自分の事をNTRエロゲの竿役だと思っているおじさんVS幼少期から光源氏(動詞)されたが嫌いになるわけないシスター 作:心理的継続性を持つおじさん
2026/03/13
最新19話『うっかり原作崩壊編:軽率に宇宙外の法則を持ち出したシスターさんは渾身の破壊呪文を唱えた』を一旦消去しました。先に読んでくれた方申し訳ない……。この話と次の話の後に改めて投稿します。続き物って意識が抜けて、先に投稿してしまいました。
改めて混乱させてしまうようなことをしてしまい申し訳ありません。
「僭越ながらジャッジはこの場に関係ない私が務めましょう。公正公平を誓います」
名乗り上げたのはおじさんの街では有名な豪商だ。この政治的な会においてお呼ばれされるほど優秀な人物であり、勿論ジャッジをしたことも一度や二度ではない。おじさんと同様、そのふくよかなお腹は贅肉だけでは説明できないほどの厚みがある。鍛え上げられた筋肉が贅肉の下にズラリと並んでいるのだ。動けるデブに分類される豪商はその手を上げた。勝負の合図だった。
「では、執政官殿、領主様。両者前へ」
「うん」
「あ、あぁ」
観客となった役人たちは互いにこの戦いの行く末を話す。もちろん酒を片手にだ。オッズはキーウィが1.3、おじさんが7.2だ。その6倍もある差はそのまま二人の評価でもある。寧ろこれでも高く評価されている方だ。一般的にキーウィと対峙する場合は最低10.何というほどで10を切っているというのはとんでもないことである。
『この試合、どう見るか?』
『難しいな。主導権は領主様が握ったが相手はあの執政官殿だ。アドバンテージと言っても僅かだろう』
『だが領主様自身の身柄を要求している以上、上に行っているのは領主様では?断られるのが一番困る』
『そこの落とし所をどうつけるかが初戦の見所か……』
『だろうな。この試合、荒れるぞ』
両陣の役人たちはしきりにこの試合について語っているが当の本人であるおじさんはそんなこと良いから早く助けてくれと思っていた。魔王に勇者一人で挑もうとしているのだ。いや、魔王ではないのだが心情的には同じものだ。仲間が欲しい。切実な想いがそこにあった。例え、それがレベル1の戦士でも魔法使いでも良い。言葉を選ばず言うのであれば道連れが欲しかった。だが残念なことに魔王は勇者の身体にしか興味がないので、これ幸いと仲間達は逃げ出したのだ。
「では、公式試合のルールに則り、三試合二本先取。タイムは両者1回ずつ。言葉被せ、意味のない発言による時間稼ぎは違反とみなします……始め!」
口火を切ったのはキーウィだった。
「まず、私の意見をはっきりさせようか。私は君が欲しい。それは良いかな?」
ジャブにしては想い……失礼、重いジャブが出た。懐へ潜り込んでのカエルアッパー!自身の目的をはっきり伝えつつ、主導権を握りに来たのだろう。試合前に乱されたペースをつかもうとしている。
だがしかし、その言葉には主語が抜けていた。
「訂正を。貴女が欲しいのは私の血、血液でしょうな。あまり語弊を招く発言は控えていただきたい。曲解する者も居ましょう」
「さぁ?それはどうかな。確かに血が目的だが、血だけで選ぶなら他にも居る」
続く次弾、勿論嘘だ。唯一無二の血なのだから代わりはいない。だが、血だけで選んだのかと言われれば否定するだろう。血のウェイトが重いだけで、おじさんの人柄や性格といったものもちゃんと加味しての評価なのだ。半分嘘で、半分本当。永い、永い時を生きてきた女が使う常套句だ。他に価値があると思わさせる。本人はそう言わないだけで相手に勘違いさせるのだ。そして、真実が知られるとしらばっくれる。貴方が勘違いしただけでは?……と。
「随分高い評価をキーウィ殿にしていただけるとは光栄だ。……だが私にも領主としての務めがある。この地を離れることは難しいことは理解していただきたい」
「君の代わりはいくらでも居るだろう?」
「では、私以外の者を探していただきたいものですな」
これは……!役人達は審判を見る。公正公平を謳っているが豪商はこの街の出だ。私情を一切挟まないと口では言えるが、何処までが私情で何処までが公正な判断か本人に区別はつかないだろう。
だがルールに則るならばキーウィの発言には一貫性があり、替えが効かない人材としておじさんを評価していることは明白だ。それを代わりの者を探してほしいというのは話が変わってくる。
一方でおじさんサイド、領主の代わりはいくらでも居ると言われると居るには居ると答えよう。どの時代、どんな場所でも権力を握りたい人間なぞごまんといるからだ。ちょっと政治的な危険が多いこの街の領主に名乗りを上げるバカ……失礼、大変勇気ある者も居る。
しかし、この街に住む人々にとっては、おじさんほど領主として優秀な人はいないとまで言わしめている。前世の価値観から下々の生活や考えに理解があり、こんなクッソ危ない所で今まで生き残って運営出来ているという事自体優秀な証だ。それに、おじさんは定期的に領民を呼んだ懇親会や街会議と呼ばれる町内会的な組合が開く会議にも出席したり、議題に目を通したりもする。
おじさんはベテランの中間管理職だ。ムチャぶりを吹っかけてくる「上」とそれにひぃこら言いながら答える「下」の中間で、ムチャぶりを「下」に伝え、一緒に仕事をしていた経歴を持つ。だが、いつの時代においても恨まれるのはムチャぶりカマしてきた「上」ではなく、それを伝えた中間管理職だ。敵意をぶつけやすい位置にいるから不平不満を言いやすく、「上」は中間管理職が緩衝材になってくれるから好きなことを言える。
そんな地獄みたいな経験がおじさんに「上」の顔色を伺いながら「下」へのフォローを欠かさないという天性の能力を開かせたのだ。人間は適応する生き物だ。遥か太古、武器であった牙や体温調整の為の長い体毛を捨て、手足という汎用性を持ったように。環境が人を強くするのだ。
おじさんにとって不平不満は不平不満“だけではない”。それは隠れた需要であり、価値なのだ。道が整備されていないという不満は、そのままインフラ整備という仕事につながる。領主として仕事……雇用を作り出すのも一つの役目だ。人は何もすることがないと腐ってしまうから、定期的に働かせた方が健康にも良い。やれ、どこどこの人の金回りが良いという不平は、そのまま税務調査といったことに行きつく。それが健全なものであれば構わないが、後ろ暗いものであればしょっ引く対象だ。
こうしたように、不平不満というのは逃しがたい価値の塊なのだ。だから、そんな話が聞ける街会議はおじさんにとって重要なものでもあり、出席率も高い。それが支持率の高さにもつながっているというわけである。
話を戻そう。何が言いたいのかというと、真に公平な審判など存在しないということだ。
「領主様に有効打!」
『何!?』
『グレーではないか!』
『いや、流れとしては強引だが理解できる範囲だ……』
『だが無理があるとは思わないかね!』
『しかし、執政官殿から見れば領主様以外の領主ならば如何様にも出来るということだろう!代わりが居るというのは“そちらにとって有利な”という枕詞が付かないか!』
『ぐ……だが!』
『だからこその有効打なのだろう!一本にならなかっただけマシだと思え!』
『なんだと!?』
客席乱闘だ!
役人達は酒が入っているからか気が大きくなっているようだった。ヒートアップした両陣は、初めは少し押し合う程度だったが次第に大きくなり終いには殴り合いの乱闘にまで発展していた。
怪我をした役人達はステルス迷彩で待機していた魔物達に治療されている。当然のように治療を受けているが、勿論認識錯誤が起きてそうなっている。当人の頭の中では怪我をしたから治してもらおうという意識しかない。シスターさんからお願いされていた魔物達は傷病者に不都合な情報を残さずに治療を完了させた。加えて、試合中の二人が集中できるように認識阻害をばら撒く事にも余念がない。気配りが出来る魔物達のおかげで、両者は役人達の大乱闘スマッシュオフィシャルズに気づくことはなかった。
「なるほどね。下々に好かれているようだ」
「……ありがたいことにね。だが審判、私は大丈夫だとだけ伝えておこう」
「…!わ、かりました。失礼、続けてください」
それは遠回しの忖度撤回であり、豪商を守る言葉でもあった。確かに嬉しいことだがその後、豪商の身に“不幸な事故”が起きないとは言い切れない。それならばここで釘を刺しながらヘイトをこちらに向ける必要がある。
どこまでも領民を守る事に意識が向いている気高き姿に豪商は心の中で涙した。この人しか居ない。この人の下でしかこの街は発展し得ない。釘を刺された以上、これからは厳格なルールが適用される。だが、それでも勝つのはこの人だろうという確信があった。
……それはキーウィも例外ではない。
芯がある相手だ。知らず、犬歯を舐めた。疼いたのだ。嗜虐心、それから警戒すべき相手という戦闘意識ともいうべきものがキーウィを切り替えさせた。今この時、牙を持った獲物という認識から牙を持った敵対者という認識に移り変わった。キーウィに敵として認められた人間は数少なく、そのどれもが歴史に名を残している。つまり、歴史に名を残すほどの相手と認められたということだ。
この時、ジロニストたるキーウィはラーメンしか見ていなかったこの瞬間から、店主を見るようになったのだ。勿論、店主というのはおじさん以外にほかならない。頑固一徹な店主を口説き落とし、店の経営権を手に入れるほかない……そういう思考だ。
金持ちのジロニストが自分の為だけにラーメンを作らせようとするのを頑なに断り続ける店主の攻防。それが動いたのは以外にも店主の方からだった。
「此処をはっきりさせていただこう。私は貴女の元へ行くことは出来ない」
「へぇ?」
とても低い威嚇……もとい相槌さえ店主は意に介さない。もう覚悟を決めたのだ。互いに意見は平行線ならこの試合は終わらないだろう。大事なのは落とし所を見つけることだ。
「私は先の言葉、月に一度を提示した。その代わり、貴女は何をしていただけるのかな?」
「………くッ!」
これは、決め技だ!すぐに返さなければ有効打になり得る発言。確かに、先の話し合いで月に1度という話はした。だがそれへの対価は提示していない。キーウィは脅しただけだ。その脅しに屈する形で月に1度と言ったが、なれどそれが対価を求めない理由にはならない。政治的交渉というのはそういうものだ。一方に利があるものでは済まされない。噛まれたならば噛み返すくらいの意地は見せないといけない。そうしなければ食い物にされるからだ。手傷を負わせて、コイツは面倒な奴だという意識を与えないといけない。
時間にして数瞬、キーウィの頭の中に様々な思考が駆け巡った。思考の材料たる時間が足りず、手に持っていた酒を飲み干す。喉を潤すことはルール上、認められている。もちろん、それまでの時間もだ。故にすぐさま飲み物に口を付けたのはさすが長年生きた吸血鬼だ。判断が早い。束の間の時間はキーウィにいくつかの思慮を与えた。それだけで十分だった。
「……そうだね。君が求めるものを、と言いたいところだけど何を言われるかわからない。君が皇帝になると言われたら私でも困ってしまうからね。提示できる物は三つ、金品といった財、労働者といった人、兵器や先進的な薬といった道具だ」
「ふむ……」
提示された三つはどれも悪くないだろう。財はそのまま街を潤す為に使える。何をするにも金は必要だから、それはとても役に立つ。だが、正直なところそこまで欲しいものではない。何故なら、単発的に手に入れた物に頼ると後々苦労するからだ。長い目で見るとそれは遅効性の毒にほかならない。人についても同様だ。所謂外国人労働者は確かに安くかつ大量に雇用できる為、街の発展に役に立つ。だが雇用を奪ってしまう事や街の人と馴染めるかどうかが問題になる。
つまり、三つの内二つはブラフ。最後の道具が提示された対価とみるべきだろう。だが本当にそうか?おじさんは疑惑の目を向けた。自分自身が月1と最低限の譲歩を提示したように、相手も最低限の対価を提示したのではないか。もっと他に出せるものがあるのではないか?
思考を巡らせる。公式ルールにおいて沈黙は発言の放棄とみなされ相手に有効打を与えることになるから、一瞬の思案さえ惜しいのだが、それでも裏を読む価値があると判断した。
「……10秒、沈黙により執政官殿に有効打」
「どうしたんだい?まぁ悩むのも理解できるけどね」
互いに有効打一つ、同じ状況に持ち込めたキーウィは精神的有利に立った。アドバンテージが消え、同じ舞台に立ったということだ。だが、その有効打を与えるほどの時間は、おじさんにとって黄金にも等しい価値があったと後世において語るだろう。
おじさんは一つの思考に辿り着いた。
「キーウィ殿の人脈について興味があるのだが、それはどうだろうか?」
後の歴史に残る名試合と呼ばれる所以、その技が炸裂した。