自分の事をNTRエロゲの竿役だと思っているおじさんVS幼少期から光源氏(動詞)されたが嫌いになるわけないシスター 作:心理的継続性を持つおじさん
だーいぶ仕事も落ち着いてきたのと気持ちに整理も付いてきたのでボチボチ再開です。
今回は続き物、4~5話で終われればいいなぁ……くらいを考えております。
人を動物から区別せしめたのは一体何なのだろうか?
「あー…あ~⤴……えぇ?違うの?」
ある者は火といい、ある者は道具という。きっと様々なものが挙げられるだろう。だが、この世界ではそのどれもに該当しないものが人を人たらしめたという。それは求愛の為でもなく、威嚇の為でもなく、ましてやコミュニケーションを取る為でもない。誰が始めたかさえ分からない無意味な音階、脈絡のない発話、誰も耳にしたことのないガラクタを叩く音と声。だけど、込められた感情だけは本物だったから、人はそれを別々のものとして分けた。
「ア、ラーララララ…ア…アァ………ダメ?」
か弱く若いメスの猿が意味もなく声を出したその時から猿は少女になったように。年老いた猿を見送るために鳴きながら叫んだ声がいつしか同じ音階にたどり着いた時、グループに所属する猿達は家族になった。
「一息で言っちゃだめなの?ブレス?」
動物を人たらしめるもの、それをこの世界における人は"歌"と定義した。
「わっかんない。口パクは?最悪誰かが代わりに歌ってくれるみたいなのない?」
この世界の人達は人の始まりを歌に据えたから、歴史や世界もそれにあわせて動き出す。つまり、文化体系においては歌を中心に紡がれているといっても良い。人々は日常的に歌を歌う。労働歌、雨乞いの歌、喧嘩をやじる歌さえもある。その中でもとりわけ注目される歌というものがある。神離れが激しい昨今でも、文化に根付いた歌が早々消えることはない。日本で言う処の盆踊りのようなものだ。文化、特に祭事へ取り込まれた歌や踊りは粘り強く世間に定着し続ける。
「なんか……古臭くない?」
聖歌、そう呼ばれるものだ。
「胡散臭くもあるくない?いやいや、ありがたいっていうけどさぁ…」
聖なる歌ともされるソレは、神を称賛する賛美歌の側面を持ち、神から与えられたという警句や聖句の意味を含む。伝聞で伝えるよりも歌にして伝えた方が広まりやすく覚えやすいという面もあったかもしれない。聖歌は神を賛美するにはあまりにも実利的で、そして切実な願いが込められている。
「本気にする方も方じゃない?」
幸せになってほしい、というものだ。
さて、ここに聖なる歌、聖歌の意義を全否定した女がいる。人々はこの女性を神に祝福された人として、聖女と呼ぶ。そう、聖女さんもといシスターさんである。
この聖女様は非常に怠惰で、ともすればパンダさんと同族ではないかと噂されるほどでもある。対抗馬はコアラさんだ。一日の大半を毒の消化に費やすために眠り、起きてる時も緩慢な動きをするコアラさんの方が近いのではないか……コアラさん派は急進派でありながら根強く残っている。パンダさん派は劣勢だ。最近、パンダさんらしい可愛さに疑いが生まれてしまったからもしれない。
ぐちぐちと文句を言い続ける欺瞞に満ちた聖女様はおうたの練習をしていた。もちろん順調にいくはずもない。まず、音程を合わせる前に歌詞を覚えるところから始めなくてはいけない。聖歌は実利的かつ伝わりやすさを重視している。聖歌はその宗教の中で古参……初めの方に生まれたものだから、宗教的性質が極めて小さいのだ。神聖さや厳かさを見出したのは後世の人達で、元々宗教は人のそばに寄り添うものである。
当時の人達に宗教を広めるには『他者に優しくする』という上っ面の言葉よりも、このようにした方が生活が楽になるといった実利の面を教えた方が生活が良くなったから、宗教もおのずとそうした知識を教える方面へ変化していったのだ。知識を独占するという考えは思った以上に広まらなかった。何故なら、地球よりもこの世界は環境的に過酷で四の五の言ってられなかったからだ。そうした時代背景を持つ聖歌も同様に簡単かつ実利を伴ったものになっている。
そんな聖歌でさえ聖女様は挫折していた。歌詞は簡単、音程もそこまで難しいものではない。ではなぜ聖女様が聖歌を歌えないのか?それは聖女様が聖歌がとても聖歌というものに聞こえなかったからだ。ある種毛嫌いしているといっても良い。
『世界は辛く、厳しいものだから助け合わないといけない。それは神から与えられた試練であり、共に乗り越えた先に人の喜びがある』
大体このような歌詞が登場する。これは宗教的色が強い部分を切り取って意訳したものだが、これに対して聖女は物申したかった。
「助け合わない子に人の喜びはないの?」
子供染みた考えだったが的を得ているものでもあった。この歌は隣人と手をつなぐことを強制する歌でもある。だが、人は多種多様で色んな人達がいるものだから、そこに好き嫌いもあるだろう。態々嫌いな人間の手を掴まなくてはいけないのか?無理やり繋がらせた手に一体何の価値があろうというのか。
聖女…いやシスターは常々そのようなことを考えていたから、あまり聖歌を好きになれなかった。それでも歌わなくてはいけない時が来る。ちょうど1か月後、祭事が開かれる時に聖女様のありがたい聖歌を披露する公演があるのだ。聖女というものになってしまったから、いやでもやらなければいけない。そんなことはわかっているけど、気分が乗らない。言ってしまえば単なる我儘だが、この我儘を解決したり諦めたくなかった。
一先ず休憩タイムに入ったシスターは愚痴った。
「プレイス様ーなんとかお祭り中止に出来ません?」
「む、無理だよシスターメレア。祭りは民の楽しみでもあり休日でもある。所謂ハレの日だ。外部の人も多くなるから商業も潤う。祭り一つ無くすだけでこの街の経済は弱くなる。街の一番の特色が宗教である以上……その祭事を無くしてしまうとこの街の価値が下がると言っても良い」
おじさんは苦心していた。何故ならおじさんはこの辺り一帯を支配している貴族であり、自身のお給料にも直結する税収……街々の豊かさというのは頭を痛ませるには十二分な代物だった。とりわけ、この街は特産品らしい特産品がない。内陸で平坦な土地だ。国境に面しているから下手に領地開発することもできない。戦争準備ととられる可能性がある。気候は安定しているから過ごしやすいと言えば過ごしやすいが、言ってしまえばそれだけなのだ。
また、この街唯一の特色は聖地、ひいては聖女が居ることだと言っても良い。此処は昔、偉いお坊さん的な人が気合で開墾して出来た街だからその宗教を信じている人々からはご利益があると来る者が多いのだ。いや、そこまで期待してはいない。あればラッキー程度だろう。そんな街で聖女が生まれた。奇跡と言っても良い。これはもうパワースポット間違いなしだろう。
この街は今一番ノリに乗ってる時期だ。パワースポットかもしれないという不確定が、パワースポットだろうという断定に擦り替わっている今だからこそ稼がないといけない。だから、シスターが聖歌を歌えないという問題は大きく、こうしておじさんも動員して説得しているのだ。
それはそれとして、なんだか難しいこと言われても嫌なモンは嫌である。見世物扱いと言うのも納得いかない。それが仕事だと割り切るにはあまりにも奇異の視線で見られるからだ。見たこともない人が自分を拝む様に言い知れぬ気持ち悪さを感じたのもあるだろう。シスターは真の意味で信仰を疑い始めている……。果たして、このようなことをさせる宗教というのはあっていいのだろうか?
そんな思想が頭の隅で渦巻いているから、発する言葉もおのずと世界を傾けるような言葉になる。
「……魔物が来たら中止されますよね?」
「…………もし、そんなことが起きたらね」
おじさんは極力言葉を伏せた。それは前世、フラグというものを知っていたからだ。しかし、極力伏せた分、強固にフラグが立ったような気がしないでもないおじさんは冷や汗を垂らしながら、なおも言い募る。
「もしそんなことが起きたらおじさんはもう貴族ではいられないかもしれないね」
「ぐっ……」
フラグは折れた。いや、一級フラグ建築士シスターが強固に打ち立てたフラグを解体業者おじさんが圧し折ったとも言える。魔物をけしかけて中止にさせようなどと言う浅知恵シスターとしてはおじさんを人質に取られるとキツイのだ。まずおじさんの人命が第一になる。それが脅かされるとなればこの作戦は白紙である。だが、人が想像できることはいずれ現実になるというように、シスターは願望を吐いた。……願うだけなら許されるのだ。願うことすら罪とするなら、祈りは全て罪になる。
「あーあ、お祭りがなんか爆発して中止にならないかなぁ」
「プレイス様ッ!隣国のッ!隣国のお偉方が祭りに来るとの連絡がっ!!」
シスターとおじさんの胃が爆発した。
次回からギアが掛かるぜ…!