自分の事をNTRエロゲの竿役だと思っているおじさんVS幼少期から光源氏(動詞)されたが嫌いになるわけないシスター 作:心理的継続性を持つおじさん
人間という生き物は不思議なもので、何もかもがどうでもよくなっちゃう時がある。恐らく、その人間としてのキャパシティを超えたことで脳がフリーズしている状態のことを言うのだろう。
おじさんはもうすべてがどうでもよくなっていた。
それは目の前に広がる惨状から目を逸らしたいがための現実逃避でもあるし、正直ここまでやってダメならもうどうにでもなれといった気持ちだった。やはり自分は主人公ではなく、ただのモブ、下っ端Aとかそこら辺の役回りなのか……。
この世の無常を謳うにはあまりにもコトがコトだが、それでも誰かどうにかしてくれと他力本願になるのは至極当然の話だろう。
遠い目をし、溜息を吐く。今は初夏、涼しくも暑さをか細く感じる事が出来る新緑の季節。
同じく遠い目で視線が交差する牡牛さんを前にどうしてこうなったのか思考を巡らせた。
そう、あれはおじさんが魔王に対峙すると決めた勇者レベル1の時に遡る。
………
……
…
おじさんは転生者だ。この、世に下半身にこそ脳みそがあると言わんばかりの男女が蔓延る世界で奇跡的な確率であるべき頭部に脳みそがお引越しした非常に珍しい人間だ。
おじさんはこの腐った世の中を変えるために奔走しており、それは今も続いているといって良い。その中の一つに魔王と呼ばれる存在を止めることも含まれる。
魔王は強大でとても卑劣だ。洗脳同士討ち薬物横行を基本戦術とし、ありとあらゆる卑劣な手段を行う厄介な相手である。まず小手調べに都市間の交通網を封鎖し、それを国内での内憂として噂を流布するというガチめの手段を使ってくる。これにより、国内での疑心暗鬼を深める寸法だ。交通網が封鎖されるため、噂を晴らそうにも都市間の流通が著しく減らされる。噂とは煙のようなもので
そんなわけで都市間の道路が封鎖されると結構厄介な事になる。そんな厄介な事が起こってしまっている為、おじさんが駆り出されることになったということだ。
尤も、これは魔王による策略ではなく、ただ単にデートしたいがためにおじさんを都市に閉じ込めようとするどっかのシスターさんの策略なのだがそこは割愛する。
おじさんは現場へと向かった。兎にも角にもどんな魔物が道路を封鎖しているのか確かめなければならなかったからだ。おじさんは前世知識のパゥワーにより、ある程度魔物に対する知見がある。もちろん対策や対応も一部の魔物であればできる。
そもそも、魔物とは何か?
改めて存在を見返したとしてもなんかよくわからない生き物としかわかっていない。基本的に無限のエネルギーを持っており、それを糧に生きている。食事も排泄もしないし、何なら呼吸さえしない。人間を容易く殺せるほどの力があるのに、何をするでもなくちょっかい掛けるだけで終わりだ。
だがおじさんの前知識としてここにいくつかの情報を書き加える事が出来る。
まず魔物の目的は眠る事、ひいては夢を見る事だ。どうやら無限のエネルギーの代償に眠る事が出来なくなっており、それは最初からそうではなかったということだ。つまり、魔物は元々人間と同様に有限のエネルギーで生活していたのがあるときから無限のエネルギーで生活するようになったということだ。
これは人間として考えるととても辛いだろう。だって今まで眠れる事が出来たのに唐突に出来なくなったのだ。『眠れるけど寝ない』と『眠れない』は些細な違いなようでいて大きく違う。
ようは魔物さん達は眠れなくなった日からずっと徹夜をしているのだ。なまじ無限のエネルギーのせいで肉体的疲労はなくなるので精神的な負荷がずっとかかっている状態だ。そりゃあツライ。人間でもつらい。どこかおかしくなるのも無理はないだろう。魔物達が人間にちょっかいをかけるのは深夜テンションだからとも推察できる。
次に魔物達は自らの意味をとても重要視するということだ。例えば人魚もといマーメイドさんであれば『うたう者』という意味を持つ。うたうというのは歌うという意味であり、詠うという意味でもある。歌を歌い、未来を詠う。だから『うたう者』だ。
このように魔物さん達はとても意味を重要視する。生きる目的といっても良い。ユニコーンさんが悪事に命を賭けるのもそういう面があるからだ。
よっておじさんはまずどんな魔物が道路を塞いでいるのかを確認することにした。目的地に向かうと、そこには大きな牡牛が横たわっており、全長は5から6mほどであろう事が伺える。
おじさんは呻き声を上げた。
「ファ、ファラリスか……」
そう、今回道路を封鎖している犯人はファラリスさんだった。実はつい先ほど道路を封鎖していたのは脚が8本に描かれてしまった大狼さんだったのだが、道路封鎖はシフト制だった。魔物さんだって日がな一日道路を封鎖していたいわけではない。
ファラリスさん、意味は『苦悶する牡牛』だ。拷問器具として名高いファラリスの牡牛と酷似した見た目をしており、内部から業火を漏らす謎金属製の牡牛さんである。
おじさんの計画は7割潰れた。なにせ、魔物さんの中でも人間に害しかないタイプの魔物さんだからだ。別に魔物さんが人間を害そうとしてるわけではなく、大体ウランや放射線みたいな存在するだけで悪影響になるようなタイプのことを言っている。
ファラリスさんが持つ力は病と炎だ。周囲に存在する生物を苗床と火種にするパワーを持つ。
魔物さん達の中でもシンプルかつ強力なソレはどちらも拡大する性質を持つ。道路を封鎖するうえでこれほど手っ取り早いものはない。なにせ、病と炎がそこに存在するだけで広がっていくのだ。もはや災害の類である。
おじさんは一先ず説得を試みた。魔物さん達とて知らぬ仲ではないおじさんのことは無碍にはしない。仲のいい人が好意的だからなんとなく覚えてる人も多いみたいなノリだ。
「あーー……ファラリス殿。此処をどいてはくれないかね?」
魔物さん達には言語が通じない。しかし、身振り手振りなら通じる。おじさんは伝わらない言葉を言いながら、箱を右から左に動かすエモートをした。
ファラリスさんはなんとなく言いたいことを察した。しかし、動けない理由があった……。悲しく鳴く。
『モォ~~~………』
が、伝わらず。
ファラリスさんは仕方なく、四つ足をバタつかせた。伝わってほしいという気持ちを込めてだ。
「…………もしや、起き上がれないのか?」
『モゥ』
よもやよもやだった。
ファラリスさんは自重によって動く事が出来なかったのだ。いや、詳しく言えば動くことは出来るのだが、徹夜明けのしんどい状態でベッドから起き上がることは出来ないように、ファラリスさんもまた起き上がる事が出来なかった。
嘘だろう……おじさんは絶望した。何をもって体長5,6mのデカイ金属製の牡牛(炎上と病原菌付き)を触りたいと思うのか。まず触れる事さえ叶わない。人間は摂氏1000度を耐えられる構造をしていないからだ。ちなみに摂氏1000度とはガラスが融解する程度の温度である。
目の前のクッソ図体がデカい周囲にパンデミックと山火事をばら撒く牡牛とかいう災害は、自らで動くこともできないまま横たわっていたのだ。
おじさんはもう悲しくなっちゃった。水を掛けても焼け石に水どころではない。太陽に水を掛けるようなものだ。まず、掛ける前に焼け死ぬ。
おじさんは必死にどいてくれないかと懇願した。土下座だってした。おじさんに出来る事などこれくらいしかなかったからだ。用意していた作戦も相手がファラリスさんとあっちゃあ通用しなかったからもう懇願に頼るしかない。
おじさんが用意していた作戦は一般的に良性の意味を持つ魔物達であればその目的に沿った貢物や方向性を示すことでどいてもらうことができるというものだ。例えば、シスターさんとマブダチと言ってもいい尻尾がオナモミみたいになっているモモンガさんは『破裂する羽』の意味を持つ。ロケット、ミサイルといった空を飛んで爆発するようなものを大体司っている割と物騒なモモンガさんだ。
そんなモモンガさんの目的は空を飛んで爆発することだ。よって爆発する対象物を示してあげるとまるで誘蛾灯に引き寄せられる虫のように飛んでいって炸裂する。ビックリするほどミサイルみたいな性質を持っているのだ。
このように魔物さんというのはそれぞれに様々な生きるテーマを決めているのでそれに則る行動を示してあげればどいてくれると思っていたのだ。
だが残念なことにファラリスさんの生きるテーマは『苦悶する牡牛』であり、苦しく鳴くことが人生ならぬ魔物生だ。食い過ぎや飲みすぎで倒れて呻くお父さんのように、横たわり、苦痛に喘ぐ声を上げるのみ。それが生きるテーマだとするならこれ以上悲しいテーマはないが、魔物さんは自分自身の生きる意味に忠実だ。たとえ、誰かに頼まれたとしても生きる目的を優先するくらいのことはする。
そんなファラリスさんを前に、おじさんはもうキャパオーバーもといフリーズ、そして、はじけた。
もうどうやったって無理ならやれるだけのことはしよう。やってやれないことはないし、最善を尽くしてダメだったら言い訳もつく。そうだ、もうやるだけやってみよう。
おじさんは自暴自棄になった。それからいくつかのプランを実行に移す。
プラン1、水を掛ける。
失敗に終わった。寧ろ下手に水を掛けたせいで火は大きくなり、もう手を付けられなくなってしまった。
プラン2、土を掛ける。
これはちょびっとばかしの効果があった。土を掛けられたファラリスさんはなおも悲しそうに鳴くばかりだったが、ならさっさと動いてくれとおじさんは思った。
プラン3、何もない。天地神明に祈る。
おじさんは祈った。真摯に祈った。それはもう神に懇願するほどに祈った。
そんな祈りに気づいたのか。あるいは悪魔がほほ笑んだのか。此処に救いの手?悪魔の手?どちらともつかない手が差し伸ばされた。
『ゲェーーッコ』
ドスン
大きな音を鳴らして虚空から着地したのは大きな蛙さんだった。頭頂部に輝く王冠はまるで自らを帝王だと誇示するようにきらびやかで、纏った赤い色のマントは裸の王様を彷彿とさせた。
蛙さん、意味は『君臨する者』王や支配者といった意味を司るトノサマガエルだ。その威厳はもはや物理的な威圧感に変換され、周囲の重力を最小3、最大10倍ほど増大させてしまう力を持つ。
宇宙の遥か彼方から隕石の如く重力を増大させて着地寸前に重力を弱めるという局所的な重力場を引き起こした蛙さんは周囲を睥睨した。
地面に沈み込んだ牡牛さんは悲し気な声で鳴く。ずっと悲し気な声で鳴いてる気がするがアイデンティティなのだ。もはやセミの鳴き声と同等くらいに思っていい。
おじさんもまたギリギリ全身に襲い掛かる重力に四つん這いで耐えていた。着地する前の局所的な重力場はギリ範囲外だったものの、そこに居るだけで重力を過重する蛙さんは平伏したくなるほどの圧倒的存在感を持っている。
蛙さんは潰された牡牛さんをゴロゴロと転がした。なおもなおも悲し気に鳴くファラリスさんを放っておいて道の端に追いやっていき、空いたスペースにどしんと腰を据えた。
……悲しいことにシフト交代の時間だった。
だが、目の前の蛙さんは先のファラリスさんに比べるとまだ良心的だ。王として民の言葉に耳を貸すことができる寛大な器を持つ。そのためには……!
おじさんは四つん這いのまま蛙さんに近づいていく。近づけば近づくほど強くなる威圧感に全身の骨を砕かれそうになりながらも前進していく。
蛙さんは寛大な心を持っている。だが、王に謁見するためにはまず王の間までたどり着かなければならない。外から声を掛けても無礼として扱われるからだ。王の目の前に立つことができる者こそ、意見を聞くにふさわしい。
おじさんは必死に蛙さんに近づき、ようやく王の間にたどり着かんとしたとき、蛙さんが突如としてゴロゴロと転がった。
『ニ゛ィ゛ィ゛ィ゛』
猫さんのエントリーだ!!!
蛙さんをゴロゴロと転がした猫さんはその道路に居座り、丸まったままこちらに瞳だけを向けている。猫さんは『気まぐれな空』の意味を持つ。天候を司る猫さんだ。猫さんが欠伸をするとブリザードが吹き荒れるというはた迷惑な特技を持つ。そして、気まぐれで気のままに動く性質がある。
猫さんはあくびフェイントを放つ。おじさんはビクッと震える。嗜虐的に目を曲げたその時……!
そう、おじさんと魔物さん達の盛大なコント劇場はかくもこうした経緯で生まれたのだ。悲しいことにおじさんは魔物達へ理解を示し過ぎた。常時深夜テンションの魔物さん達からすれば遠慮なく絡んでいける人間という事であり、シスターに頼まれたからという理由もあって意気揚々と絡んでいた。
次々にシフトが変更していく魔物さん達を前に勇者レベル1たるおじさんはたじろぎながら右往左往するばかりだ。しまいにはシフトの取り合いになって頂上決戦みたいなことになっているが人に危害がないよう工夫されている。
魔物さん達はおじさんというおもちゃを手に入れた。そう、魔物さん達が魔王やシスターを助ける理由の大部分を占めるのは深夜テンションからなる悪ノリだったのだ。よって、シスターや一部の人間魔物が止めない限り、悪ノリは際限なく膨れ上がっていく。
今ここに悪ノリスパイラルが展開された。