王子の婚約者である私ですが、ヒロインを全力で支援します   作:幸イテ(旧名:kouta)

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第五十二話 魔王の息子 ???サイド

 

 どれだけ憂鬱であろうとも朝はやってくる。このソレッタ村に避難してしばらく経つが、俺達が疑われる事は特になかった。それでも念には念をという事で、俺達はなるべく目立たないように行動してきた。いや、何かしたくても出来なかったが正しいだろう。

 

 ザナックはいつも悪夢を見るらしく、寝るのが怖くなってしまっていた。ハリーは人の目が気になって仕方がないらしく、外に出ようとしない。ウィルはいつも通り本を読んでいるが、そのページがあまり進んでいないのを俺は知っている。エディはあの時最初に獣の声を真似たお調子者だが、今はその鳴りを潜めていた。

 

 そういう俺も現実に打ちのめされていたし、皆を鼓舞するだけに何かを持ち合わせていなかった。

 

 皆が皆、無気力になってしまっており、ただ時間だけが過ぎていく。

 

 俺達はあの時、自分が助かるのに必死で、襲われた仲間達を助けようとはしなかった。むしろ襲われている隙に逃げようとした臆病者である。俺達は自分達が助かる代償に罪を背負ったのだ。心の傷は深く、癒える気配はまるでなかった。

 

 しかし俺はずっと違和感を感じていた。俺自身も打ちのめされている。それは事実なのだが、皆ほど深刻ではない。俺自身、こうして皆の様子を見る余裕がある事からもそれが分かる。他の皆は自分の事で精一杯で周りを見るなんて到底無理そうであった。

 

 俺が一番、責められる立場であるのに何故こんなにも冷静でいられる? 

 何故恐怖し、絶望しない? 

 

 この村に来てから何度も問いかけてきた事だ。何か特別な理由という確信だけはあるのに、答えに辿り着けないのはまるで幻を見ているかのようだった。

 

 この答えに辿り着いた時、俺は何か変わるのだろうか? それとも本当に幻で、ただ俺が現実逃避をしているだけなのだろうか?

 

 よく分からないものをここまで真剣に考えるのは初めての事だった。これからどうするかよりも優先する事なのか疑問だったが、今の俺は暇さえあればこの事ばかりを考えている気がする。

 

 しかしいくら時間をかけようが答えらしい答えは浮かばない。どうにもならずに停滞感を覚え始めた時であった。獣の襲撃に怯えていた村の空気が変わったのだ。俺は意を決して村人に尋ねると、その答えは予想だにしない事であった。

「騒がしいようだが何かあったのか?」

「ああ、物資が届いたのよ! 駆けつけてくれたのはホープ子爵家の方々らしいわ。商会を雇って、食料とか持ってきてくれたのだとか。私達の危機がちゃんと伝わっていたの!」 

 ありえない、それが率直な感想であった。国ならまだしも何故に子爵家が辺境伯の手助けをするのか。まるで理解出来なかった。しかもよりによってホープ子爵家とは。過去の仕打ちを思い出し、俺は平静を保っていられなかった。

 だが状況は俺に整理する時間をくれなかった。皆のいる宿へと帰り、ホープ子爵家について考えようとした矢先、仲間の一人が血相を変えてやってきた。その手に紙を握りしめて。

「オルフ! こ、こ、これを見てくれ!!」

 ザナックから手渡された紙を見て俺は驚愕した。

「これは……手配書? 俺達の?」

 その言葉をきっかけに皆が一斉に集まってくる。 

「手配書だって!? マジか!?」

「罪は国家反逆罪……」

「おいおい、この似顔絵まずいだろ! 普通に似てるぜ!? 一体どうやって俺達の事を調べたんだ?」

 自分の危機ともあれば、自分の殻に籠ったままでいられなかったのだろう。ハリー、ウィル、エディの三人は青ざめた表情で思い思いの言葉を口にする。

「とりあえず人が少なかった掲示板からは剥がしてきたけど、村の広場のは流石に無理だ。このままじゃ俺達捕まるぞ! どうするオルフ!?」

「今すぐ逃げようオルフ!」

「いいや、今は目立ちすぎる。日中はどこかに隠れて夜に逃げた方が……」

「隠れるったってどこにだよ!?」

 皆の悲痛な声がどこか遠くに聞こえた。今の俺はそれどころじゃない。

 

 まただと思った。いよいよ追い詰められたにもかかわらず俺は恐怖していない。

 

 むしろワクワクしている? 

 

 それまで靄で見えなかった己の心の内が見えた気がした。より危機的な状況になって、得体のしれない何かの正体を俺はとうとう知った。

 

 

 高揚感、俺は今それを強く感じている。

 

 

 手配書には俺の顔の他に俺の名前が書かれている。手配書なんだから当たり前の事であるが、俺にとっては違う。この手配書は地獄への切符ではない。

 

 

 

 これは俺にとって祝福だ。

 

 

 

 ここには司教の息子ではない。俺の名だけが書かれている。

 

 やっとだ。やっと世界が俺を見た。

 

 長かった。本当に長かった。

 

 

 

 手配書を握りしめながら、俺は歓喜の声をあげる。

 

 

「くくくく、あっははははは!!」

 

 

「オルフ?」

「あいつらの犠牲は無駄じゃなかった!」

「どういう事だ? ……俺達は失敗したんだぞ?」

「いいや、違う! 確かに俺達は危機的状況だ。スタンピートは起こす事が出来たが、半分もの仲間を失い、捜査の手もここまで伸びてきている。だがこうして手配書まで出したという事は、国は俺達が脅威であると認めた証拠だ。これが笑わずにいられるか!!」

 同志達は俺を訝し気な顔で見るが気にしない。失敗なんて気にする必要なんてないのだ! 俺達はとうとう一人前となったのだから!

 

 何と言う解放感。息が全く苦しくない。俺に纏わりついていた偉大な父の影が消え、俺としての輪郭がはっきりと浮かび上がる。

 

 

 俺は今、やっと生まれたのだ。

 

 

 

 俺は、俺になった!

 

 

 

「俺達が……認められた?」

「騙されるな! 敵として認められたって事は本気で来るって事だぞ? 国が本気で俺達を殺しくるんだぞ!? 勝てるわけないだろ!!」

 臆病風に吹かれ、ザナックを止めるハリーを俺は叱咤する。

「ハリー、何を甘えた事を言っている」

「誰が甘えてるって? ふざけんな! 全部お前が悪いんだろうが!!」

「ああ、そうだ。それが?」

 答えを得る前だったら怯んだかもしれないが、ハリーは一歩遅かった。自分自身を得た俺はそんな事じゃ揺るがない。

「それがって……」

 俺があっさり受け入れ、動じなかった事にハリーは戸惑いを見せる。もうこの時点で勝負は見えていた。

「革命がそう簡単に起こせるわけがないだろう。俺はそう言ったはずだが? 困難な道になるけどそれでもついてきてくれるかと」

「それはそうだが……本当だとは思わないだろう!! こんな、こんな酷い事になるなんて。あいつらがあんな……あんな惨い死に方……」

 俺はほくそ笑んだ。ハリーが犠牲者の話をしてくれた事で、俺は次の話を持っていきやすくなる。今こそ目を覚ます時だ。

「犠牲はあいつらだけじゃない」

「っ!!?」

 まだ戻れると思っているなんて甘いにも程がある。俺は戸惑う皆に現実を語った。

「優しかった村人達、決死の覚悟で角グマに立ち向かい、俺達を守ってくれた兵士達……俺達の見通しが甘かったからこそ彼らは犠牲になった。そう、俺達は罪人だ」

 皆沈痛な面持ちになる。彼らを殺したのは獣達だが、スタンピートを起こした俺らだ。無関係と思えるほど俺達は鈍感ではない。仲間が犠牲になってしまったのと同じくらい、俺らは人を殺してしまった現実に打ちのめされていた。

 でもだ。それでどうなるというのだ? このままここに居て何になる?

「仮にこのまま自首したとしよう。それで何かが変わるか? 答えは変わらない。諦めは決して彼らの死に報いる事にはならない! 違うか? だからこそ最後までやり遂げるんだ。仲間達や、村の人の死を無意味にしないためにも!」

 英雄は平穏の中では生まれない。危機的状況からこそ生まれる。困難であれば困難であるほど、それを乗り越えた時、唯一無二の存在になれる。そのためなら俺は狂気に染まろう。この命燃やし尽くすまで俺は挑み続ける。

「オルフ……本気なんだな?」

「ああ、本気だ」

 俺の熱を感じ取ったのか、やっとザナックが顔をあげた。

「だったら俺はついて行くよ」

「ザナック!?」

「だったら聞くが他に道があるか?」

「それは……」

「俺達の失態は消えない。だったらよりでかい事をしないと挽回出来ないだろ!!」

 そうだ。立ち上がれ皆! 失敗を糧にして這い上がれ! 熱は伝搬し、今度はウィルが声をあげた。

「確かに犠牲は多かった。それでも国を脅かす事には成功している。俺達は進んでいるよ」

 エディもそれに続く。

「オルフ、お前の事だ。次の一手はあるんだろ?」

 俺はエディの期待に応えるべく、自信を持って返事をした。

 

「ああ、ある!」

 

「皆、まずはこっちに来い。皆の色を変える」

「今から貴族にでもなるのか?」

 エディの問いは不正解だ。貴族の色は目立ちすぎる。

「違う。貴族ではなく、別の平民の色にするんだ」

「なるほど、考えたなオルフ!」 

 察しの良いウィルがにやりと笑った。そう、平民の色は地味だが、各々の違いはある。近くで顔を見られれば流石にばれると思うが、それでも髪や眼の色が違ってさえいれば、他人の空似で済まされる可能性が高い。ほとんどの者達は色の真実を知らないのだから。後は俺達の演技力にかかっている。

「色を変えた後は目立たないようバラバラに行動するぞ。どうしても村人と話さなければならないから、物資を運んできた商人になりすますように。夜まで捕まらずにいられたら俺達の勝ちだ。闇の中なら村から出る方法はいくらでもある」

 ホープ子爵家は俺達を危機に追い込んだが、逆に外に出るチャンスも与えてくれた。

「村の外に出た後は?」

 不安げに問うハリーに俺は答えた。

 

「国境に向かう」

 

「それってまさか?」

「ああ、隣国を味方につける」

 こうして手配書が広まった今、ベルナール辺境伯を味方につけるのは難しいだろう。きっと国には俺らがスタンピートを起こした事もバレている。

 俺は今まで自国の者の手で革命を起こすべきだと考えていたが、その理想はもう捨てよう。腐り切っている我が国は根本から変わらなければならない。そのためには教会や、貴族共、そして王族を一掃するしかないのだ。俺は向き直ると、今一度皆に頼み込んだ。

「ザナック、ハリー、ウィル、エディ……」

 

「俺に力を貸してくれ。はっきり言うが命の保証はしかねる。だがこの危機を乗り越えられば俺達は……俺達は伝説だ」

 

 もう否定の言葉は一切上がらなかった。

 

 

 




今回もお読みいただきありがとうございました!
失敗を大きい事で返そうとするのは決してしてはいけません!
でも敵意であっても嬉しいはちょっと考えさせられる面ありますよね。
それではまた来週月曜日にお会いしましょう。
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