。僕はメイジだ、魔法を使わせてもらうが、卑怯とは言わないだろう?」

 

あたしは右手で左の中指につけてるソウルジェムに触れた。

ここは身体強化だけでなんとかしたほうがいいだろうか?

変身なしでの身体強化は専門ではない。あたしにとっては苦手分野だ。

ただこの世界であたしの魔法がどれだけ通じるか未知数。確かめたい気持ちもある。

 

「あたしの名前は美樹さやか、二つ名は・・・そうだなあ。」

 

少し考えたが、よく考えると悩むまでもなかった。

 

「オクタヴィア、オクタヴィアのさやか。」

 

そう言ってあたしは魔法でマントを作るとあたしの姿が誰にも見えないように覆い。素早く変身した。

ひらりとなびく白いマントに斜めに切られたラインスカート、手には刀とレイピアを合体させたような細身の剣(サーベル)

 

「あたしも魔法を使わせてもらうけど、もちろん卑怯とは言わないわよね?」

 

しばらくの沈黙の後にやってきたのはざわざわとした空気だった。

 

「おい、あいつ平民だったんじゃないのか?」

「ルイズのやつ実は貴族を連れてきてきたんじゃ」

「ちょっとなに?あの破廉恥な恰好」

「え、手品だろ?」

 

反応は様々だったが、一番騒ぎそうなルイズが何も言ってこない。

あたしは恐る恐るルイズのほうを見た。もしかしたら魔法を使えることを隠していたのを怒っているのかもしれない。

 

「・・・」

 

そこにはあたしに見惚れるルイズの姿があった。

自分で見惚れるというのもなんだか変な話だが、そうとしか言い表せない表情をしていたのだから仕方ない。さやかちゃんは嘘はつかない。

 

「ルイズ、黙っててごめんね。あたし実は魔法が使えたりするんですわ」

 

そう言って頭をかくあたし。そんなあたしにルイズから掛けられた言葉は―――

 

「きれい・・・」

 

―――だった。

しかもいかにも素でいっちゃいましたっていう呆けた声だったもんだからたまらない。

 

「ルイズ、それはちょっと反則かも」

 

か、かわいい!

あたしに見惚れるルイズかわいい! この世界にこんな凶悪な兵器があったとは、いったい誰が予想しただろか。周りを見ると、その瞬間を偶然見てしまった何人かの生徒がルイズの毒牙にかかっていた。(この出来事がきっかけでルイさや同盟と呼ばれる変態組織が結成されるが、それはまた別の話)

 

くー! 逸材だとは思っていたがここまでとは。やはりルイズ、侮れない。

 

「ちょっと魔法がつかえるからって調子に乗るなよ。そんなふざけた格好をして、ずいぶんな目立ちたがり屋のようだね」

 

あたしが変身するのに驚いて黙っていたギーシュが待ちくたびれたとばかりに話しかけてきた。

 

「でも、君が調子に乗れるのもここまでだ。付け焼き刃の手品もどきの魔法なんかで僕が倒せると思わないことだね!」

 

そう言ってもう一度杖を振ると、さらに6体の土人形を出した。

 

「これが僕のワルキューレ隊だ。君に倒せるかな?」

「このさやかちゃんを見くびってもらっては困りますなあ」

 

あたしは両手で剣を構えた。すると、左手に刻まれた文字(使い魔のルーンというらしい)が光った。その瞬間あたしの体が軽くなる感覚とともに、この武器をどう使えばいいかまで頭に浮かんでくる。

でもそのイメージはチャンネルの合わないラジオみたいにあいまいだ。

 

この感覚・・・まえにもどこかで・・・

 

そうだ。最初の使い魔の契約の時、あの時の感覚に似ている。自分の中に何かが入ってくる感覚。

 

なるほど、どうやらあたしが考えるよりも使い魔の契約とは危険なものだったのかもしれない。はじめにソウルジェムに変化があったのは、この契約が魂に直接作用する魔法だったからなのだ。それをあたしは結界ではじいて、いわば、「かりそめの入れ物」の体に刻んでしまったことで中途半端な契約になってしまった。そういうことなんだろう。

 

「ま、こんな補助輪あってもなくても変わらないんだけど…ね!」

 

あたしは勢いよく走りだす。

一番手前にいたワルキューレの胸を両手で持った剣で貫き、右に捻り上げる。

高速で行われたそれは、ワルキューレの体に亀裂を走らせ、粉々にしてしまった。

 

「ふーん、案外なんとかなるね」

 

正直、拍子抜けだった。覚悟を決めたあたしがばかみたい。

それくらい簡単に壊すことができたのだ。

 

「魔法で作ってるから結合が緩いとか? どうなんだろ? こんなんならもっと科学の授業まじめにやるんだったなあ」

 

あたしは腕を頭の後ろで組んで、ギーシュを煽る。

 

ギーシュが再び杖を振る。

今度は三方向からワルキューレが迫ってきた。

 

「よっと!」

 

あたしは空中に浮くことで避け、もう一本の剣を出す。

下にいるワルキューレの頭に勢いよく突き刺し破壊。その剣を放して空中で一回転。

あらかじめ出していた剣の持ち手部分に踵落としを決めると、三体目のワルキューレの頭をその剣で割った。

 

「なにあれ! 空中から剣を出した!?」

 

いつの間にか野次馬に加わっていたキュルケが叫ぶ。

 

あたしはマントをひらりとなびかせる。

地面に突き刺した状態で剣を四本出現させ、一本、二本、三本と投げて順番にワルキューレを破壊。

最後の一本を手に取ると、目にもとまらぬ速さでギーシュの前まで来て、スッと剣を横にはらった。

 

しばらくの沈黙の後、ギーシュの前髪がスッと地面に落ちる。

 

ばたん!

 

ギーシュは地面にへたり込んだ。

 

「まいった…」

 

あたしの勝利だ。

 

「これに懲りたら二股なんかやめなよ。女の子ってのは男の子が考えるより弱くて―――」

 

そしてルイズを一瞬見てから、

 

「強いんだから」




ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
明日も投稿します。

次回 第9話「それであたしをどうしますか?」
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