王子の婚約者である私ですが、ヒロインを全力で支援します   作:幸イテ(旧名:kouta)

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第四十七話 ストライ

 

「お、メーベ村が見えてきたよ」

 モルガンのその言葉を聞いて、喜びよりも私がまず感じたのは疲労感であった。幸い最初の襲撃の後は何も起こらなかったのだが、それでもかなり緊張していたらしい。

「安心したらなんか気が抜けちゃいました」

 ソフィアも同じだったようで、この時ばかりはだらしなく肩を落とす。しかし到着したとしても、商隊の皆全員が村に足を踏み入れるにはまだ早い。

「よし、それじゃあ行きましょうか。アーニャも準備は良い?」

「もちろんですわ。モルガンさん、会長にも連絡をお願いします」

「了解したよ」

 私達が馬車から降りるとエルも後ろに続く。念には念をだ。

「私もついて行きましょう」

「宜しく頼むわ」

 先に村へと向かうのは私、アーニャ、エル、そしてモルガンの父、サンタナ商会会長スティーブの四人だ。何故ならいきなりこの大所帯で行ってしまえば、村の人達を驚かせてしまう。混乱をさけるために説明を先にしておく方が無難だ。

 今回私達がベルナール領を訪れた理由に関して、ベルナール辺境伯と縁深いホープ子爵家がサンタナ商会とエリシア商会を雇って、物資を持って駆けつけたという事にしてある。だからこそのこの四人であった。誰が出てくるか分からない以上、まずは表向きの顔で接触するべきだろう。

 スティーブ会長が来たのを確認してから、私達はアーニャを先頭にし、村へと歩き出す。

「アーニャが言った通り、誰かベルナール辺境伯の血族の者がいれば話は楽なのだけれど」

「期待はしてもいいのではないでしょうか」

「その理由は? メーベ村は領の入り口のようなもの。森からは一番遠いはずだから安全ではないの?」

 それでもヴォルフに襲われたわけだが。しかしだからこそ他はもっと危険なのではないかと言う推察も成り立つ。単純に考えれば、被害が大きい場所に注力すべきだろう。

「領が何かしらの理由で荒れた時、警戒しなければならないのは内だけじゃありません」 

「混乱に乗じて無法者が来るって事ね」

「その時真っ先に狙われるのはメーベ村でしょう」

 無法者がやってくる事は想定していたが、何故真っ先にレーベ村は狙われるのか。数秒間その理由について逡巡した後、私は答えを探し当てた。

「一番外に近いからこそ、というわけね。納得したわ」

 とある民家が火事の時、その隣の家の者が安全のため避難した。幸い延焼はさけられたのだが、無事だった家に帰ってみたら、物が無くなってたという話を聞いた事がある。面白くない話だが、それが現実というものなのかもしれない。

「だとすると私達が盗賊に思われてる可能性もあるのかしらね?」

「それ故の少人数での訪問、ですわ」

 さて、どういう反応が来るのか。私達に村が見えているように、あっちからも歩いてくる私達が見えているはず。そろそろ反応があっても良いと思い始めた時だった。向こうからも人が歩いてくるのが見えた。遠めでも分かる程の大柄な体、その者は燃えるような赤毛を持っている。

「これは当たりですわね」

 私は頷いた。赤、それはベルナール辺境伯が持つ色なのだから。

 

 

 近くに来ると改めてその大きさが分かった。私とアルベルトでも身長差はあるが、見上げる程ではない。体付きの良いフレデリックよりも一回り大きく、見ただけでも屈強な戦士と理解出来た。事前知識がなければ領主の息子とは気づかなかったかもしれない。

 ところでなんか私に視線が固定されてるように感じるのは気のせいかしら? 私に何か変な所ある? エルに視線で問いかけても彼女は首を振る。じゃあなんでずっとこっちを見続けているのか。

「はじめまして。ベルナール家ご長男、ストライ様とお見受けします。ホープ子爵家が長女、アーニャですわ。この度は急な来訪で申し訳ございません」

 しかし反応はない。そして彼の視線は未だに私を向いている。いや、私じゃなくてまずアーニャを見て欲しい。気を取り直してアーニャは再度ストライに話しかけた。

「あの、ストライ様ですよね? 間違っていましたか?」

「あ、ああ、すまない。アーニャ殿。確かに私がベルナール家長男ストライだ」

 やっとストライの視線が外れ、私は一息つく事が出来た。今の代表はあくまでアーニャなのだ。順番は守ってもらわないと困る。

「ああ、良かったですわ」

「ホープ家の方からこちらに来られた事はなかったと思うが、どのような理由で参られたのか。今ベルナール領ではスタンピードが起きていて危険だ。引き返す事をお勧めするが」

「危険は承知の上ですわ。ここに来る途中で一度ヴォルフ達と遭遇しましたもの」

「それは本当か!? 被害は?」

「大丈夫です。万全に準備してきましたから」

「良かった。今のヴォルフ達は普通ではないからな」

 安堵した様子のストライに嘘は見えず、本気で私達の心配をしてくれているようであった。見た目通りの実直な人らしい。

「しかしアーニャ殿は知ってて来たと言ったな。奥で待機しているのは隊商のように見えるが……」

 だが彼も流石は領主の息子だ。アーニャの発言を見逃さず、冷静に状況を判断する。

「となると我々を助けに来たと言う認識で良いのか?」

「ええ、我がホープ家はベルナール辺境伯様に助けていただきました。今こそその恩を返すべきと思い、物資を運んできたのです」

「物資を……かたじけない。今回のスタンピートはなかなか終わる兆しが見えなくて、足りなくなりそうだったんだ。正直助かる」

 『今回の』と言う言葉が引っかかった。つまりは比べる比較対象があるという事だ。察するにベルナール領でスタンピートは何回か起きているのだろう。ただ国に報告が上がっていないだけで。

「仕方がないですわ。ストライ様はヴォルフ達が普通じゃないとおっしゃいましたが、それもそのはずです。今回のスタンピート自体が人為的に引き起こされたもので、普通じゃありませんもの」

 ストライから一瞬噴き出す怒り、その迫力は凄まじく、私達は思わず後ずさる。心臓を掴まれたような、そんな感覚であった。中でもエルだけは平然としていたが、護衛として頼もしい限りだった。

「……やはりそうか。我々は森の獣が増えすぎないよう、定期的に間引いていた。それこそ直近に至ってはスタンピートが起きる四日前だったのだ。普通であればこのタイミングで起きるわけがない」

「聞くに森の獣の数のバランスが崩れるとスタンピートが起きる、と言った感じなのでしょうか?」

「理由のすべてではないが、大体はそうだな。森で固体が増えすぎると縄張り争いで負けた奴が出てきて、森の外に追い出されてしまうんだ。それを放置していると段々と数が増えて最後には……だな」

 説明を受けて色々見えてきた。国にスタンピートが報告されないのはベルナール領が怠惰だからじゃない。日常の一部だからなのだろう。

「しかしどうしてホープ家の貴女が今回のスタンピートの情報を?」

「それはこちらのエリシア商会のナンシー会長からの情報からですわ」

「ナンシーカイチョウ? いや、この方は……」

 何で先ほどからちらちら見られているのか、今のでようやく合点がいった。どうやらストライは私、侯爵令嬢ナタリアの事を元から知っていたらしい。顔を合わせた事はないはずなのだが。そう言えばアーニャは私達の絵を辺境伯に送ったと言っていたかしら?

 知っているのだとしたら下手にごまかさない方が良いだろう。元よりいずれ正体は明かすつもりだった。早いに越した事はない、が、流石に馬鹿正直には言わない。

「いいえ、私は情報を売る商人、ナンシーよ。そういう事にしておいて」

 これで十分だろう。

「……人為的なスタンピートと言い、訳アリのようだな。一つ質問だが貴方がいるという事はひょっとして」

「ええ、会長補佐としてアベルとソアナも来ているわ」

 ここも言うのはあくまで偽名であるが、素直に答える。

「!!」

 ストライからまたしても噴き出す怒り、だが今回に至っては意味不明すぎで私は困惑する。

 

 え、どういう事? 今のどこに怒る要素あった?

 

「あー、もしかしてそういう事ですの?」

「アーニャ?」

「……後で話しますわ」

 アーニャは理解したようなのだが、私は全く分からず首をひねるばかりであった。

「ストライ様、先の話をする前に、まずは全員の挨拶を済ませてしまいましょう。こちらの方がサンタナ商会の会長ですの。今回危険を承知でついてきてくださいました」

「サンタナ商会、スティーブと申します」

「貴殿の勇気、感謝する」

 私と違い、本当に平民であるモルガンの父とすぐに握手を求めた事から、ストライに貴族主義の思想はなさそうであった。位としては下であるアーニャにも傲慢な態度は取っていないし、彼の持つ公平感は好感が持てる。

「後はナンシーさん専属の護衛、エルさんですわね」

 エルは言葉を発さず、規則正しいお辞儀した。

「なかなかの手練れとお見受けする。流石はナンシー会長が選んだ護衛だ」

 

 ナニコレ? 何故か私が褒められているのだけれど……

 正体を明かしてもストライの私への対応は変わった気がしない。

 何か元から知っている以外の理由でもあるのだろうか?

 

「はあ」

 

 アーニャのため息が辺りに響き渡った。

 

 




今回はちょっとした息抜き回でした。
ストライがアルベルトとソフィアにキレた理由は次回明らかになります。
今回もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は木曜日予定です!
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