魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

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エピローグ、冥府の門を再び

ひ弱な子だな。

 

そうケルベロスは思った。

 

もう地上に出ることは出来ない。それくらい、星神との最終決戦で受けたダメージは大きかったのだ。

 

燐火は頑張ってくれている。

 

世界各地で魔祓いをして、大物の魔を次々と討ち取り、悪運を大規模に祓ってくれている。

 

その結果独裁者が倒れたり、犯罪組織が牛耳っていた国が正常化した例が既に2桁を超えており。

 

「白仮面」という言葉は、世界的にも有名になっているそうだ。

 

ただ、絶対にキャラクターグッズや商品展開はしないようにと燐火は釘を刺しているようで。

 

模倣して悲惨な死に方をする人間が出ないようにするために、必死に工夫をしているらしい。

 

あの子は誇りだ。

 

世界を少しずつ、確実に変えている。

 

そして、今ケルベロスの前にいる子も。

 

そういう希望の星を秘めていた。

 

「おまえの名は」

 

「ひっ……た、たべないで……」

 

「食べないさ。 俺の名はケルベロス。 おまえの名は?」

 

「リン……」

 

そうか。

 

この子はカスみたいな麻薬組織の紛争に巻き込まれて死んだ。

 

正確には今生死の境をさまよっている。

 

その組織は、今国連軍が掃討しており。

 

麻薬組織を好き勝手にさせていた悪運を、燐火達がまとめて祓っている。

 

悪運が呼び寄せた魔もまとめて蹴散らしているから、もうしばらくしたら国は安全になるだろうが。

 

それでも、この子が救われるわけではない。

 

父親は犯罪組織の構成員で、この子の顔を見る度に殴っていた。

 

母親は色情狂で、毎日違う男を連れ込んでは、この子を小さな籠に押し込んで、異常な性欲を満たすためにまぐわっていた。

 

今、この子は9歳だが。

 

6歳程度の背丈しかない。

 

まともに栄養を得られていないからだ。

 

そもそも学校なんてものは存在していないし。

 

あったとしても犯罪組織の巣窟である。

 

燐火より更に状況が悪い。

 

そしてこういう子は。

 

まだまだ世界にたくさんいるのだ。

 

この子の両親はとっくに死んだ。

 

父親の方は国連の対犯罪組織部隊の攻撃で、欠片も残さず消し飛んだし。

 

母親の方は、バカみたいな「交友」の果てに性病を悪化させ。

 

性病をうつされた男の一人から撃ち殺された。

 

この子は仮死状態で国連軍に保護され。

 

今体の方は、病院で手当を受けている。

 

だが、望まなければ、このまま冥府に受け入れるつもりだ。

 

「リン、生きたいか」

 

「分からない……」

 

「リンは、腐った世界を変える力がある。 今は眠っているが、その眠っている力が目を覚ませば、世界を大きく変えられる。 以前、そういう子がいた。 その子は俺が力を貸して、やっとそんな力があることが分かった。 だけど、リン。 おまえは違う。 おまえは、そうする前から分かる。 おまえは、この世界の運命を変えられる。 おまえみたいな目にあう子供を、劇的に減らせるだろう」

 

うずくまったまま、恨めしそうにケルベロスを見るリン。

 

選ばせる。

 

「選びなさい。 おまえみたいな目にあう人間を、少しでも減らすために努力を続けて生きるか。 それとも、冥界で後は静かに過ごすか。 生きるつもりだったら、俺が知っている最強の人間を紹介してやる」

 

「その人、そんなに強いの」

 

「見てごらん」

 

映像が出る。燐火だ。

 

素手でアサルトライフルで武装した犯罪組織の構成員を手も足も出させずひねっている。もうあそこまで強くなったか。

 

ちぎっては投げちぎっては投げ、だ。

 

強大な悪魔が襲いかかるが。

 

文字通り一ひねり。

 

今も愛用している鉄パイプで、一撃で半壊させていた。

 

いやはや、強いな。

 

今ならヘラクレスと互角くらいにやり合える可能性が高い。間違いなく、既に世界最強の魔祓いだ。

 

「あの人と引き合わせる幸運を与えるくらいしか、今の俺には出来ない。 あの人と一緒に過ごしたいか」

 

「……」

 

「あまり時間はない。 急かすことはしないが、それでもおまえが決めなさい」

 

「っ。 私、今のまま、やだ!」

 

顔を上げるリン。

 

そういえば名前も燐火に似ているな。

 

この、内から燃え上がるような怒りもだ。

 

調べる。

 

正確な名前は、クラシラード、リランティラか。

 

リンと呼んでいたのは、一人だけまともだった母親の愛人の一人。それももう、この世にはいない。

 

嘆息すると、ケルベロスは、手配する。

 

燐火。

 

おまえのところに、未来の星を送る。

 

今度は俺ではなく、おまえが未来の星を育てる版だ。

 

人間の未来は決して明るくなどない。

 

愚かしい連中が幅を利かせてやりたい放題をしすぎたからだ。

 

だからこそ、おまえに託す。

 

この子を、守ってやってくれ。

 

そしてこの子の潜在能力を全て解放してやってくれ。

 

そうすれば、いずれきっとこの世界をもう少しはマシに出来る。燐火だけでは無理かもしれないが。

 

燐火の仲間達と。

 

後続のこの子や、その仲間達がいれば。

 

死に行こうとしている人間の文明を救い。

 

やがては新しい時代を作り上げられるかもしれない。

 

リンを送る。

 

そして、ケルベロスは言っておいでと、優しくつぶやいていた。

 

ケルベロスは蜂蜜菓子を差し入れされたので、無言で頬張る。

 

燐火が辛い方が好きなことは知っていた。

 

それでも文句一ついわず、ケルベロスの嗜好に合わせてくれていたことも。

 

あの子は決して優しくはなかったが。

 

自分を律することが出来る子だった。

 

それがどれだけ貴重なことか。

 

あまたの人間を見てきたケルベロスは、よく知っていた。

 

さあ、未来をどうにか出来るか。

 

燐火、期待しているよ。

 

リンをしっかり育ててやってくれ。

 

未来の星になる子を。

 

そう、ケルベロスは、冥界から見守るのだった。

 

自分にとっての子に等しい、戦いの申し子を。

 

 

 

(アギア・ケルベロス、完)







はいこれにて終わりです。アギア・ケルベロス最終話。いかがだったでしょうか。

魔法少女ものは思いっきりバイオレンス系統のを以前個人HPで書いていた事があるんですが。それとは若干方向性を変えて今回書いてみました。

本作は思いっきり内容がバイオレンスですが、肝心の魔祓いは聖印を切るという形で非暴力で、という縛りを入れています。

この作品は、完全にあらゆる意味でぶっ壊された子が、ケルベロスというギリシャ神話ではとても立派で優しい番犬なのに地獄の番犬とかいうレッテルを一神教に貼られたせいでその方が有名になってしまった存在とともに、新しい人生を歩む話となっています。

色々あったこともあり、とにかく思考回路がバイオレンス一色の燐火ですが、大真面目な努力家であり、それを無駄にしないケルベロスの存在もあって、最後にはここまで大きな存在になる事が出来たと言えます。



楽しんでいただけたのであれば何よりです。



最後に。感想評価などよろしくお願いいたします。励みになりますので。
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