ジョジョドラ   作:夏のレモン

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18話 変わったね

 

 

 

ここ最近付き纏っていた謎の人物は、スタンドを使うネズミだった。

 

床には倒れたまま、ブツブツとうわごとを繰り返す金切レイコ。

そして、東条の手のひらの上にいる白いネズミ。

 

「君は……ネズミだったのか……」

 

「チュー」

 

その通り、と言わんばかりに頷くアルジャーノン。

 

東条は信じられないという思いで金切レイコへ視線を向ける。

 

「これを……君が?」

 

「チュッ!」

 

再度『そうだ!』と言わんばかりに胸を張るアルジャーノン。

東条はゴクリと唾を飲んだ。

 

スタンドってネズミも使えるんだ、とか

 

ネズミってこんなに頭いいの?とか

 

味方なの?とか

 

色々な疑問がよぎるけれども、それ以上に目の前の凄惨な光景に冷や汗が流れる。

 

(なんて……えげつない力だ……)

 

忘れさせる能力。

 

世界から切り離されて、誰にも認識されないというのは地獄だろう。

 

「……これ、元に戻せるのか?」

 

東条はおずおずと金切レイコを指差すと、アルジャーノンは首を傾げ、手のひらに文字を書き始めた。

 

【戻したいの?】

 

「……ああ。出来れば」

 

【戻せるよ。君が戻してって言うなら】

 

「そうか」

 

東条はほっと息を吐いた。

 

「アルジャーノン、君には聞きたいことが沢山ある。でも、その前に」

 

東条は未だ起き上がりもしない金切の側にしゃがみ込む。

敵とは言え、ようやく見つけた過去の僕に繋がる手がかりだ。なんとしても色々と聞き出しておきたい。

 

「あ……あうあ?私が、分かるの?」

 

縋るような視線でこちらを見上げる金切。それは、先程までの自信に満ちた姿とはかけ離れていた。

 

むごい

 

そんな内心を隠しつつ、東条は金切に話しかけた。

 

「あんたの存在感、元に戻してやってもいい。こちらの質問に答えてくれ。あんた、どうして僕を襲ったんだ?」

 

「……」

 

金切は少し沈黙し、ゆっくりと口を開いた。

 

「……メールで依頼、されたの」

 

「依頼?誰に?」

 

「……」

 

“誰に”

 

その質問に、金切はなかなか答えない。黙りこくって、額に脂汗を大量に浮かべている。

 

「アルジャーノン」

 

東条の合図に、アルジャーノンは東条の肩に乗って自身のスタンドを発現させる。

 

「待って!違うの!!言うっ!言うから!!」

 

金切は慌てて口を開いた。

 

「……私、最初からこんな力は持ってたわけじゃなくて、ショッピングの帰り道で弓矢で貫かれたの。そしたらこの力を手に入れてて、背後から『殺して欲しい奴がいる』って言われて……」

 

「待ってくれっ、一つずつだ!一つずつ教えてくれ」

 

唐突な新情報に、東条は慌ててストップをかけた。

 

「元々持ってたスタンドじゃない?……弓矢が、なんだって?」

 

改めて問いただす東条の視界に、一文の文字が映った。

 

【コイツに何を聞いてもムダだよ】

 

視線を向けると、アルジャーノンが東条の手をスルリと抜け出していた。

 

【どうせ何も知らない】

 

アルジャーノンは床に降りると、床に文字を刻み始めた。

 

【黄金の矢】

 

「ッ」

 

東条は思わず文字を見つめた。

 

知らない言葉だ

 

だが

 

なぜか胸がざわつく

 

【矢はスタンドの才能を目覚めさせる】

 

【君はそれを追っていた】

 

【奴が、持っているから】

 

東条の瞳が揺れる。

 

「奴……とは?」

 

東条の問いに、アルジャーノンは答えるべきか躊躇っているように見えた。

 

やがて、返答が書かれていく。

 

【君が倒せなかった男】

 

【私が知る限り最も危険な男】

 

アルジャーノンは綴る。

浮かび上がるのは、アルファベット三文字。

 

 

 

【DIO】

 

 

 

ただの文字なのに、うなじが逆立った。

 

【それが、君の敵だ】

 

 

 

……………

 

 

 

記憶を失ってから、僕が何者だったのか、なんの手がかりも得られず焦るばかりの日々だった。

 

それが、この短時間でどんどん明らかになっていった。

 

僕が追っていた敵『DIO』。

それが誰なのかは思い出せなかったが、漠然とした恐怖にじっとりとした嫌な汗が出た。

 

もっと色々聞きたい。

 

知らなきゃいけない事が山のようにある。

 

でも、その前にやらないといけないことがあった。

それは、現状何よりも切実な問題で、僕的には今日中に解決したい難題だった。

 

それは——

 

「エルマさん!待ってくださいっ!!」

 

「いやだっ——!」

 

エルマさんの誤解を解くことだ。

 

「少しだけ!少し話を聞いてくれるだけでいいんです!!」

 

「今は忙しいんだぁっ!!」

 

ああ、すごいスピードで遠ざかって行く!?

 

【嘘でしょ?今そんな事どうでも良くない?】

 

文字から呆れの感情が伝わるが、僕は至って真面目だった。

 

「どうでも良くないっ!というか君が原因なんだから、少しは協力してくれよ、アル!」

 

【断る。私の存在は君にしか知られたくない】

 

アルジャーノンを略してアルと呼ぶことは許してくれても、この偏屈なネズミは全く言うことを聞いてはくれなかった。

 

そうこうしているうちに、エルマさんを完全に見失ってしまった。

 

「ぜー……ぜー……足早いなあの人……」

 

体力を使い切って肩で息をしていると、背後から気配がした。

 

「…………東条君?何してるの?」

 

振り返ると、そこには小林さんがいた。

 

「もしかして、エルマと喧嘩してる?」

 

まだ一言も発していないのにこの察しの良さ。女神だろうか。

 

「……はい。ちょっと行き違いがありまして」

 

ひとまず、今朝の経緯について、アルについてはややこしいので省きつつ、小林さんに話をした。

 

「ふーん……」

 

話を聞き終えた小林さんは、エルマさんが消えた方向を見て何やら思いふけると、今度はこっちをじーっと見つめる。

 

「痴話喧嘩?」

 

「違います」

 

グニャリと表情を変えて、あからさまに面倒くさそうな顔になった小林さんに、思わず即答していた。

 

「いや、痴話喧嘩だよ。聞いてる限りは」

 

「違います。もっと深刻な問題なんです。助けてください、小林さん」

 

もう僕だけだと話すらしてくれない。ここは小林さんに取り持ってもらうしか……

 

「ええ〜……」

 

すごく嫌そうだ。でも、引き下がるわけにはいかない。

 

「お礼ならなんでもします!メイド服だって着ます!」

 

「嫌だよ。気持ち悪い」

 

「そこをなんとか!」

 

「なんで食い下がってくるの!?見たくないの、そんなもの!!」

 

「僕が小林さんちのメイドになります!!」

 

「怒るよ?」

 

はあ、とため息をついて、なんだかんだと言いながら小林さんは腕を組んで考えを巡らせてくれる。

 

「……分かった。話す場くらいは整えるよ」

 

「ありがとうございます!!」

 

無事、仲直り出来る目処が立って、小林さんが見えなくなるまで頭を下げ続ける。

 

ほっと一安心していると、アルが話しかけてきた。

 

【なんでそんなに必死なんだ?】

 

「なんでって……喧嘩したら仲直りしたいと思うのは当然のことだろ?」

 

【仲直りしたい?そんなに、アレが大切なの?】

 

「アレはやめろ。エルマさんだ」

 

僕がそう言うと、アルは苦い顔をした。

アルはネズミにしては感情豊かな表情をする。

 

【分かってる?今この瞬間にも次の刺客が襲ってくるかも知れないんだよ?】

 

「分かってる。だから、それも含めて一刻も早くエルマさんに共有したいんだ。それに……」

 

【それに?】

 

「エルマさんに嫌われたくない……」

 

そう答えると、アルは沈黙してしまった。

 

「どうした?」

 

【君、変わったね】

 

「?まあ、記憶はないから性格も変わると思うけど……」

 

【いいや】

 

アルは首を振って否定する。

 

【前までの仗助だったら、絶対にそんなこと言わなかった】

 

「そうなのか?」

 

そこまで断定されると、興味が湧いてくる。

 

「なら、教えてくれ。前の僕はどんな奴だったんだ?」

 

すると、アルは少し考えこんで、やがて文章を書き始めた。

 

【私が君と出会ったのは、ほんの半年ほど前なんだ。人間からしたらあっという間の時間さ】

 

【それでも分かる。君はとてつもなく強かった】

 

【スピード、パワー、テクニック、あらゆる面で君以上のスタンド使いはいなかった。初見殺しなスタンドのルールだって、一瞬で見抜いて裏をかいてたし、何より何があっても動じない勇気があった】

 

……そんなに強かったの?

 

正直、アルの話は信じられなかった。

なにせ、今の自分はまともにスタンドを出すことすら出来ないのだ。

 

それとも、いつか記憶が戻れば自由自在に操れるのだろうか。

 

【そして、いつも怒っていたよ】

 

その言葉に、僕は『ん?』と首を傾げた。

 

「怒ってた?なぜ?」

 

【色々さ。悪事を働くスタンド使い達に、見つけ出せない敵に、とかね】

 

「なるほど……」

 

まあ、確かに金切に対して僕は怒っていたし、気持ちは分かる。

 

【君はいつも襲われていた。身体、傷だらけだっただろう?】

 

確かに、自分のことながら引くほどに傷が出来ていた。

 

【不思議な事にね、君に味方するスタンド使いは、一人も現れなかったんだ。だから、スタンド使いは全員敵だと思った方がいいよ】

 

「え?でも、君は協力してくれてたんだろう?」

 

【まあね。でも、私も君がいなかったら人間に復讐して回ってたと思うよ】

 

怖すぎる。

 

【とにかく、私が知ってる君は、歴戦練磨で無敗のスタンド使いだった】

 

「ふむ……」

 

ざっくりと過去の僕について聞いたが、

 

 

僕、やばすぎないか?

 

 

もうイメージがスーパーマンで固まってしまったんだが。

いや、ポテンシャル自体はあるのか。今後の鍛え方次第で、そうなる可能性があるってことだ。

 

「……どうやったら戻れるんだろう」

 

ポツリと呟くと、アルは尋ねてくる。

 

【戻りたいの?】

 

アルはまるでこちらの真意を確かめるように、確認してくる。

でも、これなついてはハッキリと答える事が出来た。

 

「戻りたいよ。戻らないといけない」

 

僕が追っていた奴らが、何を企んでいるのかは知らない。でも

 

「スタンド使いは法では裁けない。なら——」

 

せめて、日常を生きる人達に理不尽が降りかからないように。

 

「僕が裁く」

 

 

 

 

 

 

 

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