ホシノに依存するまで 作:匿名
待たせておいてなんですけど、めちゃくちゃ短いです。
手の平に、彼女の熱を感じる。
妙に冷たい俺の手にとって、それはもはや熱いと言えるほどで。
それをぐっと押し込む。
力が入らない。無意識に、やめようとしている。
それでも、もう終わりなんだ。
ホシノは、いつ見ても真っすぐで、良い奴で、俺なんかよりもっと上の存在で。
それは、俺の劣等感をずっと燻ぶらせて……そして、壊した。
あのホシノが、置いていかないでと、消えないでと、俺に縋ったのを見て。
どうしようもなく嬉しくなって、どうしようもなく惨めになって。
あぁ、もう、死のうと。
このまま二人で生きるのは、無理だと思った。抑えられなかった。
俺は、彼女に縋られるほど素晴らしい人間じゃない。でも、彼女に嫌われたり、追い出されるのは耐えられない。
なら、本性に気づかれる前に終わらせないといけないんだ。
必死になって、指をもっと押し込む。
細い首筋。頸動脈の位置が、分かりやすかった。
気づけば、ホシノは目を閉じている。何の反応も返さない彼女は、もう死んでしまったように見えて。
(このままいけば、ホシノは……っ!?)
信じられないほどの悪寒が背筋を伝ってきた。手を放す。
まだ、生きているはず。まだ心臓はドクドクと動いていて、機能を停止していない。
なのに、続けられなかった。覚悟がなかった。
死んでいないのに、気絶しているだけの彼女を見るとダメだった。
嫌だった。もう笑わないのが。
嫌だった。もう話せないのが。
一緒に居られなくなるのが……嫌だった。
死後一緒になるなんて、信じられなかった。
だって俺は誰でもないんだから、死んだら消え去るだけだ。
「……ごめん。本当に、ごめん……!」
視界がぼやける。
出来なかった。我儘に付き合わせて、受け入れさせて。そこまでして、我儘を突き通すことすらできなかった。
「うぅああああ────!」
嗚咽が止まらない。自分が惨めなことと……ホシノがいなくなってしまったかもしれないことに。
そうやって泣き続けて────気づけば、抱きしめられていた。
「………………」
言葉はなかった。あったのは、ただの抱擁。
それに、言い表せないほど救われて。
いつまで泣いていただろうか。
気づけば涙も枯れ、吐き出した感情の分だけ楽になってしまった。
「──レミ。出来ませんでしたね」
「……っ、あぁ」
「それでも、いいんです。私は、あなたと居れれば」
「…………!」
意味のある言葉を返せなかった。
出来たのは、ただ強く抱きしめ返すだけ。
それだけでも十分だったのだろう。ホシノの力も、どんどん強まって。
そうやって、夜が明けるまで。
◯◯◯◯◯
──目を覚ます。
あのまま寝てしまったのだろう。上げた顔には、ホシノが映って。背中には、緩く腕が巻かれていた。
しばらくそうやって、彼女の顔を見続けていると、目がゆっくりと開いた。
「……おはよう」
「おはようございます、レミ」
「──俺、知ってたんだ。先輩が、ああなること」
「……っ、そう、なんですか」
「記憶喪失ってのも、嘘で……先輩の事、利用してた」
「…………」
沈黙が、場を支配した。
薄々気づいてはいただろうが、それでも信じたくなかったんだろう。
それでも、もう止められなかった。
ひた隠しにすることを、辞めたかった。
「……気づいたら、砂漠に居て。しばらく遭難して、先輩に会って。学籍も、何もなかったから、可哀想なふりをして、助けてもらおうとした」
「未来の事を、知ってたんだ。先輩が砂漠で遭難して、死ぬこと。その時から」
「でも、大丈夫だって。俺が居るし、ポスターだって、無事で。何事も起こらないって……そんな訳ないって、分かったはずなのに」
「それで、助けられたはずなのに、俺は、せんぱい、を…………」
「ころし──っ!?」
殺した。そう、言おうとした。それが俺の一番の罪だから。
でも、言えなかった。無理やり俺の口を封じるように、ホシノが俺の頭を抱きかかえたから。
「レミはっ、殺してなんか……私が……!」
何か言っている。でも、内容までは分からなかった。ホシノの腕が耳を塞いでいるから。
それでも、彼女の優しさだけは感じて……ずっと、そうしていた。
◯◯◯◯◯
「今日はこのスケバンだ。ヴァルキューレに指名手配されてて……この通りで恐喝と強盗を続けてるらしい」
「分かりました、行きましょう」
そんな事があっても、俺とホシノの日常はそこまで変わらなかった。
いつも通り日銭を稼いで、利子を返せるだけ貯めて……でも、前よりずっと一緒にいるようになった。
「……ホシノ」
「なんですか?」
「これからも、ずっと……居れるかな」
「……はい、当たり前じゃないですか」
「…………ありがとう」
いつか変わるのは分かってる。こうしていられるのもあとわずかで……まだ、アビドスには解決するべき問題が残ってるのも。
それでも、今だけはこの温もりに、二人の世界に、閉じこもっていたかった。
これで一旦完結ですが、普通に続きます。
ただ、書き溜めを作ってある程度まとめて出せるようにしてから投稿することにしたので、またしばらく投稿しなくなります。
これまでが不定期投稿過ぎたので……
3ヶ月経っても投稿する気になれたのは間違いなく高評価、感想、お気に入り登録してくれた人のおかげなので、本当にありがとうございます!