黒崎の顔を目掛けて振り降ろしたように見えた刀は、いつの間にか黒崎の後ろに憑いていたスーツ姿にメガネをかけた男性のユウレイの額に振り下ろされていた。それによく見ると、刃の部分では無く持ち手の柄の部分を相手に向けるように持ち替えていたようだ。
「黒崎!無事か!?」
「あ、あぁ…。てかこのおっさんいつの間に───」
「い…嫌です私は…地獄へはまだ行きたくない…!」
スーツ姿のユウレイは死神女に柄の部分を向けられながら涙を流し声を震わせている。この一連の流れを黒崎の後ろで見ていたのなら、死神という存在が成仏していない自分を地獄に連れていこうと迎えに来たと思ったのだろうか。
「臆するな。お主の向かう先は地獄ではない。尸魂界(ソウルソサエティ)だ。気安い処ぞ。」
死神女がそう言うと、スーツ姿のユウレイの額に文字が浮かび上がり光り始めた。瞬く間にその光が体を包んでいく。
たちまちユウレイの体は少しずつ消えていき、その体は数十秒も経たないうちに完全に消滅した。その光の周りには、黒い蝶々が数匹ほど羽ばたいていた。
「ユウレイを…殺したのか?いや、既に死んでるからそれは違うのか…」
死神と聞いて想像するのは、生きている人間を迎えに来て命を刈り取る。みたいなイメージだが、生死に問わず『魂』を刈り取るような事が出来るのだろうか。
「ど…どうなったんだ?今の奴…」
「黙って聞くのなら教えてやる。いいか──」
そう言うと死神女はどこに仕舞っていたのか、紙のフリップとペンのような物を取り出してキュキュと勢いよくペンを進め何かを書き始めた。
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「つまり、さっきのオッサンが消えたのは『魂葬』って言う成仏みたいなもんで、俺達が普段見てる無害のユウレイは『整』のユウレイって事か。」
「黒崎や俺が運良く遭遇して来なかった、人間や『整』のユウレイに危害を加えてくる悪霊が『虚』と呼ばれる…か」
「そうだ。ここまでで何か質問はあるか?」
何を書き出したかと思えば、ご丁寧にイラスト付きでザッとだが解説をしてくれた。ウサギみたいなイラストのクオリティには触れないでおこう。ちなみに黒崎は真っ先にイラストを酷評したせいで顔に落書きをされていた。拘束してる鬼道、そろそろ解いてやれよ…。
先程死神が行った行為は、成仏出来ずに現世に漂っているかユウレイを尸魂界と呼ばれる天国のような場所に送る行為らしい。
そしてこの世界には『虚』と呼ばれる悪霊の存在もいるらしい。俺も黒崎も16年生きてきて見た事はないが、奴らは他のユウレイと違って生きてる人間にも危害を加えることが出来るようだ。
しかもそいつらは霊感が強い人間を好んで狙うとの事だ。俺達が一度も狙われなかったのは奇跡だったのかもしれない。神隠し事件や原因不明の殺人事件なんかも虚が起こした事件だったりするらしい。
まとめると、そういった虚(悪霊)を昇華・滅却する。整(ユウレイ)を尸魂界に成仏させる事がこいつら死神のお仕事のようだ。今回もそういった事件を未然に防ぐ為に訪れたとの事だ。
「質問はねぇがよ、オマエが任務でここに来たってことはその『虚』とやらが近くにいるんじゃねぇのか?」
「口元拭いでやってるんだから拭き終わるまで喋んなよ…。まぁ確かに、悪霊が人間やユウレイを見境なく襲うならこんな所で油売って場合じゃないだろ」
俺達と会話をしている間にも虚とやらが誰かを襲っているかもしれない。両手が動かない黒崎に変わって顔に書かれた落書きをウエットティッシュで拭きながらふと思った疑問をぶつける。というか油性ペンかこれ、全然消えないぞ…。すると死神女はバツの悪そうな顔をして
「イヤ…それが、どういう訳かそいつの気配を全く感じなくなってしまったのだ…。」
「な…何だよソレどういう─────」
ウォオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
黒崎の言葉を遮るように、地響きのような低く重い叫び声のようなものが響き渡った。
「──な…なんだ…?今の…」
「耳が痛え…なんだ今の音は…?」
「まるで何か大きな力に感覚を阻害されているような…」
俺と黒崎が突然の大きさ怒号のような音に困惑しているにも関わらず、死神女はこちらに背を向けて顎に指を当ててうーんと唸っている。死神にはこの音が聞こえてないのか?それとも日常茶飯事の事で慣れているのか?
「おい!おい死神ッ!!今のスゲー声聞こえなかったのか!?ありゃ一体何の声だ!?」
「バケモンみてぇな声だったぞ!?これが『虚』って奴の声なんじゃねぇのか!?」
「凄い声?そんなものいつ─────」
ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!
死神女が首を傾げながら「何を言っている?」と言いたげな顔で振り向いた瞬間、またも地響きに似た重い咆哮がこの部屋に鳴り響いた。さっきより声がデカくなってる。何かが近づいてきているのか?
2度目の咆哮で死神女は気づいたのか、先程までのぽかんとした表情が一変していた。その一変した表情のまま俺と黒崎の方を何かにジッと見つめた後、何かに驚いた顔をしたまま硬直していた。
きゃぁっ!!!
ガジャン!!という音と共に聞き覚えのある声が1階の方から聞こえる。
「遊子の声だ…!!」
「遊子ちゃん…?」
悲鳴の正体が妹の遊子ちゃんだと黒崎が気づいた時、先程までコチラを見て硬直していた死神女が部屋の出口の扉に向かって駆け出す。
「おいまてよ!どこへ行く!?さっきの声がやっぱり『虚』ってのの声なのか!?」
だとしたら今は何が起こっている?黒崎家が狙われているのか?遊子ちゃんは無事なのか?
「そうだ!私が片付けてくる!!貴様らはここにいろ!」
「バカ言え!!襲われてんのは俺の家族だぞ!?解けよこの術!!早く!!」
「俺だっていつも世話になってる人達なんだよ!!ってクソッ!どうなってんだこの術!?」
黒崎の拘束された腕を引っ張り、何とか力で振りほどこうとするが術は解けない。鬼道ってのは人間の力ではどうすることも出来ないのか!時間で解ける催眠術みたいなもんじゃねぇのか!
「何を言っている!?貴様らが来ても何も出来ん!死人が2人増えるだけだ!私に任せて大人しくここに居ろ!」
死神女がそう言い放ちながら部屋の扉を開けた瞬間、重苦しい、息が詰まりそうになる程の空気が流れ込んできた。
「なっ…!?」
「なんだ…これ…!?」
死神女も『それ』を感じたのか、勢いよく部屋の扉を開けた瞬間に少したじろぐ。『それ』に俺と死神女が気圧されていると、開いた扉の足元から見知った顔が頭から血を流しながら這いつくばって顔を覗かせた。
「一兄…白宮…平気…?」
「夏梨!!」 「夏梨…ちゃん?」
「突然なんだ…突然お父さんが血を流して倒れて…。あたしもユズも何かでっかいやつに襲われて…。それであたし、2人に知らせなきゃって…思って…」
夏梨ちゃんは血塗れのまま這いつくばって1階で起こった事を伝えに来た。普段の聞き慣れたクールな雰囲気の声では無く、か弱く今にも消えそうな声だった。
虚が一階まで来てる。黒崎の家族が襲われている。血塗れになった夏梨ちゃんの姿と言葉を聞いて自分達や黒崎家の命の危機という現実を知らされる。
「なんなんだろうアレ…あたしには少し見えたけど…父さんもユズも見えていないみたいだった…二人は…アイツに見つかる前に…早く…逃げなよ…」
「おい…夏梨ちゃん…?夏梨ちゃん!!!」
夏梨ちゃんは最後の力を振り絞ったのか、その場で倒れたまま動かなくなってしまった。俺と死神女は慌てて夏梨ちゃんの方へ駆け寄り脈拍を確認する。
「────大丈夫だ、気を失っただけだ。魂もまだ───」
「でも血が流れすぎてるだろ!早く病院に───」
ピキン…ギシ…
死神女と俺が夏梨ちゃんの安否を確認していると、部屋の方からギシギシと音が聞こえ始めた。
「───よせ!何をしている!?」
音の出処を見ると、死神女の鬼道で両手を後ろに拘束されている黒崎が体を這いずりながら拘束を振りほどこうとしていた。
「やめろ!それは人間の力では決して解けん!!無理をすればお前の魂が───」
死神女の言葉が聞こえていないのか、黒崎はミシミシと腕の軋む音を部屋に響かせながら立ち上がろうとする。
「ああァァァァァァァァァ!!!!!」
「黒崎!!落ち着い────」
このままでは黒崎の腕が折れてしまう。いや、それどころか、死神の言葉通りなら『魂』にも影響が出る。黒崎を止めなくては、咄嗟に黒崎を止めようと駆け寄ったその瞬間、
黒崎は力ずくで拘束を解き、鬼気迫る表情で部屋を飛び出して行った。
頑張って2日に1回は投稿したいと思います