※ぎむねま様の作品 『死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~』の二次創作です。
※この話にはTS(性転換)要素を含む性描写があります。苦手な方はご注意ください。
※正真正銘の初投稿です。何か不備があった場合、感想欄にてご指摘お願いします。
1/31追記 念のためR-18タグを付けていましたが、内容的に直接描写を十分避けられていると判断したためR-15タグへと変更しました。また、内容の一部に独自解釈を含むためタグを追加しました。
その夜、大森林の冷気はいつもより深く、空気はひどく乾燥していた。
これだけ寒いと筋肉の粘りが低下して筋トレしてもあまり効率が良くない。その日のルーチンを早々に切り上げた俺は素早く風呂場で汗を流して、最低限の瞑想を行ってから寝ることにした。無駄に疲労を溜めても良いことなどひとつも無い。こういう日はさっさと寝るに限る。
──と、そんなわけで、寝床で横になっていたのだが。
「……おい、高橋。何の真似だ」
暗闇の中、背後に忍び寄る気配と毛布に滑り込んできた『熱』に、俺は低く声を絞り出した。
「いやあ、だってほら。寒いんだもん。この方があったかいし寝やすいだろうと思ってさ」
悪びれもせず、ユマ姫は俺の背中にぴたりと体を寄せてくる。薄い寝巻き越しに伝わる体温は、友人に対する悪ふざけと言うには度を超していた。さすがにこれは看過できないと俺は身を起こして離れようとしたのだが、それを押し留めるようにユマ姫が身を寄せてくる。マジでやめろ!絵面が大変なことになっている。男女。互いにほぼ裸。片やオッサンで、片や年若い少女。セーフな要素が一切ない。
「んっ、動かないでください。動かれると抱き枕にしにくいです」
「いや、駄目だろこれは。お前、俺を犯罪者にしたいのか」
「表向きは私たちは夫婦ということになっていますし。言い訳は立ちますよ」
「何に対する言い訳だよ!」
「
「……お前意味分かって言ってんのか?」
ユマ姫が背後から腕を回して、俺の腹部をまさぐってくる。「おいっ」と抗議の声を挙げるが、俺が全力で抵抗したら十代の少女の体重など軽く吹っ飛ばせてしまうので、力加減が分からず却って振りほどきにくい。
「ふふっ。タナカ、もしかして期待しているのですか?我慢しなくてもいいのですよ、私にどうして欲しいのか言ってご覧なさい」
「何のエロゲのセリフだそれは……じゃなくて、おい、止めないと怒るぞ」
「うーん、だってさぁ。俺がエッチなことしようぜって言っても、木村もお前も何故か避けてきて、誘う側のこっちとしては悔しいじゃん?そろそろお色気イベントのひとつやふたつでも起こして、俺の魅力を思い知らせてやらなきゃプライドが──あっ、そうだ」
突然何かにひらめいたような声が聞こえたかと思うと、ユマ姫は脚まで使って俺の背に全身で絡みついてきて……かぷっと思い切り首筋に嚙みついてきた。鋭い痛みに、思わず声を荒げてしまう。
「いってぇ!なにしやがる!」
「んっ、ほら。以前、噛みつかれて興奮したって言ってたじゃん。そういう性癖かと──」
「くっ……、ふざ、けるなっ、ライン越えだバカ!」
俺は跳ね起きるようにしてユマ姫を組み伏せ、その両手首を寝台に抑えつけた。反射的な動作だった。だが、力ずくで排除しようとした俺の動きは、そこで止まった。
月明かりの下、乱れた銀髪の間から覗く彼女の瞳が、真っ直ぐに俺を射抜いていた。至近距離。互いの吐息が混ざり合う近さで、俺の体は隠しようのない『反応』を突きつけていた。
正直に言おう。猛っていた。抑えつけられたユマ姫の太腿に、言い逃れのしようもなく俺の獣欲の証が接触していた。そのありさまを見ても、ユマ姫は、高橋は、動じた様子もない。
「……ふーん」
ユマ姫が、小さく口角を上げた。反省の色など微塵もない、それどころか、まるで獲物の弱点を見つけたような得意げな表情。
その瞳にどうしようもなく惹かれてしまう自分に、心底舌打ちしたくなる。なぜ俺は、初めからコイツを正面から取り押さえなかったのか。俺の目の前に居る少女は間違いなく『高橋』だ。でも、それと同時に、18年間を女性として過ごしてきた『ユマ』なのだ。もしかすると俺は、ずっと親友だと思っていた相手の──オンナとしての表情を見るのが怖かったのか?
「ねえ、田中。……辛いなら、それ、慰めてあげようか?」
「……っ」
皮肉を叩き返すべき口が、動かない。
だが、何よりも俺にとって、高橋を女として見るような反応をすることに抵抗感があった。例え冗談だとしても、そうした言葉をひとたび口にしてしまえば冗談では済まないからだ。それを言葉にしたら、俺は友人としての資格を失うと思ったからだ。俺は女よりも、前世からの友人を選びたかった。そういうことだったらしい、と、この土壇場で自覚する。
でも、高橋からはどう見えているんだ?
ひょっとしたら、もうとっくに高橋の自認は年相応の少女のものになっていて、友人としての変わらぬ関係など、初めから望んでなどいなかったのかもしれない。もし、友人として扱うべきだという思い込みを、ずっとこちらが一方的に押し付けていたのだとしたら?少女の発展途上のアイデンティティを、高橋敬一という役割を常に想起させ続けることで歪ませてきたのだとしたら。
「こんな私を見て、幻滅した?友達としての悪ふざけじゃなくて、はしたない女の子の顔をされるのは、嫌かな?」
「違っ、俺は。そうじゃねぇ、そうじゃねぇんだッ」
「俺は……ううん、私は。ちゃんと女の子にだって、なれるんだよ?」
こちらを確かな意志を持って見つめる少女の瞳に、どんどん理性が吸い込まれていく。
思えば、俺の知る高橋らしくない、そうした変化の兆しは確かにあった。特に思い出されるのは、ここ数か月で一緒に過ごした時間。陽だまりの中での彼女の表情。仕草。言葉遣い。思い出すほどに、高橋という存在の一挙手一投足が『高橋敬一』ではなく、『高橋ユマ』という一個の少女のものに思えてくる。
だがそれもまた、俺の中に生じた、俺にとって都合のいい幻想なのかもしれなかった。だってそうだろう。俺は今、どうしようもなく、ユマの『女』の部分に反応してしまっていて、理性など有って無いようなものなのだから。
もう彼女を拘束するどころではなかった。ベッドに両手を突いて、襲いかかりそうになる本能を必死に抑え込む。俺の手が、指が白くなるほどの強さでシーツを掴み、震えている。
「あはっ、ようやく素直になった。……他人の
うずくまった俺の耳元に、ユマのささやくような声が熱っぽく響く。肌着をすり抜けて、彼女の指先が俺の『熱』の源へと伸びる。「やめ、ろ……」という抗議の声は、自分でも驚くほど掠れていた。それが単なる虚勢でしかないことは、もう、俺たち双方にとって自明だった。
少女の細い指が、俺の膨張した先端に触れたかと思うと、静かに優しく包み込んでいく。そして、まるで絹でも擦るかのような手つきの、たどたどしくも熱い愛撫。
幼い頃から見知った少女と長年の友人を、同時に汚してしまった。そんな絶望に近い背徳感が、皮肉にも俺の獣欲をかつてないほどに跳ね上げた。
「いっぱい、頑張ってきたよね。私のために、今までいっぱい、頑張ってくれたんだよね。……良いんだよ。気持ち良くなっちゃっても、良いんだよ」
ユマは、身悶える俺を正面から受け入れるように、包み込んだ両手で優しく俺の部位を撫でつけている。その両足は大きく開かれていて、剥き出しの太腿が俺の腰を挟み込んでいる。もう、俺には逃げ場なんてどこにもなかった。
興奮の昂りが最高潮に近付いているのを感じて、いっそこのまま、欲望をぶちまけて終わりにしてしまおうという考えが過る。そうすれば、この身勝手な熱をこれ以上彼女に向けなくて済むんじゃないかという、そんな自己弁護に縋ろうとしていた。 だが、彼女は俺の内心を見透かしたかのように。そのような俺の幕引きを許さなかった。
「ねぇ田中。キス、してよ」
凍り付いた。 ユマは目を逸らさず、俺の反応を観察するように、追い打ちの言葉を重ねる。
「キス、してほしい」
それは、お姫様からの命令でも、友人としてのお願いでもない、どこにでも居る普通の女が好いた男に向ける、ごく自然な要求だった。同時にそれは、俺が築き上げてきた最後の堤防を決壊させる、止めの言葉だった。
打ち崩された俺は、倒れ込むしかない。目の前には、まるで俺の全てを受け入れようとでも言うような、
重なった唇は、驚くほど不器用で、ひどく熱い。この世界での過酷な旅路と、積み上げてきた全ての『友人ごっこ』が、口付けの圧力に押し潰されてその形状を変えていく。始めはたどたどしかった接触が、どちらからともなく、貪るような、飢えた獣のような深い接吻へと変わった。
俺は、何も言わなかった。愛しているとも、綺麗だとも。傷つけたくなどない、とも。ただ、狂おしいほどの力で彼女を抱き寄せ、その白い肌を覆う布を、焦燥に任せて剥ぎ取っていった。ユマもまた、俺の求めに応じるように服をなぞり、許可を得た肉食獣のような獰猛さで、俺を丸裸にしていった。
言葉を捨てた暗がりの中で、ただ、激しい鼓動と、衣擦れの音だけが、二人の『終わりの始まり』を告げていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
唇と唇が触れ合ったその瞬間に感じたのは、イタズラが成功したかのような達成感と、ひたすらの歓喜。田中が、俺とのあらゆる関わり方を踏み越えて、新たな一歩を踏み出してくれたことがこんなにも嬉しい。俺を茶化すようなことを一言も言わなかったことが嬉しい。
それらの喜びは本物だった。ただ、激しさを増す互いの熱情が全ての思考を押し流そうとする中で、それでも俺の中にはどこか一歩引いて、冷静に今の状況を俯瞰している部分があった。
──ああ、やっぱり。肌が重なった瞬間、分かってしまった。この手慣れた指先。俺の反応を確かめるような、迷いのない愛撫。──こいつ、童貞じゃないんだな。俺の中の、高橋よりさらに昔の前世の記憶たちに指摘されるまでもなく、
私の胸や、腰や、臀部を上等に撫ぜる指先の、そうした『女の扱い方』を、田中に教えたどこかの別の誰かが居る。そのこと自体は、予想していたほどショックではなかった。むしろその妙な納得感に、どこか安心すら感じている。そうだよな。俺の中の
そう、子供と大人。今の俺は、私は、18歳だ。もう子供ではない。むしろ自分の存在が、いま目の前で田中のことを獣のように昂らせているという事実に、田中がその
そのときだった。
背中に回した私の指先が、彼の肌に触れた瞬間──心臓が跳ねた。
(……何、これ)
無骨で、鋼のように鍛え上げられた背中。そこには、私の知らない『硬さ』があった。指先でなぞれば、幾筋もの細い、あるいは歪な傷跡が、まるでそういう紋様であるかのように刻まれている。私の前ではいつも無敵のヒーローのように振る舞う田中には似つかわしくない、醜くのたくった、命を直に削ったような死闘の痕跡。
いつ?どこで?これは俺を守るために付いた傷だろうか。共に乗り越えた戦いを振り返る。あの時だろうか、それともあの時か?
──ゾッとするような感覚が背筋を走る。どれも違う。俺と再会してからのものではない、それよりずっと古い時期に付いたものだ。おそらくは、まだ肉体も未熟で、剣士としても足りていなかった、転生直後の期間──俺の不運に巻き込んで、一緒に転生する羽目になってしまったがために付いた消えない傷跡。俺が原因を作った、俺の存在が付けてしまった傷跡の数々。
(……俺の、せいだ)
俺なんかの『偶然』に巻き込まれて一緒に死んだりしなければ。きっと田中はちょっと剣道が強いだけの学生として少年時代を過ごし、普通に進学して、彼女も出来て、就職と結婚を経て、ごく普通の家庭を持ったのではないか。 俺が居なければ、平和な日本での生活を失うことも、これほどの苦労をする世界に転生することも無かった。その事実に気付いてしまった。
(……ごめん。田中、本当に、ごめん)
謝罪の言葉が喉元までせり上がる。けれど、それを口にすることは許されないことだ。今、コイツに「ごめん」なんて言うのは、あまりに身勝手な自己満足だ。俺の不運に付き合って、ボロボロになりながらも俺をここまで運んできた『相棒』に対して、そんな安っぽい言葉で済ませていいはずがない。
たなか、と思わず声が出てしまう。幸いなことに、それを私の切なげな懇願だと勘違いしてくれた田中が、俺の声に応えて口付けを重ねてくる。その優しさに涙が浮かぶ。駄目だよ、今そんなふうに優しくするのは。俺に相応しいのは、もっと乱暴な、鬱憤と性欲を晴らすためだけの、ただの凌辱。壊されてしまいたい。暴力で無理矢理組み敷かれて、欲望を吐き出す道具にされてしまいたい。綺麗な恋をする資格など、俺には初めから無いんだ。
「……高橋。お前、何かつまらないこと考えてやがるな」
──はっ、と息が止まった。
いつの間にかギュッと閉じてしまっていた目を開くと、田中が手を止め、こちらをジッと見つめていた。その目からは、先ほどまでの狂乱が消え失せていた。
見れば、互いの股間はすでに密着しており、今まさに繋がろうとしているその瞬間。田中にしてみれば、据え膳ならぬ秒読み状態。そこで田中は踏み止まっていた。なんという精神力。もしも俺が逆の立場だったら、絶対にその先まで押し込んでしまっていただろう。いっそ笑ってしまうくらいの、急停止。
「お前がそんな様子じゃ、俺には、できない。やっぱり俺は、お前を傷つけたくない。俺がわざわざお前を探し出して、今日まで一緒に進んできたのは、こんなふうにお前を壊すためじゃない」
「たな、か。なんで止まるの。なんで止まれるんだよっ」
「お前が大事だからだよ。高橋。お前に幸せになってほしいからだよ。ユマ姫。お前をどう呼ぶかなんて、もうこの際なんだっていい。お前には、笑っていてほしい」
武骨で剣だこまみれの大きな手が、壊れ物を扱うように俺の頬に触れる。その行動とは裏腹に、田中が離れて行こうとしている気配がする。いつものぶっきらぼうな声の中に見え隠れする優しさが、彼との距離を押し広げて行くかのようで恐ろしい。嫌だ。絶対に嫌だ。
「止めないでっ。行かないでよ、田中。
「まだ勘違いしてるな、
「……私が、田中を……どう思ってるか?」
「考えてみりゃ、今まで一度もお前の口から聞いたことが無かったからよ。なし崩しでこうなっちまったが、お前が泣いてるのを見て、自信が、無くなっちまった」
「わたし。私は……」
「聞かせてくれ。俺は、もう逃げねぇよ」
私の、気持ち。
──好き。
──好きだよ。田中。
──俺にとって世界より大事な友達で、私の
気付けばそう言ってしまっていた。
「ははッ。奇遇だな。俺もお前のことが好きだよ。それがよく分かった」
今度は、止まらなかった。
その晩、俺は人生で初めて、本当の意味で『女』になった。
Q.そういう性癖ですか?
A.そういう性癖です。
この作品の本編を書こうと四苦八苦しています。
書けたらこの文章は合併吸収される予定。
まあ、気長にね。