おんなのこは 少し変わったちからを もっていました。
むかしむかし、あるところにアリアという名前の女の子がいました。
アリアは、ほんのすこしだけ「さきっぽ」が見える不思議な目を持っていました。
「あ、ミルクがこぼれるよ」
アリアが言えば、お母さんの手からカップが滑り落ちました。
「あ、いいことがくるよ」
アリアが言えば、旅の商人が珍しいお菓子を村へ持ってきました。
村の人たちは、アリアのことを「ちょっと便利な、おかしな子」だと思っていました。
難しいことは何も知らないけれど、少し先のことがわかる、泥だらけの女の子。
けれどある朝、アリアは震えながら目を覚ましました。
窓の外を見ても、お母さんの顔を見ても、大好きなパンを見ても。
そこにあるはずの「さきっぽ」が、どこにも見当たらなかったのです。
世界は、まるで真っ黒なインクをぶちまけたようでした。
昨日までキラキラと光っていた道の先が、ぷつりと途切れて、底なしの闇になっています。
「みんな、逃げて! 世界が死んじゃう!」
アリアは裸足で村中を走り回りました。
「あしたが真っ黒なの。みんな、どこにもいけなくなっちゃう!」
でも、村の人たちは困ってしまいました。
アリアが「あしたの天気」を教えてくれるのは好きでしたが、「世界が滅ぶ」なんて不吉な話は聞きたくなかったからです。
アリアがあまりに必死に叫び、狂ったように泣きわめくので、村の人たちはだんだん恐ろしくなりました。
「あの子の目には、悪魔が棲みついたんだ」
「あの黒い未来は、あの子が呪いで呼び寄せているに違いない」
不安に飲み込まれた村の人たちは、広場に大きな木の杭を立てました。
世界を真っ黒に染める呪いを、火で焼き払ってしまおうと考えたのです。
アリアは杭に縛り付けられました。
赤い炎がパチパチと足元で踊り始めても、アリアはただ、空にあるはずの「明日」を探して泣いていました。
「だめだよ、お願い。火を消して。あしたが見えないの。真っ黒なの」
でも、炎は無情に燃え上がります。
アリアの意識が遠のき、その灰色の瞳が光を失った、まさにその時でした。
アリアの予言通り、世界は一瞬にして、本当の真っ黒な闇に包まれました。
悲鳴をあげる間も、逃げ出す間もありません。
音も、風も、時間さえもが、ぷつりと消えてしまったのです。
村の人たちは、最後まで気づきませんでした。
アリアが見ていた真っ黒な未来。
それは、世界が滅びる姿ではありませんでした。
ただ、世界でたったひとりの観測者であった「アリア自身」が、この日、この場所で死んでしまうから。
彼女がいなくなったあとの世界を見る目が、もうどこにもいなくなってしまうから。
だから、彼女の瞳には、自分のいない未来がただ「真っ黒」に映っていただけなのでした。
誰も見ることのない朝は、もう二度とやってきませんでした。