”工藤新一”に戻ってから二か月が経った。
灰原からの厳しいチェックを見事クリアしたこともあり、事件に関わってもいいという許可が出た。コナンになって事件に遭遇しまくってもうこりごり……なんてことはなく、けれどあまり派手に動こうとは思わなかった。
父さんの新刊本も出ていないし、他の作家の本も出ていない。けれど只々暇してコナンの時に常連となった本屋に向かった。入ってすぐ、推理小説のコーナーに向かうが、あまり目ぼしいものはなかった。その場を立ち去ろうとしたとき、見慣れた人影を見つけて思わず声をかけた。
「高木刑事、どうしたんですか?」
「く、工藤君?!どうしてここに?」
その相手―コナンとして信頼していた高木刑事は、俺の姿に大袈裟に反応した。
にしても、高木刑事に推理小説のイメージはあまりない。それが只々不思議だった。
「暇だから本を探しに。高木刑事こそなぜ?」
「いや、コナン君が推理小説を結構読んでるって聞いて。捜査の参考になるかなぁって思って探しに来たんだけど、初めてだったからどれがいいのか分からなくて……。」
高木刑事も”江戸川コナン”から影響を受けているなんて。
仮初の小学生がこんなに周りに影響を与えているなんて思いもしなかった。
もうこの世にいない存在を思って推理小説を探す高木刑事を放っておけなくて、同じように本探しを手伝った。
結局本を探すのに時間がかかり、昼を超えてしまった。
高木刑事が満足そうであるからいいのだが。高木刑事は遅くなったことを謝ってさらに家まで送ってくれると言い出した。俺は遠慮したのだが、意外に高木刑事の押しは強かった。遠慮ながらに高木刑事の車に乗った。
車内はあの時から変わらない。懐かしい雰囲気にホッと気を緩めた。
会話が途切れ無言になった時、ふと声が掛かった。
「なぁ、新一君。コナン君は元気にしてるかい?」
「え、えぇ。向こうでも元気にやってるみたいですよ。」
話はコナンの事だった。
コナンは安室さんや昴さんと同じく”実在しない存在”で、俺自身。少し詰まりながら、当た触りのない回答をした。
「……それならいいんだ。けど、コナン君ってまだ近くにいる気がするんだ。コナン君の意志の強さ、行動力は他には見られないから。……まるで工藤君みたいに。」
少しの沈黙の後、複雑な表情をして高木刑事はそう言った。
罪悪感も感じるが、彼のその発言は現状をそこそこ的を射ていて、驚きを隠すのに精いっぱいだった。
「工藤君はコナン君から聞いてるかもしれないけど、東都タワーの事件。あの時、僕彼に言ったんだ。『君は一体何者なんだい?』ってね。小学生、それも一年生の子に聞く質問じゃなかったと思うけれど。でも彼は言ったんだよ、『教えてあげるよ、あの世でね』って。今の君みたいに。」
何も言えずに黙っていると、高木刑事は慌てて言いつくろった。
「べ、別に責めるつもりはないんだよ。ただ、似てる気がするんだ。君とコナン君。だから、思っちゃったのかも。コナン君の秘密を君が知ってるかもしれない……って。虫が良過ぎるかな?」
いつもの人優しい刑事の笑みで笑いかけてくる高木刑事に、なんとか取り繕った笑みを返した。
車の中は無言のままだった。
けれどさっきまでの真剣な雰囲気はなく、高木刑事特有の少し抜けた空気が漂っていた。
……その雰囲気に触れられなくなることを、まだ知らなかった。