もしもうちはイタチがナルトの兄だったら   作:パイマン

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ネタバレ:大蛇丸の木ノ葉崩しは原作以上に大失敗




サスケは犠牲になったのだ……

「――しっかし、ナルトが縄抜けの術を出来ないとは予想外だったなァ」

 

 夕暮れ時の道を三人は歩いていた。

 演習場へと繋がる道である。

 一度通った道を、再び戻っているのだ。

 

「アカデミーで教えている基本中の基本技デショ?」

「おちこぼれだったナルトが、その基本を覚えてるわけないわよ」

「フン、ドベが」

 

 カカシの疑問にサクラが肩を竦めながら答え、サスケが呆れたように吐き捨てた。

 

「でも、いちいち三人揃って迎えに戻らなくてもいいのに。先生が迎えに行けばいいじゃない?」

「サクラってば、薄情だねぇ。お前ら三人はもうチームなんだから、一蓮托生だよ。苦楽を共にしてかなきゃ」

 

 思わぬ正論に、サクラは続いて出そうになった文句をぐっと呑み込んだ。

 チームを軽く扱うことの愚かさは、つい先ほど目の前の担任から痛烈に批判されたことだからだ。

 自己嫌悪に肩を落とすサクラを見下ろして、カカシは覆面の下で気付かれないように微笑んだ。

 子供らしい考えなしな部分はあるが、こういう素直な所はナルトに続いて扱いやすい。好ましいとも思う。

 そういう意味で、一番扱いにくいのはあっちだなァ――と、黙々と歩くサスケを一瞥した。

 確かに才能は三人の中で一番優れているが、それを正しい方向に成長させ、導くのが一番難しいのもサスケである。

 教える側にも根気と、何より相性が要求されるだろう。

 今後のことを思い、カカシは一人頭を悩ませていた。

 やがて、三人は日が沈む前に演習場へと辿り着いた。

 カカシとの演習でズルをしたナルトは柱に縛り付けられ、そのまま放置されているはずである。

 

「あれ、ナルト……と、誰かしら?」

 

 確かに、ナルトは縄から抜けることが出来ずに柱に縛りつけられたままだった。

 しかし、その傍にいつの間にかもう一人、カカシと同じような木ノ葉の忍者装束と額当てを着けた男が立っていたのである。

 

「あらら、オサキ君じゃないの」

「オサキ?」

 

 カカシの顔が覆面の上からでもそれと分かるほどに綻んだ。

 

「――っがぁあああ! 無理! 兄ちゃん、お願いだから縄を解いてくれってばよ!」

「力任せにやってどうする。術を使うんだ」

「だから、無理! オレ、やり方知らねーもん!」

「学校で習ったはずだ。イルカ先生も、その授業はしっかりやったと言っていたぞ」

「い、いやぁ……それは、その……」

「そして、お前が授業の時に居眠りをしていたとも言っていた」

「何だよ、知ってんじゃん! 分かってるなら、助けてくれってば!」

「開き直るな。分かっているから、やれと言っているんだ。今、ここで、学ばなかった分を学べ」

 

 騒ぐナルトをからかうわけでもなく、何処までも真面目にオサキは応じていた。

 

「先生、あの人って――?」

 

 二人の関係を知らないサクラが疑問を口にする。

 

「ああ、あいつは――」

 

 それにカカシが答えようとして、

 

「ん――?」

 

 オサキがカカシ達の存在に気付き、

 

「お――?」

 

 釣られるようにナルトが視線を走らせる。

 

「――」

 

 その時だった。

 呆然とオサキの姿を見つめていたサスケの様子が豹変した。

 

「うちは……イタチ……!」

 

 唐突に発せられた、刃のように鋭い殺気がオサキを射抜いた。

 その瞳を憎悪に燃え滾らせ、真っ直ぐにオサキを睨み据えている。

 

「何で、アンタがここにいるんだァ!!?」

 

 半ば錯乱気味に叫びながらも、サスケの体は衝動に突き動かされるまま動いていた。

 演習で使用した忍び道具一式がまだ手元に残っていたことを幸いに、ありったけの手裏剣を投げつける。

 手加減など一切ない。確実に殺す為の攻撃だった。

 あまりの速さにサクラは反応出来ず、ナルトは飛んでくる凶器に顔色を変えた。

 カカシは、ほんの少し目を見開いただけだった。

 矛先を向けられたオサキに至っては、顔色一つ変えていない。

 その表情のまま、片手で飛来する手裏剣を全て掴み取った。

 更に、投擲に合わせて間合いを詰めていたサスケの蹴りを、もう片方の腕で受け止める。

 

「……何か誤解があるようだが?」

 

 自分に向けられる謂れのない憎しみの視線を見返して、オサキは言った。

 しかし、サスケはそれに応じなかった。

 舌打ち一つして蹴り足を戻し、間合いを取る。

 オサキはあえてその動きを見送った。

 

「話し合うつもりはないか?」

「アンタと話すことなんかねェ!」

 

 サスケの両手が素早く印を結ぶ。 

 カカシとの戦いでも使用した術だった。

 

 ――火遁・豪火球の術!

 

 チャクラによって火球を生成し、それを標的に向けて吹きつける。

 広範囲に広がる火炎を、カカシの場合は土中に潜ることで回避した。

 しかし、オサキはその場を動かず、かといって対抗する為の何らかの術を使用する素振りも見せない。

 

(くたばれ……っ!)

 

 サスケの殺意を反映したかのような凄まじい炎に向けて、オサキは片手を差し出した。

 その瞬間、全身を包み込むように迫っていた火炎が霧散した。

 

「なんだと……!?」

 

 サスケはもちろん、外野のナルトとサクラも驚愕する。

 カカシだけが、オサキの行ったことを冷静に理解していた。

 手のひらを中心にして竜巻のようにチャクラを回転させ、それをぶつけることで炎を吹き散らしたのだ。

 

(あれは『螺旋丸』か。わざと術を崩したな……)

 

 本来ならば、回転したチャクラを一点に集中して破壊力を高める術である。

 オサキはあえて不完全なものを使用し、更に力自体もかなり手加減している。

 それでもサスケの未熟な火遁を打ち消すには十分だった。

 

「チッ、どういう術だ!?」

「今のが見抜けなかったのなら、それはお前の眼が曇っているからだ」

「なんだと!?」

「感情だけが先走り、冷静さを欠いている」

 

 オサキは手を降ろし、再び無造作に佇む姿勢に戻った。

 

「お前は俺を殺したいようだな」

「当たり前だ!」

「……いいだろう」

 

 サスケがオサキを睨み、オサキもまたサスケを見つめ返す。

 その時、サスケが抱いたものは戸惑いだった。

 目の前の男は、憎んでも憎みきれない存在である。

 そのはずである。

 しかし、そんな忌むべき男が自分を見つめ返す瞳は、驚くほど真摯だった。

 かつて見たはずの冷酷さも、蔑むような色もない。敵に対する殺気さえ。

 ただ真っ直ぐに自分を見ている。

 敵意はない。しかし、決して対等な目線ではない。敵として認められてさえいないとも受け取れる。

 しかし、これはまるで昔のように――。

 

「お前が落ち着くまで付き合ってやる」

 

 オサキの言葉に、サスケは我に返った。

 

「――今更、兄貴面すんじゃねぇ!!」

 

 激昂しながら、サスケは襲い掛かった。

 拳打。

 蹴撃。

 間合いを詰め、離し。

 フェイントを織り交ぜて、死角を突く。

 持ち得る限りの体術を駆使して、サスケはオサキを攻め立てた。

 息もつかせぬ連撃。

 しかし――。

 しかし、それは『攻防』として成り立ってすらいなかった。

 サスケの必死の攻撃を、オサキは余裕さえ持って受け流しているのだ。

 

(駄目だ! まるで歯が立たねェ……!)

 

 自分の攻撃をいなすだけで、一度も反撃してこない。

 

(『あの時』から、少しも差が縮まっていない!)

 

 それはつまり、相手にとってこれが戦い以下の遊びに過ぎないという事実だった。

 

「何を焦っている? 動きが雑になっているぞ」

 

 攻撃をかわしながら助言する余裕さえ見せるオサキを、サスケは憎々しげに睨み付けた。

 そう『憎しみ』――それだけが目の前の男に向ける感情のはずだ。

 それ以外に感じ入るものがあるはずがない。

 あっていいはずがなかった。

 

「身体能力で勝る相手に力押しをするな」

「うるせぇ……!」

 

 サスケはただ一つの考えに集中しようとした。

 目の前にいる。

 こんなに近くに。

 手を伸ばせば届くはずなのだ。

 

「もっと動きを工夫しろ」

「うるせぇ!」

 

 そいつを殺すことだけを生きがいにしている相手に――!

 

「よし、今のはいい蹴りだ」

「うるせぇ! うるせぇ! うるせぇええええっ!!」

 

 湧き上がる苛立ちと共に怒号を吐き出し、全ての力を振り絞って拳を突き出した。

 しかし、渾身の一撃はそれだけに隙も多い。

 不用意な大振りの攻撃は案の定回避され、オサキは一瞬でサスケの背後にまで回り込んでいた。

 自身の失敗を悟っても、もはや遅い。

 背後の気配に悪寒が走り抜け、慌てて振り返った時には既に、オサキの突きが眼前にまで迫っていた。

 

(やられる……っ!)

 

 サスケは眼を見開き、しかし体は動くことが出来ず――。

 

「ここまでだ」

 

 トンッ、と。

 軽く額を小突かれる。

 それだけだった。

 

「あ……」

 

 思わず、額を押さえた。

 痛みはもちろん、何かの術を掛けられた感覚はない。

 しかし、懐かしさがあった。

 憎しみでも消せない。記憶に深く残る、どうしようもない懐かしさが。

 そして、消し去ったはずの憧れが。

 

「続きをしたいなら、また今度だ」

 

 そう言って背を向けるオサキを、サスケは呆然と見つめていた。

 

 ――許せ、サスケ。また今度だ。

 

 あの声が。

 あの背中が。

 脳裏に蘇る。

 サスケは無意識に、遠ざかる背中へ震える手を伸ばしていた。

 

「に、兄さ……」

「兄ちゃん!!」

 

 ぶつかるようにオサキに抱きつくナルトを見て、サスケの手は止まった。

 ナルトはいつの間にか、縄から抜け出していた。

 縄抜けの術の代わりに、身代わりの術を使うことで拘束から抜け出したのだ。

 オサキがかすり傷一つ負ってないことは知っていたが、それでもナルトは庇うように二人の間に立ち塞がった。

 

「やい、サスケ! オメー、どういうつもりだってばよ!? 何だって兄ちゃんに襲い掛かった!?」

「……にいちゃん?」

 

 サスケは信じ難いものであるかのように、ナルトの言葉を反芻した。

 

「その男が、お前の兄だと……?」

「そうだよ! オレの兄ちゃんだってば!」

「嘘だ!」

「嘘じゃねー!」

 

 思わず否定するサスケに対して、ナルトもムキになって言い返す。

 

「そいつは、うちはイタチのはずだ! オレの兄のはずだ!」

 

 確かに、冷静になって目の前の男を見てみれば、顔付きや背格好は自分の知る兄のものではない。

 瓜二つというほど似通っているわけでもなく、特徴だけを挙げていけば違っている部分の方が多いだろう。

 しかし――間違いない。

 サスケは根拠もなく、確信していた。

 見た目だけの話ではない。

 口調や雰囲気はほとんど同じ。

 気配、あるいは『魂』と表現してもいい、根本的な部分が自分の知る兄とそっくりなのだ。

 他人には分からない。あえて言うならば、同じうちは一族である――血を分けた肉親である――自分だけが感じ取れる何かが、確信を抱かせている。

 

 ――間違えるはずがない。

 ――他人のはずがない。

 ――ましてや、自分以外の誰かの兄であるなんて!

 

 目の前の男が、うずまきナルトの兄などと、到底納得できない。

 見た目の違いなど術か何かで変化させているだけだ、と考えた方がサスケにとってはよほど納得のいく理屈だった。

 

「寝惚けたこと言ってんじゃねぇってばよ! 兄ちゃんはオレの兄ちゃんだし、イタチなんて名前じゃねぇ! オレの兄ちゃんはオサキだ!」

「てめぇは黙ってろ、ウスラトンカチが!」

「んだとぉ!?」

「はーい、そこまで」

 

 ここに至って、ようやくやって来たカカシが二人の間に割って入った。

 オサキがサスケの相手をする分には問題なかった。実力差が大きすぎるおかげで、逆に危険な状況にはなりにくい。

 しかし、今のナルトとサスケを戦わせることは危険だった。

 頭に血が昇りやすいナルトはもちろん、普段はあしらう側のはずのサスケにも全く余裕がない。

 単なる喧嘩では済まず、互いに傷つけ合うことになるだろう。

 

「サスケ、落ち着きなさいって」

「離せっ!」

「ナルト、やめろ」

「でもさァ、兄ちゃん!」

 

 カカシがサスケを、オサキがナルトを抑える。

 ナルトが『兄ちゃん』と口にするのを聞いた途端、再びサスケが激昂しそうになったが、カカシは何とかそれを制した。

 

「ええと……結局、そっちの人って誰なの? サスケ君の言う『イタチ』って人? それとも本当にナルトのお兄さん?」

 

 奇妙な拮抗状態になってしまった四人の外で、サクラが恐る恐る訊ねた。

 オサキとカカシは一瞬眼を合わせた後、答えた。

 

「こいつは『うちはイタチ』じゃないよ。名前は『うずまきオサキ』で、先生と同じ木ノ葉の上忍ね」

「そして、正真正銘ナルトの兄だ」

 

 その答えにナルトは満足そうな表情を浮かべ――そして、サスケは誰にも気付かれない程度密かに、傷ついたような表情を浮かべていた。

 

 

 

 

「まっさか、あんたにお兄さんがいたなんてねぇ。しかも上忍! エリートじゃない!」

「えへへっ、オレの兄ちゃんってばすげえだろ?」

「そうね、あんたよりずっとイケメンだし!」

「そ、そりゃあねーってばよサクラちゃん……」

 

 オサキとナルトが合流し、五人は再び帰路を歩いていた。

 辺りはすっかり日が暮れて、暗くなっている。

 五人は自然と二つに分かれていた。

 オサキを話題にして無邪気に盛り上がるナルトとサクラ。

 それとは正反対に、オサキの話題が重く圧し掛かっている残りの三人である。

 沈黙を続けながらも明らかにオサキを意識している様子のサスケと、そんなサスケからの視線を淡々と受け流すオサキ。そして、その間に挟まれて気まずい空気を味わうカカシだった。

 

「……しかし、あれだね。サスケも何で、オサキとイタチを間違うかね?」

 

 カカシが思い切って話を切り出した。

 沈黙に耐えかねたわけではないが、ずっと気になっていた疑問だった。

 

「アンタも、うちはイタチを知ってんのか?」

「そりゃあ、有名人だしね。色々な意味で」

 

 うちは一族を皆殺しにしたSランクの重罪人として。

 

「だが、オサキのことはもっと知ってる。一緒に仕事をしたこともある同僚だからな。イタチとオサキが別人だってことは、俺が保証するよ」

 

 カカシは断言した。

 しかし、それでもサスケは納得のいかない様子で、カカシ越しに隣を歩くオサキを一瞥した。

 二人の会話を聞いているのかいないのか、前を向いたまま歩き続けている。

 先程から、ずっと同じだ。

 その気のない様子を見ていると、意味もなく苛立ちが湧いてくるのを感じた。

 無視されているのだと感じる。

 それが、何故か酷く気に入らない。

 

「……アンタもイタチと面識があるのか?」

「『アンタ』とは誰だ?」

 

 オサキがサスケを見ずに言った。

 

「アンタはアンタだ」

「ちゃんと名前を呼べ。そうすれば答えてやる」

 

 そう返されると、サスケは思わず口篭ってしまった。

 オサキ――と。その名前で呼べば、この男が『うちはイタチ』とは別人だと認めてしまう。

 自分の兄ではない――と。そう認めてしまう。

 それは何故だか酷く、嫌だった。

 認めたくなかった。本当に何故か、頑ななまでに。

 結局、何も言えなくなって、黙り込む。

 唇を噛んで俯いたサスケを、オサキが横目で一瞥した。

 その落ち込んだような姿に何を見たのか、小さくため息を吐いた。

 

「ああ、うちはイタチとは俺も面識がある」

「……友人だったのか?」

「いや。二、三度顔を合わせた程度の関係だ」

「そうか……」

「それに、あの男と友人にだけは決してなれない」

 

 話を聞いていたサスケと、カカシまでもが、思わずオサキの顔を見ていた。

 

「殺し合う関係にならば、無条件になれるだろう」

 

 変化のない横顔と声色には、確かに『殺意』と呼べる冷たさが感じ取れたのである。

 

「……あの男を、殺すのはオレだ」

 

 ――何故、殺し合う関係になるのか?

 ――二人の間にはどんな確執があるのか?

 ――あの男の敵なのか?

 ――オレの味方なのか?

 

 様々な疑問が胸を行き交い、しかし何一つ確かめる勇気も持てずに、サスケはかろうじてそれだけを口にした。

 自分自身の決意には違いなかったが、言葉にしてみればまるで何かを強がるような情けない響きに聞こえてしまう。

 恥じるように顔を背けたサスケを一瞥して、オサキの表情が僅かに和らいだ。

 

「そうか。ならば、もっと強くなることだ」

「アンタに言われるまでもないさ」

「そうか。すまん」

「フンッ」

 

 二人の間でやりとりを聞いていたカカシは、口元を擦った。

 覆面の下で僅かに綻んだ表情を、万が一にも悟られない為である。

 

(うーん、これはなかなか――)

 

 カカシは、オサキとサスケの関係が良い方向へ進みつつあることを感じていた。

 少なくとも、サスケの方はオサキを強く意識している。

 決して良い感情ばかりではないが、他人を寄せ付けようとしないサスケが、自分からここまで積極的に踏み込もうとする相手は初めてだった。

 オサキの方に、そんなサスケを受け止められるだけの余裕や包容力があるのも、二人が上手く噛み合う理由となっている。

 相性がいい――そうとしか言いようがなかった。

 

「オサキ君や」

「何でしょう、カカシさん」

「君、俺と一緒に先生やってみない?」

「は?」

「いや、冗談なんだけどね」

「はあ……」

 

 半分は本気だった冗談を誤魔化すように、カカシは曖昧に笑った。

 

 

 

 

(何をやってんだ、オレは……)

 

 サスケは苛立っていた。

 自分が理解出来ない。

 自分がコントロール出来ない。

 自分のことなのに。

 

(こいつがうちはイタチじゃないってんなら。オレとは赤の他人だってんなら――どうでもいいだろうが、何を気にする必要がある?)

 

 自分でも気付かない内に、サスケの歩みは四人よりも遅くなっていた。

 カカシとオサキは久しぶりに会った知己との会話が弾み、自然とサスケから意識が離れていた。

 

(いや、何も気にならないわけじゃない。何故ならこいつは強いからだ)

 

 自然とサスケはオサキの背中を見上げる位置になっていた。

 

(なにせ、カカシと同じ上忍だ。こいつの強さを少しでも盗むことが出来れば、うちはイタチを殺す為の力になるかもしれない)

 

 こうして背中だけを見ていると、やはり似ていると思ってしまう。

 

(それだけのことだ――)

 

 かつて、ずっと追いかけていたあの背中と同じものにしか見えなくなってしまう。

 

(それだけの――)

 

 悲劇が起こる前。

 ただ純粋に憧れるだけでよかった。

 ただ疑いもなく目指し続けることが許されていた。

 尊敬する兄の背中。

 

(――この人が兄とは違うというのなら、憎む必要だってないんじゃないのか?)

 

 兄とは別の、しかし限りなくよく似た背中。

 憎しみのフィルターを通して見ることも、仇という枷に縛られる必要もない存在。

 

(ただ純粋に、誰に憚ることもなく――)

 

 サスケはオサキを憧憬の眼差しで見上げていた。

 

「兄ちゃん!!」

 

 そこで、サスケは我に返った。

 いつの間にか、オサキのすぐ隣をナルトが歩いていた。

 

「どうした、ナルト?」

「ずっと気になってたんだけどさ、兄ちゃんってばサスケと戦った時に見たこともない術使ったじゃん!」

「ああ、火遁を散らした術のことか?」

「そう、それそれ! あれさ――!」

「駄目だ」

「まだ何も言ってねーってばよ!」

「お前に教えるには、まだ早い」

「何でだよ!? あれって印とか結んでなかったしさ、片手でやっちゃって、すげー簡単そうだったじゃねーか!」

「いずれ教えてやる。今はまだ無理だ」

「兄ちゃんは、いっつもそればっかだってばよ!」

 

 オサキとナルトのやりとりは、自然と他の三人の目を惹いた。

 サクラは仲の良い兄弟らしい光景に微笑ましさを覚えた。

 カカシもまた同じような気持ちで眺めている。

 そして、二人よりも一歩退いた位置で、

 

「ぁ……」

 

 サスケは、二人のやりとりを奇妙な既視感に包まれながら、呆然と眺めていた。

 

「許せ、ナルト。また今度だ」

 

 不満を洩らすナルトの額を、オサキが軽く小突いた。

 

 ――かつて、兄が自分にそうしたように。

 

「なんだよォ、いつもいつも『許せ、ナルト』って頭小突くばっかりでさ……」

 

 恥ずかしそうに額を押さえながら、すっかり勢いを失った調子でナルトがぼやく。

 

 ――かつて、自分が兄にそうしたように。

 

 ぼやきながらも、何処か嬉しそうに笑ってしまう。

 

 ――かつて、自分が兄にそう感じたように。

 

 かつて、自分が。

 かつて、兄が。

 そうしていた。

 そのやりとりの中に居たのは、自分と兄だった。

 お前じゃない。

 そこに居るのはお前じゃない。

 そこに居るのはお前の兄じゃない。

 そこに、居ていいのは――!

 

「――あれ、サスケ?」

 

 背後の気配が消えるのを感じ取って、カカシは振り返った。

 しかし、後ろを歩いていたサスケの姿は既になかった。

 




ネタバレ:原作以上にサスケとナルトの仲が拗れる
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