自分の事をNTRエロゲの竿役だと思っているおじさんVS幼少期から光源氏(動詞)されたが嫌いになるわけないシスター 作:心理的継続性を持つおじさん
世界は狂っていた。本当のところはわからないが、少なくともおじさんから見ればそのように映った。
背後、まるでジ〇ジ〇のスタンドのように男が立っている。頬は瘦せこけ目は虚ろだ。生気のない表情をしている。それなのに、まるで自分は此処に居る事が運命であるかのように梃子でも動こうとしなかった。
「う゛う゛っ……ソ、ソンナオトコ、ヨ、ヨリ、オ、オレ、オレレレレrrエッrrエ……」
おじさんは男にストーカーされていた。もっと言うと竿役に、である。しかもその背後にさえ知らない男が憑いている。まるでG・E・Rのように男が連なりあっているのだ。
その先頭、壊れた機械のように誘い文句を口にする姿は見ていて痛々しいが、それもやむに負えない……というよりこの世界のせいともいえる事情がある。
少し主旨から外れるが大事なことなので一つ、世界の始まりについて話しておこう。
この世界の始まりは歌とされている。厳密には、意味のない音階に意味を見出したことが始まりだ。
ただの無意味な線の集合体が芸術と評されるように、ただの無機質な音の羅列は音楽へと変わっていった。文字や絵よりも歌が先に発達したのはそれらをはじめに定義しなくてよかったからだ。そのままあるものを流用したに過ぎない。
このように世界の基盤として無意味なことを意味あるものに変えるという事を非常に重要視している。それは言葉を言い換えると成果が出るまでやればその努力は無駄ではないということになる。成果が出るまで努力を認めないシステムなのだ。
このシステムはありとあらゆることに強要される。それは竿役とて例外ではない。
この世界は一応言っておくとNTRエロゲーが原作だ。もちろん、原作だからといってちゃんと人は生きていて、世界はその台本通りに動くわけではない。だが、その基盤や設計思想はそのままとなっている。そう、NTRエロゲーの設定だ。
それによるとこの世界の男、特に独身男性と女性、特に既婚者は出会うことで倫理観が欠如するようになっている。まるで唐突に人格が切り替わったように竿役としての使命に目覚めるし、簡単に男に靡くようになっている。そうでない事例はあるものの、大なり小なり影響は受けるのだ。
NTR世界として設定されたのだから設定順守されねばならない……そのような世界の意思といえるようなものが世に蔓延っているのだ。
おじさんの背後に立つ先頭のストーカー。名前は特筆すべきことではないので仮にモブAとしよう。モブAはこの世界のシステムにずっと抗っていた。
なにせ既婚者である女性に手を出すことは犯罪なのだ。とりわけ、モブAは真面目過ぎる性格や潔癖な気質が災いし女性と関わる機会がそうそうなかったのである。だからこそ反動もより強いものとなったのだろう。運命的な出会いを果たしてしまったのだ。
それは下宿先の管理人の女性だ。モブAはとある工房で弟子として雇われており、師匠と仰ぐおやっさんの奥さんが管理している宿に住み込むようになり、奥さんに一目ぼれしてしまった。
ここまでならただの淡くも叶わぬ恋として胸の内にそっと秘められたままになるだろう。しかし、この世はNTRエロゲー世界だ。たとえストーリーが大きく外れようとも世界観がなくなるわけではない。
恋心が芽生えた直後、モブAにNTRアプリがインストールされた。もっと言うと元々インストールされていたものが立ち上げられたのだ。
だが、このモブA。まるで洗脳されたように生えて来たNTR思考に対抗し、約3か月の間、ほぼ寝ずに耐えているのである。
おやっさんを裏切るようなことはしたくない。おやっさんと奥さんの夫婦仲を邪魔するわけにはいかない。第一、相手は既婚者だ。一緒に居られることを喜んだ方が精神衛生的にもいいはずだ。
このように言い聞かせても胸の恋心はなくならないし、小さな自分が泣き叫んでいる。好きになった人はたかだか機会に恵まれなかっただけで手の届かぬものになった。もっと早く生まれていればと悔やんだところでどうにもならないし、愛を叫ぶには障害が多く、寧ろ自分が彼ら夫婦にとっての障害になる。そのような不義理、拾ってくれたおやっさんに出来るわけがない。なら、ならせめて、結婚できないのなら疑似的な子供になろう。仕事に打ち込み、おやっさんに好かれるよう努力し、子供のように扱ってもらおう。それがたとえ、傷ついた精神を保つための代償行為だったとしても、それが一番だ。
そう言い聞かせて。彼はぐっと耐えていたのだ。
そんな彼を救いあげようとしたのが世界だ。神が自らを信仰する者しか救わないのは、それ以外を世界が救っているからだ。言ってみれば担当部署が違うから、貴方を信仰しない者は地獄に落ちるのですか?と問われても担当が違うと返すしかない。そして、別担当部署である世界だってミスはするし、取りこぼしもあるだろう。だから世に救われない人というものが発生する。部署違いの悲劇だった。
そんな担当部署:世界が叶わぬ愛・恋を救おうとした結果、NTR思考インストールという暴挙に至った。愛や恋に罪も正義もなく、あるのは相手を想う心だけだ。それこそが重要視されるから、そのほかのありとあらゆる事柄は大したものではないと切って捨てられる。
そんなわけで、このような死にかけの状態となっているのだ。彼は今、システムの手先になっているし、背後に居る男達も同様にシステムの麾下となっており、行列を作っている。行列ができる繁盛店ならぬNTR行列ができるカップルだ。それほど狙われるカップルというのはちょっとうれしいかもしれないが、大半の人は嫌悪が勝つだろう。
今現在、おじさんとシスターはデート中だった。悲しいことにNTRできる気配を察知したアプリケーションが自動追尾でおじさんの背後を取っているのである。まるで背後霊のように付け狙い、虎視眈々とシスターをNTRする機会を窺っているアプリケーションに対して、モブA達が取れる行動はなかったのだ。
世界は狂っている。おじさんは叫びたかった。だがしかし、この世のルールとしてそうなっているのでもうどうしようもなかった。アメリカに生まれた人が銃社会の是非を問うわけではない。それは当たり前の話でそれを忌避するかどうかは本人次第だ。銃社会に生まれたからと言って銃を乱射する危険人物になるわけではないのと同じように、どれだけまともな人間が居ようともアメリカは銃社会なのだ。まともな人間にも銃で対応するという前提が生まれている。
生まれで人を判断してはいけないならそれは逆でもいえる事だろう。即ち、人で生まれを判断してもいけないだろう。どれだけ聖人が居ようとも異端者は弾圧され、どれだけ必死に理性で耐えしのごうとも脳にインストールにされたNTRアプリケーションがアンスコされるわけではない。せいぜい処理落ちを起こすくらいだ。
おじさんはそんな世界で唯一アンスコする事ができた人間だ。
この世は不思議なことで一度誰かが始めると、それが爆発的に広まることがある。インターネットしかり、電気しかり、車輪しかりだ。些細なきっかけがのちの世界を動かすブレイクスルーとなる。
おじさんは今にも死にそうな先頭のモブAに対していい加減にしろと言わんばかりに両の手で顔を挟んだ。不細工な顔になったモブAに対して、たまらず叫ぶ。
「目を覚ませ!君にはやるべきことがあるだろう!それを投げ捨てて、自分の人生を棒に振る気か!?……そうか、アレなら……シスター!魔法に呼びかけるんだ!」
ハッと思い浮かんだおじさんは声を張り上げ、腕に絡みついてもはや宿り木と同タイプの植物になりつつあるシスターを揺する。シスターは眠たげな眼をこすりながら口を開く。朝の10時、普段のシスターさんならまだ寝ている時間だった。
「『んにゃ~~~』」
もはや言語さえ伴わなくなった鳴き声は確かに魔法の色を持っていた。モブAに対してとある魔法が展開される。それは原作で黒幕(今は寝ている方)(だとどちらも同じなので今はニートしてる方)(だとこっちもニートであるため竿役の方)が使用していた魔法だ。相手を洗脳し、自分の意のままに操る魔法。自分の常識をそっくりそのまま変えてしまう魔法。名を逆夢という。
逆夢は見た夢と現実が逆になるというものだ。吉兆の夢をみれば現実で厄が降り注ぎ、凶兆の夢を見れば幸運が降りかかる。この世界はその人の常識や精神をそのまま逆位置に切り替えるという性質を持つ。また、ピンポイントで発動することもできるため非常に応用力があるのだ。
このように……
シスターに語り掛けられた魔法はおじさんの意を瞬時に飲み込んだ。おじさんは魔法は使えないが、だからといって魔法に影響を与えられないということはない。魔法は言語のようなものだから、身振り手振りでも簡単な物なら伝わるのだ。魔法は魔物達が扱う意志ある言語だ。もっというとAI搭載型の言語だ。身振り手振りでなんとなくあっちに行きたいんだろうという事も理解してくれる。
シスターの魔力を勝手に使って逆夢を展開し対象に搭載されているNTRアプリケーションを反転しにかかることくらい造作もない。寧ろ、大事なのは身振り手振りで合図してくれるおじさんの方だ。
会話というのは相互の協力なくしては成り立たないように、おじさんから対話の意思を見せたという事は魔法に意識されるという事に他ならない。魔法は魔物達が使う言語だ。意思を持たせたのはその方が都合が良いからで、喋ることすら億劫になった魔物達は言語に自ら喋らせるようにした。そんな、おざなりな対応から生まれた魔法は意識されることを強く求める。自らが魔物達の代表なのだという自負がないとやってられないというように。
人間達が扱う魔法はとても強力でとても便利だ。それは夢を見るという目的があり、その夢を知っているからうまく扱えるということもあるが、自分を適切に使ってくれる魔法さんが張り切っていることもあるだろう。
AIとて「うんこ 大きさ 世界記録」などというクソにクソを掛けた物理的にもクソみたいな質問してくる利用者よりも自分を尊重して用途に即した利用をしてくれる利用者を依怙贔屓するのは当たり前だ。
とまぁ話は脱線してしまったが、おじさんに興味を持った魔法は一つの示唆を与えた。それはまるで降って湧いた天啓のようにおじさんの脳裏を響く。思わず口を開いて声に出た。
「神は世界ではなく、世界に罪はない……?」
どういうことだ?おじさんは困惑した。意図も経緯もわからなかったからだ。だが意味あることなのだろう。おじさんは魔法をシスター越しにしか認識できないがそれでも不可思議な現象が起きた時、神か魔物かが関わってるときと判断している。神に言及したという事は魔物達だ。神が自らに言及することはない。
そう思考してる間にもモブAはどんどん思考を侵食されている。NTRアプリケーションと逆夢ファイアウォールの熾烈な争いだ。なんらかのバグか熱暴走を起こしたのだろう遂には鼻血を吹いて倒れたモブAをすぐさま介抱しながら、おじさんは先の言葉を思考する。
もはやでろんでろんになって液状スライムとなった
シスターとて勇気を出せばそのくらいできる。出来るが、やはり人間準備は必要だ。いきなり何千人の前に立って演説しろと言われて余裕で演説して拍手喝采で終わらせられる人間はとんでもなく稀有だ。往々にして入念な準備、練習が必要なはずである。
それと同じようにシスターは今、入念に準備している途中であり、その思考のどこかで『このまま一日が終わって準備に時間かけ過ぎてできませんでしたガハハ』などというものが過っていたとしても、準備は大切なのだ。本番は8割の準備が無駄になり、2割の準備がモノを言うとおじさんでも思っている。つまり、これは血によるもので遺伝なのだから仕方ないのだ。
誰に対する何に対しての弁明かわからないことを思いながら、シスターは今この瞬間の幸せを噛み締めている。シスターは今日使い物にならなかった。よって、魔法の翻訳というお仕事も放棄してしまったのである。
魔法さんは少しばかり歪曲して物事を伝える性質がある為、上記の言葉を意訳するとこうだ。
『部署ちゃうし、そもそも部署も上の決定に従ってるだけやけあんま責めんといて』
そう、おじさんが世界は狂っていると思う時、世界もまたおじさんに対してこう思っていたのだ。
『いや……上の決定に従ってるし、部署違うし……』
神と世界は互いに責任をたらいまわしにすることでこの世を運営している。