王子の婚約者である私ですが、ヒロインを全力で支援します   作:幸イテ(旧名:kouta)

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第四十八話 傍から見た三人

 

 現在私は非常に気まずい状況下にある。今回の遠征はまずベルナール辺境伯に受け入れてもらうのが課題であったが、ベルナール辺境伯令息ストライは私達を快く迎えてくれた。迎えてくれたはずなのだが……

「…………」

「…………」

「…………」

 私を挟んで睨み合うのはアルベルト、ソフィア、ストライの三名だ。バチバチの三人に私は困惑しきりだ。三人とも別に相性自体は悪くないと思うのだが一体何故? 私はここに至った経緯を思い返す。

 

 

 

 最初こそ順調だったと思う。レーベ村に入る事を許された私達は物資の積み下ろしをサンタナ商会に任せ、ストライと詳しく話し合う事にした。メンバーは先ほどとは違い、アルベルトとソフィア、フレデリックが加わり、一方でスティーブ会長が抜けた形だ。

 スタンピートの原因はオルフであるが、そのオルフの話をするという事は、色についても言及せざるを得ない。せっかくの恩人を、うっかり聞いて死罪という最悪な形にさせないためにも、話し合いの場には厳重に見張りを配置した。

 そうして話し合いの場を整えたわけだが、私達は自己紹介もそこそこに洗いざらいを話した。ストライは私達が何者かをすでに知っている。ナンシーがナタリアであるように、アベルがアルベルト、ソアナがソフィアだとはっきりと認識している。だったら演技するだけ無駄というもの。

 申し訳程度に名前は偽名のままだが、それ以外はもうエリシア商会ではなく、ただのナタリアであった。要はホープ家の時と同じである。

 私達はストライに誰がこのスタンピートを引き起こしたか、その者はどういう人物なのか、何故そのような行動に至ったのかに至るまで説明した。ストライはところどころ質問を挟みながらも、真剣に聞いてくれた。

 比較的冷静に聞いてくれていた事から、今のところベルナール領での被害はあまりないのだろう。初めはそう考えていた。

 

 でも違っていた。

 

「……そいつのせいで森に一番近かった村は壊滅した」

 

 私は息を呑んだ。この村が無事だったから安心してしまったが、それが全ての村に適用されないのは当たり前の事だ。

「村の人は……」

「全滅ではなかったが、逃げてこられたのは半分にも満たなかった」

 

 重い、とても重い事実であった。

 

「他の村は何とか間に合ったが、それでも被害がゼロではない」

 私達だってオルフには個人的な恨みがある。私自身フランの事は決して許せないし、ホープ子爵家のアーニャだって、一家断絶の危機にさらされた。これらだって恨むには十分な理由だが、それでもオルフのおかれた環境に限って言えば、多少の同情の余地があると考えていた。

 

 だがストライは違う。同情するには領民の犠牲が多すぎた。

 

 

「奴は私達ベルナール領を敵に回した」

 

 

 私は身震いした。ストライの発した黒い意志は明確な殺意の現れであった。

 

「申し訳なかった。私達がもっと早くオルフの計画に気づいていれば助かった命だった」

 そう、謝罪を口にしたのはアルベルトであった。私も悔しさをかみしめる。あと数日早かったなら間に合っていたのだ。人を送るのは無理だったろうが、情報だけなら伝書ガラスで伝えられた。それだけでも大分結果は変わっていたはず。

「アベル殿の責任ではないだろう。教会の尻ぬぐいをさせられているだけなのだから。それに国軍ではなく、商人として来てくれた事からも、この辺境の地に気を使っていただいているのは分かる。もちろん犠牲者がいる以上、文句を言いたい気持ちはあるが、それを抑えるくらいの度量はあるつもりだ」

「その言葉に甘えるつもりはないが、正直助かる。今は協力しなければならないからな。文句に関しては終わってから聞こう」

「ふむ、普通であれば取らなくてもいい責任であれば逃げたくなるものだが、なるほどな。王たるものはそうでなくては。だが……」

 ストライの空気が変わったのを感じる。一体何が来るのかと身構えた私達であったが、ストライが発した言葉は予想外も甚だしかった。

 

「この辺境にナンシー殿を連れてきたのはいただけないな」

 

「え? 私?」

 

 

 

 流れがおかしくなったのは間違いなくここからだ。

「ちょっと、ストライ辺境伯令息?」

「今のあなたの婚約者はそこで黙っているソアナ殿のはずだが、どうしてナンシー殿も一緒にいる? やはりソアナ殿が能力的に劣っているからか?」

 確かに今の会話でソフィアはほとんど言葉を発しなかったが、そこまで言うかしら? 怒りよりも戸惑いが勝り、私は思わず二人を見てしまう。するとソフィアは気持ち悪いくらい満面な笑みを浮かべた。

「こんな短時間で人を知った気になるなんて、ベルナール辺境伯ご子息様は実に短絡的ですね」

「ソフィア!?」

 びっくりして偽名のソアナではなく本名の方を呼んでしまった。笑っているけどソフィアもソフィアで敵意が滲み出ている。いつもと違う様子のソフィアに私は戸惑うばかりだ。

「この女狐め! 何故ナンシー殿を縛り付ける? 貴様の目的は達成しただろう。それでもまだ利用しようとするか!」

「あなたこそ下心丸見えで気持ち悪いんですよ! その嫌らしい視線をナンシー会長に向けないでください!!」

「貴様ぁ!」

「そこまでだ! もしもソアナに危害でも加えようものなら私が相手になる!」

 とうとうアルベルトも参戦だ。さっきまで良い感じだったのに。まさに一瞬即発の状態だ。だが取っ組み合いの喧嘩になる前に、アルベルトはフレデリックが、ソフィアはエルが抑えつけた。一方でストライは彼の側近が二人がかりで止めていた。でも口だけはまだ動くため、戦いは続く。

「アベル殿! 貴様も何故ナンシー殿を裏切った! それだけの慧眼を以てして何故!? 答えろ!!」

 

「私、別に裏切られていないけど……」

 

 こうなるようアルベルトを焚きつけたのはむしろ私だし。しかしそんな私の呟きはストライには届かなかった。

「はあ、何となくこうなる予感はしていましたわ」

「アーニャ?」

「ここは私に任せてくださいまし。皆さん、まずはお三方の口を塞いでいただけますか?」

 

 こうして話は冒頭に戻るというわけだ。

 

 

 

 物理的に口を塞がれた三人は最初こそムームー唸っていたが、アルベルトとソフィアがフレデリックとエルに勝てるわけがないし、屈強なストライも辺境の男二人がかりでは流石に無理らしい。結果としてこうして三人が無言で睨み合う空間が出来たわけである。

「はあ、私よりも位の高い方達が情けない姿をさらさないでくださいまし」

 アーニャの言う事はもっともだ。三人のやってる事はもはや子供の喧嘩だ。お互い最初から敵意むき出しでは話をしようがない。しかしながらアーニャはその原因に心当たりがあるようで、私は彼女に進行を任せる事にする。

「まずは誤解を解きましょうか。ストライ様、ナンシー会長、いえ、ここだけは本当の名前にしましょう。ナタリア様は別に二人から虐げられていませんわ」

 そう、そこだ。確かストライは私を縛り付けているとか叫んでいたかしら? 私がセイファート家はソフィアを保護し、支援する立場を取っている。何でストライはそんな勘違いをしたのか。

「疑いたくなるのも分かりますけどね」

 

「それはどうして? 私はちゃんとあのパーティーの場で説明したはず……あ」

 

「ええ、ストライ様はそもそもパーティーに出席しておりませんわ」

 私は疑われるのが分かっているからこそ、ダンスパーティーを利用してソフィア・クアラルンを演出し、さらにはソフィアとダンスを踊る事で、仲の良さをアピールした。それを見ていないストライが知るのは書簡による情報のみ。いくら文を推敲したって、場の雰囲気を伝えるのは困難だ。

「だからストライ様目線では、未だにアルベルト様はナタリア様を捨てて別の女に走ったくそ野郎で、ソフィア様はナタリア様からアルベルト様を寝取ったくそ女のままという訳です」

 アーニャの直球過ぎる物言いに思わず真顔になってしまった。でもこれ以上に分かりやすい例えもないわけで。

 私達の中ではとっくに根回しは終わっていたため、まさか今このタイミングで最初で最大の懸念点であった、ナタリアからソフィアへの引継ぎ問題に戻ってくるのは想定外すぎた。アルベルトとソフィアの方を見ると、二人もこれまでのような勢いは失っており、視線をさまよわせていた。

「虐げられていないのなら何故三人のままでいる? ナタリア殿はもう婚約者ではないのだから、一緒にいる必要はないだろう」

「何事にも例外があるという事ですわ。この三人はずっと学校でも一緒ですのよ?」

「それはやはり……」

「強制じゃなくて自主的に、ですわ。お三方の仲の良さは学校では有名ですもの」

「そうなのか……」

 アーニャが釘を刺してやっとストライの方も収まった。

「正直納得は行かないが、そう思うようにしよう」

 収まったのだろうか? それでも飲み込んではくれるらしい。

「三人の事を見続ければいずれ分かりますわ。それに……」

 アーニャは私達に聞こえないようにストライに耳打ちをする。

 

「んな!?」 

 

「いや、その通りだが」

 

「そうか……分かった!」

 

 アーニャが何か言う度にストライが過剰に反応しているが、一体何を言っているのだろうか? 私達に聞かせないのにも意図があるはず。そしてどういう訳かソフィアの顔がまた険しくなっているのが見えた。もしかしてソフィアはアーニャの言ったであろう事を理解しているのかしら? それで不機嫌になっている?

 とりあえずこの訳の分からない戦いは収まりそうで、私はほっとする。やっぱり予想外の事にはまだまだ弱いわね。一朝一夕で身につくものではないとは思ってるけど、もうちょっと何か出来なかったかしら?

 

「というわけで、子爵家の身分ながら、失礼な口をきいてしまった事、誠に失礼いたしました」

 

「いいや、謝罪するのはこちらの方だ。この場を収めてくれて感謝する」

 この場で一番位の高いアルベルトが代表して、アーニャの健闘をたたえる。彼女がいなかったらもっとこじれていたに違いない。

「それとストライ辺境伯令息、信じられないかもしれないが私達はお互い認め合って、三人で行動している。お互い暴言を吐いてしまったが、君のそれはナタリアを思っての発言だった。故に水に流そうと思う。そしてソフィアの暴言もまたナタリアを守ろうとした故。ソフィアを選んだ私が言う事じゃないかもしれないが、ナタリアはその優秀さゆえに他の貴族達が欲しているという背景がある。彼らから守るためにソフィアもまた必死なのだ。君とソフィアの想いは同じ。だからこそ許してやってほしい」

「そもそもこんな事を起こさなければ、と言っても仕方ないのだろうな。もう終わってしまった事なのだから。どうやら私も視野が狭かったようだ。謝罪を受け取る」

 アルベルトとストライがお互い謝罪し、後はソフィアだけとなる。しかしソフィアは私の予想に反して頑なな姿勢を崩さなかった。

「本来なら私も謝るべきなのでしょう。でも私はあえて謝りません」

「ソフィア!?」

「あなたは書簡から得た情報だけで判断しようとした。アルベルト様を認めたくせにそれでも最後は疑った。私達を見ないで、私達の側だけを見て悪と決めつけた。そんなあなたをナタリア様に近づけさせるわけには行きません!」

「っ!?」

 ストライの顔が明確に歪んだ。ここぞと言う時のソフィアの輝きはとても眩しい。正しい間違っているじゃなく、私の味方である事がひしひしと伝わる。だからこそ私もソフィアの絶対的味方であり続けるのだ。

 

「ストライ様、見れて良かったですわね。これがソフィア・クアラルン公爵令嬢様ですわ」

 

「……アーニャ殿、貴方の言った通りだ。私が勝たなければならない存在は彼女なのだな」

 

 何やら不穏な言葉が聞こえた気がする。

 

「ソフィア殿、私は貴方を見くびっていたようだ。これまでの非礼を謝罪する。貴方が怒るのは当然の事だったな。だが私は諦めない。いつの日か、いや、近いうちに貴方に私の価値を認めさせて見せよう。必ず!」

「やれるのならやってみてください」

 

 何かさっきまでが嘘みたいに良い関係が構築されていくのだけど、全く持って訳が分からない。困った私がアーニャに視線を向けると彼女は言った。

 

「要するにナタリア様は罪な女ってやつですの」

 

 理解を深めるどころか、余計分からなくなったのであった。

 

 




前半はシリアスな感じでしたが、後半は一転して、
傍から見ると三人の関係は変だよねっていう至極真っ当なツッコミの話でした。
次回も月曜日と木曜日に更新予定です!

今回もお読みいただきありがとうございました!!
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