自分の事をNTRエロゲの竿役だと思っているおじさんVS幼少期から光源氏(動詞)されたが嫌いになるわけないシスター 作:心理的継続性を持つおじさん
ちょっとヤバい女書くの楽しすぎるな……
そういえば家の鍵閉めたっけな。
「君は一つ勘違いをしているようだ」
人はなぜ、怒られている時に限って思考を宙に飛ばしてしまうのか。どうにか間に合わせたパーティーの真っ只中に堂々と衆目を集められたおじさんは自分が関わり様のない鍵の所在を気にしていた。本来、貴族と言うものは防犯の為の開閉を気にするものではない。大体のことは使用人がやるものであって鍵を閉めたかと疑問に思う事さえない。
自分が今まで関わったことがなかった鍵に想いを馳せる程、おじさんは追い詰められていた。
そう、確かに帝国は聖女を求めていた。それは事実だ。帝国では原則魔物にしか適用されない法則だから魔法という名が当てられているソレは、凡そ戦争や政治、流通、生産、ありとあらゆるものを一変させる力を持っている。だが、タネのわからない技術を生活基盤に据えるほど帝国は困窮していない。いつなくなるかさえわからないものを恒久的に使おうという方がおかしいのだ。
魔法は未だ解明されていないものだから、どちらかといえば研究対象としての意味合いが強かった。何が出来て、何が出来ないのか。仮想敵になり得る相手だから一つの仕草でさえ見逃せない。シスターさんが視線でハリネズミになっている頃、生粋のジロニストになってしまった他称吸血鬼女はひたすらにおじさんへダル絡みをしていた。
「そうだね、帝国の地元料理があるだろう?君も食べたことがあるはずだ」
「えぇ、まぁ」
帝国は複数の国が寄り集まって出来ている実質共和制みたいなところがある変な国だ。だがしかし、帝国という名を名乗っている以上、皇帝というものが存在し統治しているという。だが、その皇帝が姿を現したことは未だかつてない。尊い身を外に見せることは恐れ多いとしているが、他国の見立てでは存在しないからとされている。色んな国が集まっているから、誰が代表になるのかを決めようともめにもめて、遂には存在しない皇帝を据えたのではないか……と。
存在しない皇帝を崇める帝国では芋っぽいバナナが流通している。甘味がほとんどなく、ネットリとしていて主食に据えられている芋っぽいバナナだ。食べてみると意外にいけるし焼けばもっとうまい。潰して生地にする料理も一般的だと聞く。
「それと同じなんだ。せっかく帝国に来てみたんだから、その国独自の料理を食べてみたい、そう思うのは自然なことだろう?」
………その理論で行くと自分はご当地ラーメンの類になるのでは?
おじさんが真理に辿り着きかけたのを即座に察知したのだろう。急激にブレーキとアクセルをベタ踏みして話をドリフトしたキーウィはそのままクラッチを切り替え、アクセルをベタ踏みした。
「君が悪いんだぞ。いつまでも頷いてくれないから痺れを切らすのも仕方ないじゃないか」
「そぉ…れは……」
おじさんは帝国の誘いをひたすらに断り続けていた。傀儡にされる未来しか見えなかったからだ。帝国としても国境に接している領主と仲良くしたいというのはわかる。だが、一歩間違えれば侵略ものだから下手に出ていた。それも今日が最後ということだろう。
だがしかし
キーウィ……帝国を実質的に支配している女傑にとっては心底どうでもよかった。そんなことよりも……
「そう、もし君が定期的にこちらに来てくれるなら、私も譲歩しよう。私と君との仲だ。ね?」
ラーメンだ。いや、ラーメンではない。ラーメンではないが、血だ。
キーウィは禁断症状が出ていた。恐らく表面上はマトモを装っているが極度の飢餓状態になっているだろう。あの爆弾みたいなカロリーを摂取したいという気持ちが溢れそうになっている。明らかに健康に悪い量と味は人を天国に旅立たせる。健康に悪いものは美味しいのだ。それは帝国を1世紀単位で見守ってきた女の出した結論だった。
ドカ食い気絶部に所属しているキーウィは血糖値スパイクを求めている。それなら普通にドカ食いすればいいだろうと思うが、未だこの国の食は現代日本と比較するのもおかしいがまだまだ途中だ。1世紀以上も生きている人間があらゆる食を試さないワケがない。
この時代に飽食を極めた人間に二郎系ラーメン並みのカロリー爆弾はまさに喉から手が出るほど欲しい代物であり、正直聖女のことなど知ったこっちゃなかった。長年の経験から魔法というものがどういうものかを把握している。魔法を扱える人が一人しか居ないと思うのがおかしいことで、人間という母数が大量にあるから試行錯誤も考察もしやすいというもの。
そんなことよりラーメンだ!いや、ラーメンではない。ラーメンではない…。ラーメンではないのか?本当に?本当の本当か?ラーメンかもしれないだろう。ラーメンという可能性を捨てきれない。ラーメンの要素が一片たりとも無いと言えるのか?なら、これはラーメンだ。
キーウィは未だおじさんの肌をじっと見つめている。冷や汗がまるでラーメンに浮かぶ油のようだと思えるほど錯乱しているこの状態でおじさんが現実逃避をするのも仕方のないことだ。まさに食われる寸前であり、それは性的なものではなく食欲的なものだ。齧られるだけならまだいいだろう。煮るなり焼くなり好きにすると良いと言ったら、積極的に煮て焼いて食うだろう。そんな眼光だ。
キーウィはラーメン、いやラーメンではない。おじさんを傍に置いておきたかった。それが無理なら自分がこっちに来ても良い。だがそうすると帝国が機能停止するのでおじさんを呼ぶしかなかった。月一の予定だが、正直に言えばもっと来て欲しい。週一だ。いや、毎日でも良いかもしれない。帰るのも億劫になるだろうから泊まれる場所を作ろう。やはり毎日か。そうだろうとは思っていた。すぐに用意するべきだ。
「良いかい?カロリー……じゃない、プレイス君。君は得難い人物なんだ。貴重で優秀な人材を手元に置いておきたいと君を評価しているワケだよ。味……じゃない、政治手腕を」
カロリーって言ったし味って言ったな?
おじさんはそう思ったが突っ込まなかった。何事も言わない方がいいこともある。社会を円滑に回すなら必須技能だった。だがそれを抜きにしても離れるわけにはいかない。
「私は此処を離れるつもりはありませんよ。可愛い娘も居る」
「ほぅ?」
眼中になかった聖女がようやく視界に収まり始めた女傑。だがそれは恋敵を見るようなものではなく、行きつけのラーメン店に行く道中、どでかい工事をしていて迂回するしかなかった人間が持つ負の感情であった。
即ち「面倒クセェことしやがって」と「邪魔されても食うが?」の二つである。
カロリーに憑りつかれた人間が道端の工事でさえ障害にならない。真夜中2時にラーメン食いに行きたいからと車を回す人間がいるように、ラーメンの為に国境を跨いできた女がたかだか聖女ごときなんら障害になり得ない。フンスと鼻息を鳴らす姿は可愛く見えるかもしれないが……その腹の内は信用してはならない。汚泥よりもドス黒く、人の業よりも深い長く生きすぎた人間の末路がそこにある。
「となると、君、少々所属する国の頭がすげ代わっても問題ないかい?確か君は左遷に近い形で領主になったな。覚えているとも。アレは愚かしく、しかし私にとっては英断そのものと感じた。…だが」
「……キーウィ殿?」
「英雄は生きていては困るんだ。戦争中に死んでもらわないとその後の報奨でとても苦労するだろう?欲を出されても出さなくても困る。非常に扱いづらい。だから不慮の事故に遭ってもらった方がいい。それが名誉の負傷であるなら猶更だ」
邪悪、人の悪性を煮凝りのように固めた女はその唇を紅く、朱く染めた。血、それは人間に通う生命の坩堝であり、命の水とも言える。それを啜り、
「時に、君。人は偶然死ぬこともある。賢王なら猶更だ。賢王や名君の唯一の欠点は寿命が短いことと言われたりする。天命だろうね。人が美しい花を摘むように神も美しい人を摘むんだろう……もし今ここでその天命が起きたならどんな選択をする?」
ドストレートの脅し、顔の上半分だけが笑い、下半分が真顔という非常に不気味な表情の女は静かに答えを待っていた。恐ろしく、そして帝国を陰で操ってきた黒幕は問う。今はニートしているラスボスよりもラスボスしているが、その本質は死ぬほど二郎系ラーメンが食べたいだけである。今更になるが、二郎系ラーメンと言っているのはおじさんの血だ。この女はカニバリストであり、人の血を啜ることを生きがいにしている。そんな中、奇跡的に二郎系ラーメンみたいな味がする血液SSRを引き当てたので必死に勧誘している。
だが、おじさんとて歴戦の社会人である。経験則として相手が脅しに来ている時は、それは余裕があるときではなく切羽詰まっていることが多い。納期の短縮や締め切りギリギリで連絡してくる相手方は、余裕がなく断られると非常に困るから脅しをかける。余裕のある人間が脅しに来ることは非常に少ない。時間に余裕があるから、相手の話は聞いてやろうという上から目線の気持ちになるからだ。時間に余裕があり吟味出来るから、脅しをかけるよりもネチネチと値引き交渉をしてくる。脅しは余裕がない、ネチネチは余裕がある。そう覚えよう。
唐突の社会講座はさておき、今この瞬間、おじさんは相手が後者の余裕がない時だと直感で悟る。此処がねらい目だ。色々譲歩を引き出せる。要求は自身の血、頻繁に飲みたいと考えている。ラインとしては週一…だと互いに政治の滞りが出る。月2、多くて3だ。だがそれを見せない。要求は相手が粘ってきたときに下げればいい。月1、月1だ。
「それは……困りますな。私としては月1くらいであればと思っていましたが……頭が変わるようでしたら忙しくもなりましょう。半年に1回会えるかどうか……」
「っ……。なるほどね」
ファーストアタック、釘をさす事が出来た。自分の血が目的な以上、頭が変わって困るというよりも、頭が変わって自分がどうなるかを伝えた方が通りやすい。国の有事だ。半年に1回会えないかもしれない。それは困る。だから、引かざるを得ない。
今おじさんは非常に輝いていた。ひたすらに胃を痛め続けてきたおじさんの気苦労は無駄ではなかったのだ。生を跨いで上司のパワハラに耐え続けてきた胃はすでに毒さえも効かない鋼鉄の胃と化している。世の貴族がこぞって欲しがる垂涎の胃だ。そこそこな頻度で毒を盛られたりもするがその効かない様子から暗殺者界隈でおじさんは毒を持っていると思われている。それはそれで化け物な気がしないでもないが、この世界はファンタジーだ。胃を痛めすぎて鋼鉄化することもあるだろう。ついでに食道含めた粘膜すべてがせり上がったり、ストレスで強い酸性を帯びた胃酸により同じく鋼鉄化している。おじさんが飲み過ぎで吐くとなんだか空気がピリピリするとは専らの噂だ。
実を言うとそうした内臓の頑強さが二郎系ラーメン特有の爆弾みたいなカロリーや味を生み出していることは言わぬが花だろう。
「キーウィ殿は私と仲良くしたい。それは私も同じですよ。なればこそ、平和的に話し合いましょう。運のいいことに話せる時間はたっぷりありますから」
おじさんはジワジワと女傑を追い詰めている。魔王の喉元にナイフを当てて宣戦布告する様は、その場にいた帝国役人に英雄を思わせた。英雄は死ななければならないという魔王に英雄が刃を突き立てたのだ。長年、只一人に支配され続けてきた鬱憤を晴らせる機会があるかもしれない。
言い知れぬ期待感を抱えた役人達をよそに、歴戦の社会人:プレイスと千年王国ならぬ専念帝国を成し遂げた女傑:キーウィの政治闘争が今、火蓋を切って落とされた。