自分の事をNTRエロゲの竿役だと思っているおじさんVS幼少期から光源氏(動詞)されたが嫌いになるわけないシスター 作:心理的継続性を持つおじさん
何日か…いや何週間かして……
シスターは無事に聖女となった。その過程であらゆるもの(正確に言うとおじさんの時間、理性、お財布の中身)が犠牲になったがそれはコラテラルダメージだった。
おじさんはようやくニートを更生出来ることに深い喜びを感じていた。一方、どこか寂しさも感じていたが、それは娘同然に育ててきたシスターを放流することへの嬉しさと寂しさ故だろうと解釈した。おじさんは自らの本心に嘘を吐き続けるしかない。それは自身の心を守る為でもあった。
かくして、シスターは聖女となることになった。おじさんの貴族権限で人事部の書類を覗いてみればそこには原作主人公の名前がしっかりとある。これでいい、おじさんはようやく原作が始まることに奇妙な安堵を感じていた。
だからこそ、おじさんは気づかなかった。シスターが何を考えて渋々聖女になったのかを。シスターはまるで働く気がないことを。おじさんがそのことを知ることになるのは僅か一週間後の出来事である。
「はぁーぁ。だる」
凡そ、聖女らしくない発言だが、これでも立派な聖女である。お付の下女は早々にこのシスターがロクでもないことを認知し、そしてその身分からどうにもならないことを理解していた。だから、咎めるでも収めるワケでもなく、ただ微苦笑を浮かべていた。それが下女達に出来る最後の仕事だった。
ベッドからのたうつように起き上がる。温もりを全身で吸収している様は、控えめに言ってだらしないことこの上ない。寝巻は捲りあがり、無防備なお腹を晒していて、手が不安げに動き回る。ようやく、世界と隔絶できる防壁……またの名を布団を見つけたシスターは、そのまま二度寝の姿勢に入った。
下女はひそかに期待していた以前の自分に想いを馳せた。聖女というのはこの宗教においてとても偉い人である。花や蝶を愛で、人を慈しみ、救いを齎す方、それが聖女だと思っていた。確かに、現実問題そんな人間居るわけない。だが、美化していたとしても、それくらい美しく優しい人を考えていたから、前者は兎も角後者をぶん投げたシスターには衝撃を受けた。まず全くもって優しくない。甘やかされて育ってきたのか文句ばかりだし、一人暮らしだからそこそこ家事は出来るのだが如何せんニートだった。働く気が全くない。花や蝶を愛でる前に、布団を愛でる始末……。
しかし……!
このニートシスターもとい、聖女はすこぶる顔が良かった。それはもう絶世と言っても良い。だから、愛想を振りまけさえすれば十二分に仕事ができるだろう。そもそも、パンダさんに芸をさせようというのが間違いなのだ。パンダさんはいるだけでいい。たまにタイヤでゴロゴロしてくれれば、もう最高だ。
下女達は聖女へのハードルを著しく下げていることに目を背けている。それは無用な責任を負いたくないという人間的心理も加わり『私が問題ないならそれでいい』という他責思考に発展している。権力を持つニートは周りに他責思考を要求する……自分さえよければそれでいいという考えを伝播させていくのだ。
ニートスパイラルは日に日に輪を広げている……。
だが、そうも言ってられない日というのはいつの時代、誰であろうとあるものだ。シスターにとって今日がその日だった。
そう、原作の始まりたる騎士との顔合わせである。
テキパキとした動きで、下女達はシスターを布団から引き剥がし、服を着替えさせ、多少のメイクを施す。軽食も忘れない。シスターは朝食を抜く気質があったが、それは健康上よろしくなかった。無理やり詰め込められた白パンは本来貴族といった位の人達しか食べる事が出来ない高級なものだ。それを無造作に詰め込められ、スープを流し込まれる。ほぼ流れ作業だった。スープでふやけたパンを噛まずに流し込んだシスターが聞いた。
「今日、誰か来る?」
下女はため息を漏らし、騎士の来訪があることを告げた。シスターは『あー』と納得の声をあげ、そして密かに下卑た笑みを浮かべた。作戦日は今日であったと。
シスターが何を考えているか知らないが、下女達にとっては何事もなく終わることを祈っていた。騎士というのは結構偉い人である。なにせ、お国でまず叙勲されないと成れない。そして、成る為には武勲を上げたり、そもそも貴族であったりする必要がある。そんな人との顔合わせで何かしでかしたらどうなるか。それだけが心配だった。
下女達の心配をよそに、シスターはやけに張り切った動きで準備を進める。
シスターには考えがあった。とてつもなく阿呆で、しかし結構効果は認められそうな作戦だ。
題して、護衛の騎士に無礼千万働いちゃおう作戦だ。もう作戦名からして終わってるが、実際に内容も終わっていた。
まず、シスターが護衛に就く騎士に侮辱する。基本的に騎士を侮辱すると死罪になってもおかしくないが、そこは聖女という立場だ。聖女の方が立場が上なのでどうすることもできない。次に、追加で侮辱を重ねる。そして、最後、さらに侮辱を重ね合わせ、自主退職を狙う。完璧な作戦だ。シスターは鼻高々だった。
おじさんが見ればこう答えるだろう。パワハラだと……。
シスターは就任したての騎士にパワハラを仕掛けようとしている……。
だがこの作戦にはとてつもない欠点があった。それは騎士が一人である事以外を想定していないのだ。騎士と聖女、一対一なんだろうと高をくくっている。
だからこそ、こんなことになるのだ。
「や、やぁシスター……じゃなかった。聖女メレア様、こちらはお付の騎士に着任したリッタハイト。リッタハイト・ステックブルゼン様だよ」
「どうか、よろしくお願い致します聖女様!」
シスターは影で全力で歯噛みした。おじさんが居るのであればパワハラ作戦は通用しない。それどころか止められるだろう。
おじさんはシスターがなんとなく聖女になっても問題を起こすだろうなと予期していた。予期していたから、貴族権限で聖女と騎士の立ち合いに自分もねじ込んだのだ。自分が推薦した騎士だからという名目で。実際におじさんは原作主人公を聖女のお付にしてはどうかという根回しをしていたから、間違ってはいなかった。
おじさんの仲人根性が発揮されたのである。それは前世から続く要らないお節介だった。
一方、聖女は全力でおじさんを恨みながら歓喜した。恨みと喜びは一つの対象に両立しうることなのだと証明するように。おじさん大好きっ娘は、聖女になってからようやく会えたおじさんに今までの鬱憤やストレスを吐き出したい気分だった。
そのためには……
この目の前の騎士をどうにかせねばなるまい。聖女は密かに覚悟を決めた。
話が飛ぶが……この世界には魔法というものがある。よくわからない生き物が使うよくわからないものだ。この時代の人達はまだ知らないが、魔法というのは夢を見るためのものだ。よくわからない生き物である魔物は夢を見ない。だから、夢を見る生き物を羨んで、魔法を作り上げたという説がある。ただ、夢の話を聞いても、誰も突拍子のないことばかりで、一貫性が何もなかったから、よくわからない突拍子のないものになる。
聖女が使う特別な力、宗教に合わせて神の力と書いて、神力と呼ばれているが紛れもなく魔法だった。そして、魔法はよくわからない故に、無限の可能性を秘めている……。
聖女は魔法を練り上げた。上記で上げた通り夢を見る魔法だから、術者が夢の主ということになる。夢の中では大抵のことが罷り通る。それを明晰夢という。
聖女は明晰夢を発動した。騎士の位置とおじさんの位置を入れ替える。それは物理的にも、政治的にもだった。お付の騎士はこの原作主人公ではなくおじさんということになった。これにより生じた齟齬は『夢だから』の一言で曖昧に処理される。
宗教においては神から授けられた神聖な力とされているものを、ただおじさんを都合よくそばに置きたいがために行使した。もし神からすれば天罰を与えられてもおかしくない。
しかし、現にそうなってないということはシスターは神に愛されていることになる。神力は私的利用するべきでないという戒律がある。困っている人の為に使いなさいという戒律だ。それを破ったシスターは罰せられるべきだが、神は天罰を与えなかったから、シスターはどこまでも調子づく事が出来る。
シスターは自らの信仰を疑いもしなかった。先日、神に対して呪ったり憎悪したりしたことを棚に上げて……
そうして、シスターは神力によりおじさんを傍に置くことに成功した。だが、夢を見る魔法は夢が終われば目覚めるように持続力に欠けていた。数日もすれば齟齬に気づかれ、またあの騎士が傍に来るだろう。それまでに作戦を考えなければいけない。
シスターはひとまず、おじさんに抱き着きながら思案することにした。おじさんに抱えてもらい、騎士を足置きにするその様は傲岸不遜以外の何者でもなかったが、夢の主は夢の中でならどこまでも自由にふるまえる。
神は与えてはいけない力をシスターに与えてしまった……。