オルクセン自動車史〜世界は如何にして白エルフの作った自動車に憧れたのか〜 作:味家
センチュリースター合衆国、
星歴861年から勃発した南北内戦の影響で未だに南部を支配するセンチュリースター南部連合と分かれており、国際的な発言力や立場は低いものとなっていた。
しかし、経済や産業的には近年では頭角を現して来ている。北星大陸にある豊富な化石資源、広い国土と南部との国境に兵器を浸透させる為の効率的な産業、そして大規模農業…
センチュリースターは現在では不景気の影響で落ち着いてしまったものの南北ともに目覚ましい成長を遂げていた。
その中でも特にエポックメイキングとなる物が自動車である。
センチュリースター合衆国北部、巨大湖のほとりにある街、コーシエンにある合衆国最大…いや、世界最大の自動車メーカー、フィード・モータース。
ゴードン・フィードが設立したこの自動車メーカーは流れ作業による大量生産方式を採用した自動車『タイプT』を開発、自動車というものを庶民のものにしたのだ。
一行は合衆国の西側の港町から鉄道と送迎でコーシエン郊外のフィードの工場まで来ていた。
「私はこの組み立てラインを作るに当たって、オルクセンの銃器工場も参考にしたのですがね、まさかオルクセンの方々が観にこられるとは。」センチュリースター合衆国らしい重厚なスーツを着た老人こそ、世界の自動車王『ゴードン・フィード1世』である。
彼がこの自動車工場を作るに当たって参考にしたのは自国の食肉工場とオルクセンの銃器工場だという。
「本来なら私自身が工場を案内したいのですが、生憎私はあなた達と違って魔種族ではなく老いているのでね、若いやつに工場を案内させますよ。宜しく頼むよ、トム。」
「はい、宜しくお願いします、それではこちらへ」
作業着の青年、トム・エイユが背筋を伸ばす。
一行はエイユに連れられ工場を視察する。
天井から吊られたコンベアの上を、車体がゆっくり進んでいく。
作業員たちは流れる車体に合わせ、数十秒単位で部品を取り付けていった。
配線。
計器盤。
シート。
ガラス。
やがてラインの中央で、別工程から運ばれてきたエンジンと変速機が現れる。
巨大な装置がそれを持ち上げ、車体の下へ滑り込ませた。
ゆっくりと下降する車体。
金属同士が噛み合い、ボルトが締め込まれる。
工場の人間は、その瞬間を「マリッジ」と呼んでいた。
「……案外、面白みは無くなりそうですな。」デロイトが呟く。
「その代わり、誰でも出来る。例えオークでも」ペルシェが呟きに答えた。
実際、一日中同じ単純作業を作業員はする事になる。
しかし、その効率化こそフィード方式の最大の特徴である。
今までは何人かの職人が一台の車を組み立てていた、そうなると大体完成まで一台12時間かかるのである、オルクセンの労働時間だったら1日半である。
それがこの方式にすれば90分で一台完成する、これを当てはめると1日の労働時間で約7台完成車ができる事となる。
「部品製造やライン管理は私らドワーフに、ライン作業はその他の種族でいけますな。」デロイトは深く頷いた。
「…そういえばペルシェさん、前にアスカニアの技術者さんも見学に来ていたんですよ。」見学を終えて休憩中にエイユがペルシェに問いかける。
「ほう、アスカニアには最近行ってないからなぁ…誰が来てたの?」
「フェルディナントさんという方ですね。ペルシェさんとはお知り合いだそうで。」
「ああ…フェルディナント…あれ、カレン、誰だったっけ?」
「ペルシェさん以上に頭おかしい技術バカな人ですよ。」
「ああ…何と無く思い出した…トムちゃん、あいつ何してんの?」
「今は国家歓喜力行団自動車部と陸軍車両開発部の主任を兼任してるとの事です、なんか国家強化と機械化を進めるために来たのだとか?」
「アスカニア…あの、我が王の言う悪魔か…」スタンレイが苦虫を噛み潰した表情で呟く。
「悪魔ですか、確かに言い当て妙ですな。」
スタンレイが驚き、声の先を振り返るとフィードが佇んでいた。
「元々は断りたかったのですが、私の昔の過ちのせいで受け入れることとなりましてねぇ。あなた達と同じく国民車の生産という名目で来ましたが、十八十九軍用車と戦車の生産でしょう。」
実はフィードは10年程昔、過激な反六芒教の立場をとっていた。
元々センチュリースターでは900年代、反六芒の偏見が蔓延しており自身の経験からも投資家や銀行家に多かった六芒教の人間にフィードも不信感を持っていた。
フィードは新聞にも反六芒教の投書をしており、有名なものだと『六芒の人間は世界を自身の思い通りにしようとしている。例えば私の画家の友人は敬虔な聖星教徒なんですが、妻が六芒教徒でね。ある時から、六芒を持ち上げる発言ばかりする様になってしまったのですよ。恐らくは、妻の家族が六芒の本部に人質に取られてしまい、そう発言せざるを得なかったのでしょう。だがしかし、六芒はそういう病気なのでしょうな、しばらくしたら無事回復して今までの様に美しい女性の春画でも書いてくれるでしょう。』
勿論この投書は当の画家から公然で否定、そしてしこたま怒られたフィードは謝罪、その他の批判も相まって六芒教徒への偏見を撤回、謝罪する事になった。
「今はそんな事もなく、六芒教徒の銀行家とも仲良くやってますよ。…スタンレイ殿。オルクセンの軍部に言っといて下さい。恐らく、奴らは近いうちに戦争するでしょう。」
「……!」フィードの言葉に一行は息を呑む。
「アスカニアはオスタリッチを分割、併合して、今や東側も攻めようとしている。また、エトルリアと同盟を組み星欧を戦火の渦に飲み込もうとしている。オルクセンは一応中立国ですが、キャメロットが放っといてくれるかはどうか…ですな。」
この頃の星欧はアスカニアが戦争準備とも言える行動を取っており、緊張が高まっていた。
「それと…ペルシェさん、」
フィードの問いかけにペルシェは少し驚いた。
「私はもう老人だ…恐らくこれで出会えるのは最後でしょう。あなたやラーべさん、そして皆さんの寿命は羨ましい程長い。是非、これからの自動車がどう進化するか、自動車の未来はどうなるか、あなたの知的好奇心で見ていって欲しい…どうかこのおいぼれの代わりにね。」
帰りの船の中でペルシェは上の空だった。
機関室にも寄らずにただただ甲板で海を眺めるだけであった。
「また…‥戦争ねぇ……3度目か…」
ペルシェがぼーっとして呟いていた頃、スタンレイは自身の客室である人物を迎え入れていた。
「視察でお疲れのところ失礼致します。」その男はキャメロット陸軍司令部、階級は少将の男であった。
「我々は中立国です、キャメロットに率先して協力する事は出来ませんが…」スタンレイが神妙な面持ちで話す。
「いえ、そこはわかっております。ですから、先に連邦政府と軍に話を通しています。…前にフィード殿が話されている通り、そして何より『分かっていらっしゃる』と思います。」
「………」
「近いうちに、グロワールは戦場になるでしょう。その為にもオルクセンの生産設備を使って新型戦車を製造して頂きたい、これはキャメロットで設計された物を用意致します。そして、軍用車に関しては『あちら側』にも取引できる様に自家開発をして欲しいのです。」