王子の婚約者である私ですが、ヒロインを全力で支援します   作:幸イテ(旧名:kouta)

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申し訳ありません。しばらく更新が空いてしまいました。
実は父が急逝し、その対応に追われておりました。

父とは仲が良かったこともあり、私自身かなりショックを受けていましたが、少しずつ前を向けるようになってきています。

まだ各種手続きは完全には終わっていませんが、少し落ち着いてきたため、ご報告も兼ねて、以前に書き上げていた分を投稿することにしました。

この次の話からはストックがなく、更新まで少しお時間をいただくかもしれません。

ですが、ここまで書いてきた物語です。必ず最後まで書き切るつもりですので、再び更新できるようになるまで、今しばらくお待ちいただければ幸いです。



第五十八話 逃亡 オルフサイド

 

 ソレッタ村から抜け出せたのは俺と、ザナック、ウィルだけだった。ハリーとエディは待ち合わせ場所に現れなかった。つまり捕まってしまった可能性が高い。

「オルフ……どうする?」

 ウィルの問いに対し、ザナックは祈るように俺を見た。本当は俺だって助けたい。だが多勢に無勢だ。手配書まで用意していたという事は国も本気で捕まえに来ている。一見、ベルナールの兵達が国から依頼を受けて俺達を追っているように見えるが、一緒に物資を届けに来た商人達もどこか怪しいと俺は思っている。

 確証はないが、しいて言うなら仕事の速さだろうか? ベルナールの兵達はスタンピートの対処に追われており、慌ただしくしていた。スタンピートが大分落ち着いてきたとはいえ、すぐに切り替えられるとは思えない。

 

 別の指示系統が紛れ込んでいる、そんな予感がした。ハリーとエディはそれによって捕まってしまったのだろう。

 

 ずっと追われてきた身だからこそ、警戒心だけは人一倍強くなった。逃げるのが上手くなってどうするのかと思っていたが、そのおかげでこの危機を乗り越えられたのだから馬鹿に出来ないものだ。

 

 俺のこれまでの経験が告げていた。助けに戻ったら全てが終わると。 

 

 この直観は無視してはならない。そう思った俺は情に流されずに冷徹に振る舞った。

「先に進もう」

「オルフ!?」

 ショックを受けたような表情のザナックに俺は諭すように言った。

「逆だザナック。俺達が逃げているからこそ二人の命は保証される。奴らは何としてでも俺達を捕まえたいからな。情報源となる二人は殺すわけには行かないはずだ」

「それは……そうかもしれないが……」

 悲しげな表情のザナックに対して、俺は心を鬼にして残酷な現実を告げる。

「もしも助けに行って俺達が捕まってみろ。その時は皆仲良く死罪だ」

「……国家反逆罪だからな」

 俺の後にウィルが続く。やはりウィルは状況が良く見えてる。ザナックも理解してしまったのだろう。その場で力なく項垂れ、絞り出すようにつぶやいた。

「『色』はそこまでのものなのか?」

 俺達の具体的な罪状は分からないままだが、きっと俺達がしようとしている事はバレていると思った方がいいだろう。俺達が革命を望んでいる事を知っているからこそここまで本気で追ってくるのだ。男爵家に色々証拠を残してきてしまったのが悔やまれる。時間はなくとも紙を暖炉に投げ入れるくらいは出来たろうに。

 

 でも、相手がここまで本気になってくれたからこそ、今の俺がいる。

 

「王国の始まりの神話がそもそも嘘だった。色の真実は全てがひっくり返るものだ。積み重ねてきた歴史の分、守ろうとする想いは強くなる」

「そんなのに立ち向かおうとしているのだから、酔狂だな俺らは」

「だろうな。たったこれだけの人数で巨大な壁をぶち壊そうとしているのだから。だが時間が経てば経つほど、壁は厚くなり続ける」

「成長を止めない化け物が相手、か。まさにファンタジーの世界だ」

 状況はただただ悪い。逃亡がうまく行くとは思っていなかったが、それでも残り少ない仲間の内、二人が捕らえられてしまった衝撃は大きい。皆が動揺するため、顔にこそ出さないが。

 しかしウィルの言うようにファンタジーの世界なら、ここからの逆転こそが見どころのはずだ。俺達が主人公なのか、ただの勘違い野郎なのか。前者か後者か、それを分けるのは今後の俺達次第だ。

 かつての俺はただいるだけの存在だった。でも今、ちゃんと物語の中にいる。一つ一つ決断をするのは苦しい。責任が生じるから。それでもその苦しみこそが俺と言う存在が生きていると教えてくれる。

 

 俺はもう一度ザナックに語りかけた。

 

 

「ザナック、進もう。ハリーとエディはきっと粘ってくれると思うが、俺達の情報がバレるのは時間の問題だと思う」

「二人が裏切るっていうのか!?」

「ザナック、いくら屈強な人間でも、自由を奪われて拷問されれば吐かざるを得ない。吐かなければ殺されてしまうから」

「オルフ、お前さっき殺されないって!」

「ああ、生きてはいるだろう。肉体的にはな。でも心が壊される」

 ザナックは絶句した。俺は教会に属していたから少しは知っている。善のイメージのある教会だが、その善を守るために払う犠牲は少なくないのだ。本当に綺麗なのは、それこそ父くらいなものだろう。

「だから俺はいっそ吐いてくれていいと思っている。時間さえ稼いでくれたならそれで十分だ。そして二人は精神が壊れるぎりぎりまで粘ってくれるだろう。ザナック、お前はその貴重な時間を無駄にするのか?」

 

 ザナックはなお葛藤しているようだが、俺は確信していた。二人を助けるために先を急ぐのだから、仲間想いのザナックが反対するわけがないと。

 

「くそ、行きゃいいんだろ! 行きゃ!!」

 

 吐き捨てるように言うザナックに俺は満足げに頷いた。

 

 

 

「まずは隣町まで行って食料も買い込もう。そこからはどこにも立ち寄らず一気に国境に向かう。俺達が逃げた事はすでに知られているだろうが、行先が分からなければ初動は遅れるはず。追いつかれる前に振り切ろう」

 幸い金はあった。その金は俺が男爵家に滞在している間に散財せずに溜めていたものだ。フローレル男爵に利用されているのは分かっていたが、それはお互い様であった。

 フローレル男爵と、俺が色を与え、その娘になりきったフラン、二人に対する国の対応を知り、秩序を守るために国はどこまでも残酷になるのか理解出来たし、計画を起こすだけの十分な資金を得る事が出来た。

 当時は時間を無駄に浪費してないか思っていたが、こうした下積みのおかげで、かろうじて道が途切れずに残っている。

 

 偉大な父が死に、俺はただ僻地にて忘れ去られる。それが嫌で必死に足掻き続けた。要領良くとはいかなかった。回り道もした。一生忘れられない失態も犯した。多くの仲間達を失った。それ以外の命も。

 

 それでもここまで来たのだ。

 

「俺は……まだやれる!」

 

 俺はそう自分を鼓舞した。

 

 

 

 

 それからの俺達はひたすら歩き続けた。相手は当然のごとく馬を使ってくるだろう。俺達も馬があれば良かったが、スタンピートという非常事態の中で馬車の手配は出来ない。下手に馬を探して時間を消費してしまっては本末転倒である。

 

 何時追いつかれてしまうか気が気でなかったが、自分の判断を信じて進み続けた。

 

 そして見事、俺達は賭けに勝った。俺達は心配していた追手に追いつかれる事もなく、無事に国境に辿り着く事が出来たのだ。

 

 ザナックが感極まった様子で俺を見た。

「オルフ……」

「ああ、ハリーとエディが稼いでくれた時間のおかげだ」

 俺はそう信じる。二人が俺達を救ってくれたのだ。

「気持ちが分かるが安心するのはまだ早いぞ」

 喜ぶ俺達を諫めたのはウィルだった。ウィルの言う通り、俺達には最後の関門がある。

 

 関所だ。

 

 ここを超えない限り俺らに明日はない。

 

 現在サイヴェリア国は隣国と敵対関係にない。手配書が届いてさえなければ一般人でも通る事は可能。俺達は別に武器などを持っていないし、国境を超えるのに引っかかりそうなものは持っていない。後は通行料だけで済むはずだ。

「よし、皆平静を装え。普通にしているだけでいい。それで国境は抜けられる」

「分かった!」

「ああ」

 どうすればいいかしっかり確認した後、俺達は関所に向かって歩き始めた。まだ油断はしていけないが、それでもどこか浮かれてしまい、自分を必死に抑える。

 

 だが俺は進んでいる内にどうにも妙な気持に囚われた。

 

 俺は今まで別の国に行った事はないし、関所も初めて見る。だがらここの普通が分からない。しかしなぜこんなにも静かなのか。壁の他に見えるのは国境を守る兵士達だけ。いくらスタンピートが起こっている最中とは言え、ここまで人がいないものなのか。

「オルフ……」

「顔に出すな。怪しまれるぞ」

 走り出したくなる気持ちを抑え、俺達は歩き続ける。関所が近づくにつれ、緊張感が増し、心臓が脈打つ。もう少し、あと少しだ。

 

 その時の事であった。

 

 ふと関所に併設してある砦から誰かが出てくるのが見えた。

 

 その圧倒的な存在感に目を奪われた。

 

 風に靡くのは黄金色の輝く髪、それに劣らぬ輝きを放つ金色の眼が俺達を射貫く。

 

 

 直後、俺の頭が何故で埋め尽くされた。鮮やかな色は貴族の証、だがベルナール卿ではない。黄金は色の中でも特別で唯一無二の色、王族だけが持つ色だ。

「そこまでだ」

 凛とした声で男は俺に言った。年代は俺と同程度だろうか? 思わずひれ伏したくなる威光を放っているが、これが王族というものなのか。その金色は作られたもののはずなのに、まるで本物かのように感じてしまう。

 しかしながらこの男はバージェス王ではない。バージェス王はまだ年を取っており、初老を迎えるくらいのはずだ。だとすれば答えは一つ。この男は……この男こそバージェス王の息子、次の王となる存在。

 

「王子アルベルト……」

 

 男は正解と言わんばかりに笑い、お返しとばかりに俺の名前を告げた。

 

「ようやく会えたなオルフ」

 

 恐怖はない。

 

 そうか、お前だったのか。俺を追い詰めていたのは……

 次の王であるお前が俺を生んでくれたのか……

 

 その証拠にアルベルトは俺の名を呼んだ。奴の目に侮りは感じられない。父の影は全く感じさせなかった。ただ俺だけを見ている。強い敵意を持って。

 

 

 そう、俺だけを……

 

 

 心が喜びで爆発しそうであった。

 

 

 




今回もお読みいただきありがとうございました。
前書きにも書いた通り、次回更新までは少しお時間をいただきそうです。
まずはしっかり気力を回復させてから、また再開したいと思います!
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