王子の婚約者である私ですが、ヒロインを全力で支援します 作:幸イテ(旧名:kouta)
ソレッタ村に向かう道中、私の口数は少なかった。それもそうだろう。オルフは強すぎる光が生み出した闇であり、奇しくも私達の因縁の相手である。
アーニャのホープ家に禁忌を持ち込み、色を悪用し、平民だったフランを男爵令嬢のウェンディへと変えた。そして今、スタンピートを起こした事でベルナール領との確執も生まれている。もはや私達はオルフの非凡さを認めざるを得なかった。
教会も、私達も、誰もが取るに足らないと思っていた相手が、何もかも失った状態からここまでやってみせたのだ。
もはや単なる世間知らずの空想家ではない。私達にとって疑いようもなく政敵だ。自然と握る拳に力が入る。そんな自分を見透かされたのかもしれない。
「ナンシー会長、大丈夫ですよ。オルフはもう全ての手札は切ったのです。すでに私達はベルナール辺境伯のご子息とご息女に接触出来ています。もはや革命の道なんてありませんよ」
諭すようなソフィアの言葉に頷く。そこでふと私は思った。何故こんなにも私は焦っているのか。スタンピートという最悪な事態は起きてしまったが、逆に言えばそれ以上の事は起こらないはず。
ベルナール辺境伯にはまだ会えていないが、ストライとシリルには会えた。スタンピートの終息に関してはベルナール領任せで、オルフ達は存在感を示せてない。仮にオルフがベルナール辺境伯に会えたとしても、どうしたって実力主義のベルナール領では説得力に欠けるだろう。
もはやベルナール辺境伯を扇動するのは無理に等しい。今のオルフ達に革命なんて起こせるわけがない。
でも何かが引っかかった。それが何であるかはっきりと分からないが、この嫌な予感は忘れないでいた方が良い。そう思った。
「ソレッタの町が見えてきたよ!」
「あれが……」
モルガンの声を聞き、私は馬車の中から外を見る。町と言うだけあって、これまでと比べて大きさが段違いで、避難場所に選ばれたのもよく分かる話であった。にもかかわらずなぜ私達第一隊商ではなく、第二隊商にソレッタの町を任せたのか。それには私たちなりの読みがあった。
私達は前提として十二人すべて生存していると思っていたのだ。十二人で行動するのは凄く目立つ。それに滅んでしまった村の人が避難しているのであれば、顔も知られているだろうし、無傷の十二人は怪しまれるだろう。
だから仮に一緒にソレッタの町に避難したとしても、すぐに移動しているだろうと踏んでいた。結果としてはソレッタの町に留まり続けていたわけだが。
男からの情報によると、どうにもオルフ達は仲間を少なからず失っているらしい。どれくらいの犠牲があったのかはっきりとは分からないが、顔を青くしていたと言うのだから、かなり大きな被害だったのだろう。
幸か不幸か、オルフ達は自分達も犠牲になった事で疑いの目を避ける事が出来た。私達の予想も外して見せたわけだが、だがそのチャンスを活かせるかはその後どうしたかによる。少なくとも三日前に確認出来ている事から、ショックから抜け出せていないようであるが果たして……
ソレッタの町に着いた私達は馬車に乗ったまま報告を待つ事にした。思わず飛び出したくなるがここで焦ってもしょうがない。今私達が動いても意味はなく、すでに結果は出ているのだから。
町に報告を聞きに行っていたフレデリックが戻ってきたのは、十分ほど経った後の事であった。普通であればたかが十分だが、今の私には相当長く感じられた。何せこれで終わるか否かの局面なのだ。
私達は緊張の面持ちでフレデリックを見た。
「良い話と悪い話があります」
フレデリックは率直に言った。瞬間、私含めて皆の顔が歪んだ。
この時点で全員確保にはならなかったのだと察してしまったから。険しい表情のままアルベルトは先を促した。
「オルフの賛同者を二名捕らえたとの事です」
確かに喜ばしい話ではあった。全くゼロよりはいい。それでも期待していた分落胆も大きかった。
「つまりオルフは逃がしたという訳か……」
「オルフ達が色を変えているのは想定していましたが、その影響が思いの外大きかったとの事。兵達は不甲斐ない結果で申し訳ありませんと言っておりました」
「いや、ここは二手に分けた我々の落ち度だ。特にソレッタの町は他の村と違って大きい。読みを外された中で、二人捕まえられたのは僥倖というものだろう」
オルフに色を変える秘術があるのは非常に厄介だ。サイヴェリアの民は色が絶対的であると信じている。だから色が違うとどうしたって他人の空似だと思って、集中を欠いてしまう。仮の理由として、カツラの可能性はあるとは伝えていたが、カツラの場合は少なくとも元の髪型とは変わってしまうため、元のままが盲点になってしまう。ともなればまともに調査出来るのは、色の真実を知っている商人に変装している兵士達だけだ。
「奴らはバラバラで行動しており、人には大胆にも物資を運ぶ商人を名乗っていたそうです」
「……小賢しいな。でも色の変更と組み合わせれば決して悪くない手だ」
オルフ達は町の外の人間であるのに自然な理由を選んだわけだ。なかなかに機転が利く。しかし彼らの行動力の高さに私は疑問符を浮かべた。
「ちょっと聞きたいのだけど、私達が聞いた情報では、彼らは仲間を失って失意の底にいたらしいのよ。少なくとも三日前までは。でも今の話を聞いていると、オルフ達はオルフ達なりに考えて行動しているように思えるわ」
男の話を信じるとすれば、そこまで回復したとは思えないのだが、何か立ち直るだけのものがあったのだろうか?
「二人は口が堅いらしく、何も話そうとしないらしいですが、つまりそれは……」
「それだけ強い思いがあるという事ね」
奇怪な状況であった。
どん底から抜けてきた事と言い、今もまだ意志の強さを持っている事と言い……
「……まだ諦めていないと言うの?」
これ以上彼らにどんな手があるというのか。何かソフィアと話していた詰みの状況とズレて来ているのを私は感じていた。
「どうします?」
フレデリックの問いに私達は無言になる。彼が聞いているのはどう口を割らせるかだ。より直接的に言うと口を割らせるために拷問をするのか。彼らはすでに一線を越えており、国家反逆罪で死刑が確定している。今更善人面するつもりは毛頭ないが、それでも躊躇してしまうのは甘さなのか。
私達はお互い顔を見合わせて頷く。新たな泥を纏う決意をし、代表してアルベルトが口に出そうとした、その瞬間の事であった。
「ちょっと待って、それ私に任せてみない?」
途中からそう割って入ってきたのは、それまで傍観に徹していたシリルだった。
「シリル辺境伯息女、しかし……」
彼女に負の側面を肩代わりしてもらうのは気が引けた。
「別に傷つけやしないって。そりゃ最終手段だ。死なれたら困るしね。ちゃんと心を揺さぶる方法を使うよ。主犯を捕まえられなかった事は残念だけど、捕らえたのが二人ってのはナイスだよ。これなら簡単だから。フレデリックさん、頼まれて欲しいのだけど」
「何でしょう?」
「捕らえてる二人を別の場所に分けてくれない? 後兵士の中で痛がる演技のうまい人いれば最高かな」
「なるほど、そういう事ですか」
「近いとバレやすいから、一定距離離れられるだけのスペースも欲しいね」
最初は訳が分からなかったけど、段々と形が見えてくる。つまりシリルがやろうとしている事は――
「……拷問を装うって事?」
「そういう事!」
明るい笑顔を振りまくシリルであったが、さらっとこういう案が出てくる事から、相当の場数を踏んでいるのをうかがわせる。本人を傷つけずに仲間を拷問する、ふりをする。何とも上手い手だ。
「方法が分かったのなら私達でも」
「いーや、私にやらせて」
それは思いの外強い口調であった。
「ぶっちゃけ私、相当キレてるんだよね。ベルナール領をめちゃくちゃにした奴らは許しては置けない」
「シリル……」
「途中で我を失うなんてヘマはしないよ。そこは弁えている。いくら国家反逆罪が死罪とは言え、私刑をしてしまうのは違うのは分かる。本音を言えば八つ裂きにしても足りないくらいだけどね。奴らの浅はかな考えで村が一つ滅んだんだ。他の儀性だって少なくない」
脳裏に妹を迎えに行った男の姿がよぎった。妹とその子は助かったが、旦那は犠牲となったという。その者は村の皆を逃がすために兵士として戦い続けたのだ。立派だったと思うが、家族からすればたまったものではないだろう。
きっとこのソレッタの町には彼らのような悲しみを抱えた人が大勢いる。
「でもこの憎しみは隠しきるよ。何せ一番殺したい相手がまだ捕まってないんだから。それまでは我慢して見せようじゃないか」
シリルは表情こそ平静そのものであったが、私はかえって怖さを感じた。その奥にはどれだけの怒りが煮えたぎっているのか。そんな彼女に任せるべきかどうか、私は判断に悩む。
「……信じていいのね?」
「ベルナールに二言はないよ」
私はシリルの瞳をじっと見つめた。ストライもそうだが、ベルナールの血族達の瞳は本当に真っ直ぐだ。きっと私達が思っている以上にシリルがベルナールの名を出した意味は重い。何かケジメと言うものが必要なのだろう。
私はアルベルトの方を向くと、彼も頷いた。
「シリル辺境伯息女、貴女に取り調べを任せる」
「……ベルナールの矜持を理解してくれてありがとう。後悔はさせないと約束する」
私はもう彼女を疑わなかった。
ここでオルフサイドの時系列とぶつかったわけですが、
全員逃げおおせたは流石にどうかと思ったのでこんな感じにしました。
オルフの覚醒はナタリア達には分からないので、凄く奇妙に映っています。
さて次回の更新ですが、ちょっと来週忙しくなるので未定とさせてください。
再来週からは余裕が出てくるはずなので、そこからは平常通りにいけるはず。
それでは今回もお読みいただきありがとうございました!