王子の婚約者である私ですが、ヒロインを全力で支援します   作:幸イテ(旧名:kouta)

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第四十九話 だから私は行動する

 

「…………」

 何とも納得しがたく、私は未だに首をかしげていた。アーニャの働きによって、ストライとの間にあった誤解が解けた。それ自体は良いのだが、罪な女って何? アルベルトですら納得した様子を見せているのが解せない。

「さて、ここからは呼び方を戻しましょうか。お三方は本来ここにいれば不味い存在ですからね」

 でもずっとふてくされているにも行かない私は、気持ちを切り替えてアーニャに返事をする。

「ええ、ベルナール領での私はエリシア商会のナンシーよ」

 私達がベルナール領にいたと言う話は残したくない。エリシア商会もサンタナ商会もすべて、ホープ家に従って行動しているという形をとっているのはそのためだ。ただ王族がベルナール領に来た事を隠す以外にも大きな理由が一つある。

 アーニャが私達についてくる事を決めた後、私達三人は話し合ったのだが、そこでの結論は、この件に関する功績をホープ家のものにしてしまおうと言うものであった。ホープ子爵がベルナール辺境伯とやり取りしていたのは事実だし、ホープ家にはベルナール領を助ける動機がある。

 ホープ家に公の場で褒賞を与える事が出来る良い機会であった。ホープ家が秘密を死守してくれたからこそ、我が国は分断を避けられている。これまで苦労を掛けた分は報いたい。

「了解だ。しかしそうなると一つ問題が出てくる。今の貴殿らは商人を装うために色落ち状態だ。正体を明かさなければ王族としての権力は使えない。その姿のままでは私が従うのは周りから妙に映るだろう。何か案はあるのか?」

 ストライが言う事はもっともであったが、アルベルトが即座に返答した。

「私達は辺境に関しては素人だ。土地勘もないし、要の人物達の情報も不足している。これでは指揮も何もないだろう。だからこそ私達は君やベルナール辺境伯の指示に従おうと思っている」

 現場を知る人間こそ指揮を執るべき、これこそ私達の総意であった。

「ほう」

「この形なら見た目的にも問題ないだろう?」

 私達は目立ちたくない。ストライだって余計な事はされたくないだろう。まさに一石二鳥の案だ。ストライが信用ならない性格をしていたらやめていたが、彼の実直さはこれまでの会話で証明済みだ。万が一怪しい動きなどあれば、エルとフレデリックが知らせてくれるだろうし、問題ないだろう。

「中央の貴族共はプライドが高いと思っていたが、なかなかどうして」

「あら? プライドはあるわよ。あるからこそこの場に来たのだしね」

 すべては責任を果たしたいからこその行動だ。貴族は常に貴族らしくと言われるが、それで救えないのであれば柔軟に対応してこそだろう。

「流石はナンシー殿だ。平民の姿にも慣れているようだが、そこは聞いても?」

 ストライの持ち上げにむず痒くなるが、続く言葉が違っていて良かった。これなら簡単に答えられるし、私がこれ以上持ち上げられる事はない。

「それはソアナのおかげね。彼女は今でこそソフィア・クアラルンだけど、元は孤児院の出なのよ。クアラルンの血族と発覚するまではずっと平民だったわ。でも実力は折り紙つきよ。我がサイヴェリア国立学校の特待生であり、高位貴族達と成績をずっと競い合っていたほどなのだから」

「特待生である事は知っていたが、そこまでなのか」

 ベルナール辺境伯は中央の情報を豆に集めていたようだが、流石にソフィアの具体的な成績を把握してはいなかったらしい。

「だからストライ辺境伯令息。順序が逆なのよ。私達は初めソフィアの才能が欲しくて声をかけた。その後に二人は恋に落ちたの」

 本当は一目惚れだったわけだけど、成績優秀なのは元から知っていたし、これくらいの嘘は許容されるわよね? 後は私とアルベルトの説明ね。

「私はアルベルトとは仲良かったけど、小さい頃から付き合いがあるせいか、兄妹みたいな感覚なのよね。恋愛と言うよりも親愛。だからソフィアに素質さえあれば何も問題なくて、素直に祝福出来たという訳。私もソフィアの事を凄く気に入っちゃったから、むしろ積極的に応援していたわ」

 こっちも真実よりはちょっとマイルドにして説明する。兄妹というよりは考えが一緒過ぎて危ういってのが本音だったから。でもソフィアが現れてから、私とアルベルトはちゃんと別人になれた気がする。私とアルベルトが似てしまったのは、元の性格の問題意外にも、同じ場所にいて、同じ事をし過ぎていたのもあるんでしょうね。

「……早とちりしてしまってつくづく申し訳ない」

「いや、こちらも説明不十分だったな。書簡だけの印象だと悪いに決まっていた」

 アルベルトも謝る事で場が綺麗に収まる。大分良い流れになってきた気がする。怪我の功名とでも言おうか。先にぶつかったからこそわだかまりが解けている。そんな気がした。

 

「しかし参ったな。私は戦うのは得意だから戦術なら組めるのだが、それ以外の事はさっぱりでな。どう指示していいやら」

「そのわりには随分堂々としているけど?」

 私の疑問にストライは豪快に笑う。

「はは、上が不安がるのは一番してはいけない事だろう? 俺が俺らしくあれば村人は安心する。次期領主として勉強始めたばかりだが、それくらいの事は今でも分かるさ」

 上に立つ者が一番持つべきものこそが責任感である。ストライはそれを自然と持ち合わせていた。しかし本当に素直な男である。何も自分から弱点をさらけ出さなくてもいいのに。でもどこか何か油断ならなさがある。その理由を探していた私はふと気づいた。

 

 逆なのだ。

 

 人は自分に自信がない者ほど、虚勢を張って大きく見せようとする。逆に自信がある者は多少自分の弱点がバレても気にしない。さらけ出しても何とか出来るって自信があるからだ。それこそだからどうしたで乗り切ってしまう。

「だったら私が意見しても?」

 割り込んできたのはソフィアであった。ストライは反発する事なく、ソフィアの発言を促す。お手並み拝見と言ったところだろうか?

「まず一つ確認ですが、スタンピートが収まるためには、森の外に出てしまった獣を狩りつくすしかないのでしょうか? それともほとぼりが冷めた自然と森に帰ってくれるのでしょうか?」

「そこは未知数だな。普通は縄張り争いに負け、森に居場所がなくなって外に出てくるから、森に帰るという事は出来ない。だが今回は獣除けによって獣全てが追い出されてしまった事から、森はもぬけの殻という事になる。場所は開いているわけだ。臭いさえ収まればあるいはってところだが……」

「どちらにせよまだまだ時間はかかりそう、そういう認識で良いですか?」

「認めたくないがそうなるだろう」

 ストライの返事を受けてソフィアは考え込むしぐさをする。僅か数秒で頭の中を整理し終えたソフィアは、ストライに次どうするべきかを簡潔に語った。

「早く解決出来るなら先に問題の根っこを絶つべきでしたが、長期戦になるのであれば、今やるべきは持ってきた物資の配分でしょう。どの村で何が足りてないとかは把握していないので、そちらで決めてもらえると助かります。後は足の問題ですか。もちろん私達が別の村に配りに行っても良いのですが、その場合先に伝達してもらうとスムーズでしょうか? その際に犯人であるオルフ達の情報提供もお願いしたいですね。彼らが村を全て避けて森に向かったとは思えません。必ずどこかの村に立ち寄ったはずです」

 ストライは面食らった様子を見せる。ソフィアは見た目が童顔のため、どうしても施政者としては見られにくい。元が平民だったという事もあるだろう。だが我がセイファート家がみっちり鍛え上げたのだ。私から言わせればこのくらいは当然の事だ。

「……妥当に思えるな。反論すべき点が見当たらない。ところで物資に食料はどれくらいあるだろうか?」

「ざっくりとですが、全体の六割程度だったかと。割合的には一番多いです」

「それは良かった。今ちょうど春の作物の収穫期だったんだが、畑に行くのは危険で収穫出来ていないんだ。雑食の獣がそちらに向かって、村には来ないっていう利点もあるっちゃあるが。貯蔵していた保存食は冬を越すためにほとんど使ってしまって、もう少なくなっていたから助かる」

 これはホープ子爵のアドバイスであった。ホープ家はベルナール領の事を良く知っているため、今の時期が食料が心もとない事を熟知していたのだ。

「それにオルフの捜索についてだが、奴は辺境に喧嘩を売った。皆喜んで協力してくれるだろう。しかし先に確認しておきたい。物資の支払いについてはどうなるのだ?」

 ここでちゃんとお金の話が出るのは領主としての勉強の成果なのだろうか。あっちから振ってきてくれた事にある種の安心感を私達は覚える。私はアルベルトに視線を送ると、彼は任せてくれと言わんばかりに説明し始めた。

「まずは国で建て替えておいたから安心してほしい。ただ急がずとも大丈夫と言うだけで、無料というわけにはいかない。スタンピートが終わった後に被害状況を見て、返済計画を組んでもらう形になると思う。国から補助金を出す話も出ているが、どれくらい出せそうかはまだ分からない。少なくとも利子はゼロだ。悪いようにはしない事は約束しよう」

「タダよりも全然いい。我が父もこの方が納得するだろう」

 話し合いを経て段々と形が組みあがっていく。さあ、次は何を語ろうか、その矢先の出来事であった。ストライがとある疑問を口にしたのだ。

 

「ところでアベル殿達はオルフをどうするつもりだ? 捕らえるのか? それとも処分するのか? 

 

俺は――

 

そのオルフって奴と出会ったら我慢出来ないと思う」

 

 ストライの声は平坦そのもの。だからこそ余計に怒りが伝わった。怒鳴ったり、物に当たったりしない。それらには怒りだけでなく恐怖も混じっている。一方で混じりっけない純粋な怒りはむしろ静かだ。

「止めないわよ。私達はオルフを捕らえに来たわけじゃない。その段階はとうに過ぎたわ。奴のせいでサイヴェリア国は一度滅びかけた。ホープ子爵が賢明だったから、フローレル男爵が愚かだったから首の皮一つ繋がっている。はっきり言って今この時は奇跡に近いの」

 絶対的な規律で色の真実を守ってきたはずの教会が、秘密を漏らしてしまったのは痛恨の極みであった。その後も悪手に次ぐ悪手で危機は拡大したが、今もギリギリ耐えているのは不幸中の幸いと言えるだろう。

「そもそもだ。前司教の息子は我がベルナール領とサイヴェリア国の対立を望んでいるとの事だが、何故それがスタンピートを起こす事になる?」

「馬鹿みたいな話ではあるのだけど、意外と理はあるのよ」

「というと?」

「仮に私達がこのベルナール領を訪れないまま、スタンピートを収束させたとしましょう。きっとあなた達はこう思うわ。国は助けに来てくれなかった」

「それはそうかもしれんが、流石に完全対立まではいかないかと思うぞ」

「もちろん国が兵士を送ってしまっては隣国と揉めるから、国からの援助はむしろしてはいけない。理屈ではこうよね? でも感情では納得出来ない部分は絶対残る。あなたは賢いでしょうからそれでも革命の誘いは断るでしょうね」

「もちろんだ!」

「でも、不信の芽は残る」

「む……」

 ストライは言葉に詰まる。それだけで十分であった。

「その時革命は起きなくても、将来その不安が大きくなって敵対する未来があるかもしれない。だからこそ私達は来たのよ。その芽を摘み取るために」

 

 それが私の、私達のゆるぎない決意であった。

 

「……なるほど、納得した。確かに後の事を考えるとただ愚かであるとは言えないな」

 理解を示してくれたストライであったが、私はさらに釘を刺しに行く。

「あと一つ、忘れないでほしい事があるわ。今の話は私達がお互いを知ったからこそ出来ているという事」

 そう、相手がこういう人だからと、理解しているのと理解していないでは雲泥の差がある。ストライと言う人物を知ったからこそ、ストライが私達を知ったからこそ、信頼が生まれている。

「仮にこうして直接会わず、お互いの印象があやふやのままだったとしたら……」

 

 

 私はあえてその言葉の続きを言わなかった。

 

 

「……オルフの口車にのせられていた未来があったかもしれないと思うと反吐が出るな」

 

 

 絶対なんてない。だから私達は己自ら行動するのだ。

 

 

 

 




今回もお読みいただきありがとうございました!
事件は現場で起きている! みたいなもので人も直接会って話してみると結構心証変わったりしますよね。
んで、事前に現場見ない、相手とも知らない同士、で見切り発車すると大抵は失敗するという。
ネットで便利な世の中になりましたが、ここら辺は結局変わらないのだろうなぁって。
ではまた次回、木曜日にお会いしましょう!
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