王子の婚約者である私ですが、ヒロインを全力で支援します   作:幸イテ(旧名:kouta)

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第四十二話 可能か、不可能か

 

 偉大な父に比べられ続け、オルフは虚栄心から逃げられなくなった。私自身、セイファート家である事に誇りがあるし、時に両親や先祖達が残してきた功績が重くなる事はある。王族であるアルベルトなんて私以上であろう。

 だが私達は自分達の両親が完璧でない事を知っていた。父を評価する者もいれば、嫌う者もいる。部外者に悪く思われるのは面白くないが、だが司教の正体を知った今、敵がいない状態というのが如何に恐ろしいかを思い知らされた。

「敵対者に感謝する日が来るなんて思いもしなかったわ」

「決して面白くはないが、反対の者がいる事で王は人のままでいられるのだな」

 アルベルトの言葉は真理であったように思う。王たるもの、人の方が良いのか、神のような存在の方が良いのか。正直私には分からない。

 改革をしたいのであれば、神のような絶対性は魅力的ではある。誰にも反対されずにやれるのだから。ただ司教のようになるのだけはゴメンだと思った。何を言っても反論がこないのは人として孤独であろう。それに自分の知らない場所で、自分を守るためにと言う理由で勝手をされちゃたまらない。

 私は自分と似ているアルベルトと一緒になるのを良しとしなかった。どれだけリスクを負っても他人であるソフィアを望んだ。それはきっと司教のような絶対性の恐ろしさを無意識に察していたからかもしれない。私達は秩序よりも混沌を選んだ。自分達が人でいるために。

「……いきなり二人ともなんです?」

 気が付くと私はソフィアの手を握っていた。反対側はもちろんアルベルトだ。

「いや、私達はソフィア、君に救われたんだなと」

「そう思ったら自然に」

 するとソフィアは露骨に嫌そうな顔をした。

「二人とも、私を司教様にするつもりですか。勘弁してください」

 あまりそういう表情を見せないソフィアにしては珍しいと思っていたが、実に納得な理由であった。ソフィアは崇拝の対象ではなく、私達の同士なのだから。

「すまん。君は私達と対等である事を望んでくれた。司教とは違う」

「そうです! そこは間違えないでくださいね」

 司教だって別に特別になりたかったわけじゃなかったのだろう。周りが望むまま動いた結果がそうであっただけで。はたして司教は幸せだったのだろうか?

 

 しかし教会か……

 

 アルベルトから教会が神官達とオルフにどう説明したか、教えてもらったのは良いものの、こうなってくると新たに疑問がわいてくる。

「教会は半年に一回ずつオルフの姿を確認しに行っていたのよね? でも彼は四年前には消えていた……」

 この食い違いは一体どういう事なのか。オルフが追放された表向きの理由を考えるに、オルフを嫌っている神官達が嘘をついているとは思えないが……

「レステア領の調査している第二班が、その確認しに行っていたとされる神官達と接触しているはずだ。そこで何か分かると思うが」

「早く返事が欲しい所ね。流石に神官達がオルフに協力して逃がしたって事はないだろうけども、だとしたら何があったのか」

 答えを出すには情報が足りない。とりあえず違う事を考えようとした矢先であった。

 

「ん?」

 

 何かに気づいたアルベルトが窓の外へと視線を向ける。その声につられて私も見ると、空で黒い何かが旋回していた。つまりは伝書ガラスだ。

「どこからかしら?」

 現在調査チームは三つ存在しており、そこにホープ家からの連絡も加わると四択だ。当てずっぽうでやるには些か分が悪い。一体どこからの連絡なのか。

「もうちょっと近くなれば……見えた。赤のスカーフだからロクか。となるとホープ家からだな」

 アルベルトが窓を開け、手をかざすと、そこに向けて伝書ガラスのロクが飛来する。同じセイファート家の所属でエルのコニーとは仲良しさんだ。そんな彼は今、ホープ家に貸し出されていた。

「よっと、お利口さんだな」

 アルベルトは自分の腕に見事な着地を決めたロクを褒めたたえると、足に括りつけられている文を取り出した。見事任務を達成したロクはすぐにアルベルトの腕から離れ、今度はテーブルの上に着地した。なかなか気が利く子である。

「アーニャは良くしてくれている?」

 アルベルトが文を読んでいる間、私はロクを労い、餌を食べさせながら尋ねる。私の質問が分かっているのか、彼はカーと鳴いて見せた。

「文にはなんて書かれていたのですか?」

 私がロクの相手をしている中、ソフィアはアルベルトの方へと歩み寄る。

「例の計画書群の中で一つ気がかりな物を見つけたらしい」

「……気がかり、ですか。つまり机上の空論ではなく、実際にやれそう、という事ですかね?」 

「そんな感じだな」

 オルフのもたらす恐怖が具体的に形を帯びたわけだが、それでもソフィアは冷静な表情を崩さなかった。

「良くも悪くも、ですね。やれそうであるのならその方向に動く可能性が高いです。それは目的地が絞れるという事でもありますし、一方で計画が動き出して危機的とも言えます」

「後はオルフがどれだけ追い詰められていると感じているか、だな」

 人が動くもっとも確実な理由は危機感だ。フローレル男爵領で拠点を失ったオルフが一か八かの賭けに出るか、そこにかかっている。賭けに出るのならば危険性が増す代わりに見つけやすくなるし、尚も逃げ続けるのであれば危険性は低いままだが見つけにくくなる。ピンチはチャンスとは良く言ったものだ。

 アルベルトの表情は何とも言えない。彼もまたオルフのトンデモ計画が実現可能なのかと首をひねっていたから、今一信じ切れないのだろう。何が出てくるか怖さを覚えつつ、私はアルベルトに尋ねる。

「アーニャはあの荒唐無稽な計画の中から、何が怪しいと思ったのかしら?」

「例の『獣のスタンピートが起こったら』、だ」

「……よりにもよってそれなの」

 私は頭を抱えた。内容としては、何らかの理由で獣のスタンピートが起きてしまって、困っている者達の前にオルフ自身が颯爽と現れて解決して見せるというもの。そこから真の巨悪が誰であるかを説き、仲間達と共に革命へと至るというサクセスストーリーだ。

 最初の『何らかの理由』からして脱力を誘う。そこが一番の重要のはずなのに曖昧のまま、最後まで投げっぱなし状態だ。これが仮に計画書ではなくフィクションの小説だとしても失格だろう。

 そもそも我が国の歴史の中で、スタンピートが起きたのはたった数回しかない。そんな都合良く起きるわけがないのだ。過去の記録を辿ってみると、冷夏によるエサ不足だったり、繁殖しすぎて森から追い出される個体が出てきただったり等、実に様々だが、基本的には環境の変化によって引き起こされている。

 こんな大掛かりな事は人の手には出来ないと思ったからこそ、私達はこのスタンピート案を不可と切り捨てたわけだが、ホープ家はここに何かを見つけたらしい。アーニャ達を疑うのは容易いが、それではホープ家を味方につけた意味がない。私はホープ家が正しい前提で話を回す。

「スタンピートを意図的に起こす方法ってあるのかしら?」

 本当にそんな方法があるのだとすれば最悪極まりない。それの意味するのは、わざとスタンピートを起こすという事なのだから。要するに自作自演だ。

「手紙には『ある』とはっきり書いてる。言い切っているのだから間違いないのだろう」

 察するに具体的な方法については書かれていたかったのだろう。それはサボリではなく、直接会って話したいというメッセージだ。それにこんな危険な情報、万が一他人に知られでもしたら大変だ。

「アルベルト」

「ああ、すぐにアーニャに話を聞きに行くべきだな。詳細が知りたい」

 アルベルトは簡単な返事を書き、ロクの足に巻き付ける。ロクが窓の外へ飛び去ったのを確認してから、私達は席を立った。

「ホープ商会に行くとなれば、エリシア商会の出番ですね。早速変装しましょう」

 ソフィアは至って真面目に言ったのだが、私はその名を聞いてがくっとしてしまった。後ろに控えているエルの視線が痛い。とりあえず今回の件が片付いた後、肉串食べ放題で手を打ったが、早くエリシア商会が不要になる時が来てほしいと切実に思った。

 

 




連絡手段に乏しい中世ファンタジーの世界だと伝書ガラスの設定はとても便利。
今回もお読みいただきありがとうございました!
来週もまた月、木の予定ですのでよろしくお願いします。
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