ホシノに依存するまで 作:匿名
「──ここは、っ?」
目が覚めても、頭痛は止まなかった。思考が纏まらなくて、とっ散らかっている。
それでもと、目を開けて周囲の確認をする。
(……ホシノの家?)
見知った天井だった。布団に寝かされていて、まだ体に砂がついている。
「起きましたか、レミ」
「っ!?……ホシノ」
いつもは安心する声も、今だけは処刑の宣告のように聞こえた。
「あ、あぁ……」
怖い、耳を塞ぎたい、逃げたい!
失望されたのは分かっている。何を言われるかも……分かっている。
それでも、嫌だった。面と向かって否定されるのは。
目を背けながらも、何か言おうと口を開く。
「ごめ、ごめん、ホシノ。ずっとホシノのこと──」
──騙してた。
誠実さの欠片もない、安い謝罪だった。許されることを目標にした、浅はかな言葉。
それでも、何かがあったのか、ホシノは黙り込んでいる。
(怖い、怖い、怖い怖い怖い)
沈黙は、毒にしかならなかった。
時間を刻んでいる秒針の音が、カウントダウンにも聞こえた。
視界の端のホシノは、ぴくりとも動かない。表情は見えないが、怒りや殺意で満たされているに決まっている。
ふと、ホシノが動いた。ゆっくり、一歩ずつ、歩いてくる。
「…………っ」
目を瞑る。何も見たくなかった。
ぺた、ぺたと、フローリングを素足が叩く音が耳につく。
気づけば、息遣いすら感じるほど近づかれていた。
「レミ、落ち着いてください」
「……え?」
「私は、レミのことを傷つけようなんて思ってません」
俺の顔に両手を添えながら、まっすぐこちらを見ている。
ふと開けた目には、信頼と……大きなどろっとした感情が見えた。
「なんで……」
「黒服に、何か言われたんでしょう?嘘つきだとか、見殺しにしたとか」
「…………」
「私は黒服のことなんて信じていません。それに……本当だとしても、あなたが故意に先輩を傷つけようとするなんてありえませんから」
「どうして、そこまで」
「あなたのことを、信じてますから」
信じてるから。どこまでも真っ直ぐなその言葉は、どうしようもない俺の心に深く突き刺さって。
「だから……なんだってしますから」
「──私を、おいていかないでっ」
そして、取り返しのつかないほど抉った。
◆◆◆◆◆
『小鳥遊ホシノさん、疑問には思いませんでしたか?何故記憶喪失の少女が砂漠だらけのアビドスにいるのか』
『……私は、騙されたりなんてしない。話はこれで終わりだよ』
黒服の言葉に対して、私は反論できなかった。確かにずっと疑問に思っていたことはある。
過去の記憶が無いにしても、彼女があそこまで成長するまでに何かしらの足跡が、関わった人物や物があったはず。だが、いつまで経っても彼女の過去を裏付ける証拠は見つからなかった。
もしかしたら、黒服の言っていることが正しいのかもしれない。
ふとそんなことが頭をよぎり、そう考えてしまう自分に寒気がした。
(レミは、先輩を殺してなんかない。殺したのは私だ。責任を転嫁するな)
ただもし、もしもレミが嘘を吐いていたとしても……私は、レミの事を責めることはないだろう。
私の生きる意味は、レミのため以外に残されていないのだから。
だから、黒服なんて無視して過ごそう。そう思いながら家に帰った。
帰ったのだが……
「レミ、随分遅いですね……」
レミが、帰ってこない。
アビドスの治安はお世辞にも良いとは言えない。だからいつも夕方には帰ってくるはずなのだが。
(……もしかして、黒服が?)
連絡をしても、既読がつかない。位置情報共有アプリは、夕方ごろからずっと砂漠の一点を示している。
(今日のレミに砂漠に行く予定はないはず)
だから、スマホを落として盗まれたのだろうと考えていたのだが。
(もしかしたら、また)
先輩のように、遭難しているのかもしれない。一度そう考えると、居ても立っても居られなくなって。
防弾ベストを着て、散弾銃にシェルを装填し、砂漠に向かう。
「杞憂だったらいいんですが……」
レミのスマホが盗られただけなら、さっさと取り返して帰ろう。
レミが倒れてしまっているなら、すぐに連れて帰って助けよう。
もしも、スマホだけが落ちていたら、どうしようか。
目印のない砂漠で人を探すのは難しい。それも、生存可能時間内にと考えると……ほぼ不可能だ。
変な動悸がしてきて、少し走るスピードを上げる。
そうして着いた場所には、
「レミっ!レミっ!……気絶してる?」
倒れているレミの姿があった。
特に外傷はなく、持っている銃にも戦闘の痕跡は見られなかった。
「ひとまず、連れて帰らないと」
そうしてレミを背負って、帰路につく。背負っているレミの寝息は、少し荒かった。
◯◯◯◯◯
「──私を、おいていかないでっ」
言葉にして、ようやく気付いた。
私は、レミのことをなんの打算もなく信じていたわけじゃない。
ただ、一人になるのが耐えられなかったんだ。
一緒に連れて行って欲しかったんだ。
レミが嘘つきだったとしても良いと思っていたんだ。
友愛以上に私を動かしていたのは、孤独への恐怖だ。
「…………レミ?どうし、っ!?」
突然、押し倒された。
背中には、いつも二人で寝ているベッド。
怪我をさせないようにだろうか、体を入れ替えるように無理に倒され、レミの重みを全身で感じる。
「──ホシノ、ごめん」
レミは、見るからに目に涙を溜めていて。私が何か、彼女を傷つけたことを示していた。
私を抑える手は震えていて、息も少し荒い。
「……一緒に、死んでくれ」
唐突な、親友からの言葉。それに、多少動揺こそすれ、拒否する気にはなれなかった。
(あぁ、私の、せいで)
明るくて、親切で、とても仲間想いで……善良だった。
そんな彼女は、私が日常を壊したせいでいなくなってしまった。
だから、彼女の無茶に付き合うのは、私の役目だ。
「レミなら、いいですよ」
そう言うと、レミは明らかに泣き始めて。
私を付き合わせることに、何か感じているのだろうか。一緒に居られるなら、なんだっていいのに。
彼女の手が、ゆっくりと私に近づく。やがて、首元に触れて。
とても冷たい手のひら。やっぱり、彼女の心は温かいのだろうと、そう思う。
せめて、最後に少しでも彼女を感じようと、レミの体に腕を沿わせる。
毎晩触れていた、体温。それに、ほんの少し眠気を誘われて。
首が、ぎゅっと絞まる。明らかに加減しているであろうそれに、なんだか安心感を得る。
そのまま、ゆっくりと、眠るように────
原作開始後とかシロコノノミとかも構想はあるしやるつもりですけど、あと一話で一旦完結にします。
ネタバレ
ホシノは死にません。
レミちゃんにホシノを殺す度胸ある訳ないでしょ。
あとこんなに簡単にヘイローは壊れないと思うのもあります。