ジョジョドラ   作:夏のレモン

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9話 アンジェロ

 

 

安藤滋郎。

通称、アンジェロ。

 

1967年生まれ、乙女座。

39歳、独身。

 

平凡な一家に生まれた、

三人兄弟の次男である。

 

長男は頭が良く、難関国立大学に入学し、卒業後は大手企業に就職。

3年前に美人な嫁をもらい結婚した。

 

末っ子は勉強は得意ではなかったが、活発な性格で運動神経に恵まれていた。

高校、大学とスポーツ推薦で進学し、卒業後はサッカー日本代表のポジションすら確約されていた。

 

そんな兄弟に対して、アンジェロだけが何も持っていなかった。

 

幼少期から、アンジェロは兄弟の存在そのものが気に入らなかった。

 

こいつらさえいなければ、僕が一番凄いのに。

 

常日頃からそんな事を思って生活していた。

 

そして学校に入学すると、現実は更に重くアンジェロにのしかかかった。

 

自分より遥かに出来る人間。それを更に上回る兄弟達。

 

比較され、バカにされ、嘲られる。

 

周囲の全てが敵だ。

 

アンジェロは次第に学校に行かなくなった。

順調に人生を積み上げていく兄弟達と反対に、

アンジェロは部屋に閉じ籠り両親の財産を浪費し続けた。

 

そして、兄弟たちの人生が

それぞれ幸福の頂点へと到達した、その直後――

 

アンジェロは、全てを壊した。

 

それは衝動というほど突発的なものではなく、

計画というほど、整然としたものでもない。

 

ただ、昔から思い描いていた夢を叶えた。

 

アンジェロは決して兄弟達に蔑まれていたわけでも、痛ぶられていた訳でもない。

むしろ、兄と弟はアンジェロを助けたいと思っていた。

 

だが、それがアンジェロのプライドを刺激し、劣等感と憎悪を育て続けた。

 

助けようとする言葉も、

信じ続けようとする視線も、

すべてが癪に障った。

 

だから――終わらせた。

 

バラバラとなった妻の死体を前にして、兄は怒り狂った。

それでも、無様に泣くことしか出来ない兄を前にして、アンジェロは初めて、自分が“上”にいると実感した。

 

末っ子は最後まで兄を信じていた。

本来の兄はこんな事をする人じゃない。一緒に病院へ行こう、と。

だが、アンジェロは、もはや聞く耳を持たなかった。

 

他人を見下せる、唯一の瞬間。

末っ子の命乞いを聞きながら、アンジェロは幸せの絶頂にいた。

 

アンジェロはハマってしまったのだ。

 

その後も数々の殺人を遂げたアンジェロはほどなくして逮捕された。

それらは日本史上でも最悪な部類に数えられる事件として、その名を刻むことになる。

 

 

…………

 

 

アンジェロは、確信していた。

自分は、もうかつての自分ではない。

 

この力を得た瞬間から、

世界の立ち位置は変わった。

 

誰にも触れられず、

誰にも傷つけられない。

 

その事実が、彼に余裕を持たせていた。

 

『ははははっ!!

のこのこ入って来やがった!!』

 

無言のまま路地に入って来たトールを見て、アンジェロは更に笑った。

 

煽った直後はあまりの迫力に気圧されたものの、圧倒的な優位であるのは変わらない。

 

(こいつバカだ)

 

アンジェロは内心でほくそ笑み、

トールの目の前にスタンドを出現させる。

 

スタンド名『ファニー・ヒル』

 

漆黒のボディにシャープなスタイル。

その顔は笑っているようにも、泣いているにも見えるピエロのような姿だった。

 

その身体には、場違いなほどひらひらとした装飾が施されていた。

 

『死ねやっ!!』

 

鈍い音。

ファニー・ヒルがトールの顔面を殴り飛ばす。

 

『ほらほらほらっ!!!』

 

続け様に背後から、何発もの蹴りを見舞う。

 

その間、トールは無抵抗だった。

 

『ひひっ、あんた、見えてないんだろ?』

 

見えないのをいいことに、アンジェロのスタンドはトールの前で、余裕たっぷりに腰に手を当ててポーズを決めていた。

 

『見えねえと怖いよなぁ?

不条理だよなあ、分かるよ。

でも、お前が悪いんだぜ?

何もできない、無能なお前がさあっ』

 

そう言うと、アンジェロはトールに無数のラッシュを浴びせた。

 

『ほらほらほら!!最高だっ!!

小さい頃を思い出すぜ!!

アリを捕まえて足を全部引っこ抜いて遊んだあの頃をよお!!』

 

アンジェロは高らかに笑った。

 

『サイッコーの気分だぜえ!!俺は無敵だあ!!』

 

何も出来ず殴られるだけのトールを前にして、有頂天になるアンジェロ。

 

その時

 

 

ボッ――

 

 

空気がくり抜かれるような音。

 

『は?』

 

遅れて、爆風が路地に吹き荒れる。

 

トールの拳が、ファニー・ヒルのどてっぱらを貫いていた。

 

『う、うぉおおおお!?!?』

 

アンジェロは慌ててファニー・ヒルを退かせた。

 

スタンドはスタンドでしか触れない。

世界のルールがそう定めている。

 

だが、ダメージがないとは言え、目で捉えきれない速度で拳が腹部を貫通したのだ。恐怖しないほうがどうかしている。

 

(し、死んでた……?今のを食らったら俺死んでた……??)

 

そしてその恐怖は、アンジェロに死を想起させるに至った。

 

『はぁ……はぁ……はぁ……』

 

アンジェロの呼吸が荒くなる。

一撃すら喰らっていない、圧倒的な優位の立場にあるにも関わらず、ドラゴンと人の種族的な壁を体感させられていた。

 

『“あの御方”はこんな事教えてくれなかった……

こんなに怖いなんて聞いてないぞっ……!?』

 

アンジェロの動揺を描写するように、ファニー・ヒルが壁を、置かれていたゴミ箱を、無作為に攻撃しだした。

 

『や、やめろファニー!!

くそ、落ち着けっ!!』

 

慌ててスタンドの制御に集中するアンジェロ。

 

暴れるファニー・ヒルの目の前に、トールが立った。

影が差し、人外沁みた眼光がファニー・ヒルを見つめる。

 

『ひぃっ……!!』

 

その恐ろしさに、アンジェロは思わず情けない声をあげていた。

重々しく、トールが口を開いた。

 

「コロス」

 

高熱を発するトール。足元のコンクリはすでに溶けてドロドロだった。

トールは再び拳を振り上げた。

 

アンジェロは思わず震えた声で告げた。

 

『待て!やめろ!!

テメェの友達の命がどうなってもいいのか?!』

 

その言葉に、トールはピタリと手を止めた。

 

しめたとばかりに、アンジェロは続ける。

 

『エルマ、カンナ、イルル!!

コイツらの魂は俺が預かってるんだぜ!?

殺すも生かすも俺次第だ!」

 

場に沈黙が落ちる。

完全に膠着状態だった。

 

打つ手がなく、沈黙が続くなか、路地の入り口に立っていた小林が手を挙げた。

 

「一回、話をしようか」

 

『は……?』

 

「小林さん……♪」

 

小林が口を挟むと同時に、先程までと打って変わって、トールの声色が変わる。

 

「さっきの口ぶりからして、トールがドラゴンってこともバレてるんでしょ?で、エルマ、イルル、カンナちゃんと襲った。あなたの目的はなに?」

 

淡々と話す小林に、アンジェロは困惑していた。

 

(なんだコイツ……急に割って入ってきて場を仕切ろうとしてんのか?)

 

そう考えた瞬間、アンジェロの中で恐怖よりも苛立ちの感情が勝っていく。

 

『なんだテメェ……なんでそんな事言わなきゃいけねえんだよ!』

 

「あなたが何をしようと勝手だけど、こっちはそれで迷惑を被ってるの。

目的くらい聞く権利あるんじゃない?」

 

小林は理路整然と、筋を説く。

一つ言っておくべきなのは、小林が口を出すタイミングとして、決して間違っていないということだ。

 

状況は膠着状態であり、アンジェロは恐怖のあまり、まともな思考が出来ていない。

 

これまで小林は数々のドラゴンを相手に対話で向き合って来た経験もあることから、話しをすることで突破口になるかもしれないと判断した。

 

だが、忘れてはいけないのは、それは相手が正常な思考をする存在に限るということだ。

 

これまで話が出来たドラゴン達は圧倒的な強者であるが故の余裕もあったため、小林の話に耳を傾けるだけの器と思慮深さがあったのだ。

 

世間からあぶれ、捻れた精神を持つ異常者に、それは当てはまらないのだ。

 

(……まるで、アニキみたいな奴だ)

 

アンジェロは小林の姿に、生前の兄を重ねていた。

アンジェロが癇癪を起こすと、いつも兄が駆けつけてきて、理屈を並べて宥めようとしてきた。

 

それが、アンジェロは死ぬほど嫌いだった。

 

(ぷっつん、きちまった)

 

アンジェロに、もう恐怖心はない。あるのは煮えたぎる憎悪。

 

(俺に言うこと聞かせようとする奴はコロス。調子に乗ってる奴はコロス。兄貴は殺した。弟も殺した。両親も殺した。俺に舐めた態度をした奴は、この世に生まれたことを後悔しながら死んだ)

 

 

――お前も、なぶり殺してやる

 

 

アンジェロは下卑た笑みを浮かべた。

 

『……いいぜ、そんなに知りたきゃ教えてやるよ』

 

突然のアンジェロの豹変に、トールも小林もキョトンとした顔になる。

 

『一旦休戦だ。あんたらは俺に触れないし、俺の攻撃はコイツに効かない。お互い、もう話し合いしかない、そうだろ?』

 

アンジェロは話をしながらも、自身のスタンドを小林がいる路地の出入り口まで移動させる。

 

(このメイドには通用しなかったが、ファニー・ヒルはこれまで大勢の魂を吸い上げてきたことで、パワーが桁違いに跳ね上がっている。

だから――こんなことも出来るッ!!)

 

ファニー・ヒルが足を振り上げ、地面を思い切り踏みつけた

 

 

ドオンッ!!!

 

 

凄まじい音と共に、地面が押し潰されたように陥没し、隆起する。

それはさながら波のように、小林の足元まで歪ませた。

 

「うわっ!?!?」

 

小林は反射的にバランスを取ろうと、足を一歩踏み出してしまった。

 

路地に足が入る。

 

「しまっ……!!」

 

小林は慌てて足を引っ込めようとした。

 

『もう遅い!!すでに射程圏内だッ!!』

 

ファニー・ヒルが踏み入れている足を掴む。

足を力強く握られ、小林は苦悶の表情を浮かべた。

 

「ぐうっ!?」

 

「小林さん!!」

 

トールが足を掴む手を引き剥がそうとするも、触る事が出来ない。

 

『馬鹿めっ!!

スタンドはスタンドでしか触れないっ!!死ねえっ!!!』

 

ファニー・ヒルは小林を掴み上げ、壁に叩きつけた。

 

「っ!!小林さぁああんっ!!!」

 

間一髪、トールは小林と壁の間に滑りこんだ。

全身の筋肉と魔法を駆使して、小林にかかる負荷を最小限にまで抑え込みキャッチする。

 

トールは慌てた様子で小林を覗き込んだ。

 

「小林さんっ!!怪我はありませんか!?」

 

「び、ビックリした……ありがとう、トール」

 

小林は無傷だった。

だが、すでにアンジェロの目的は果たされていた。

 

トールの背中が、壁に触れている。

触れている箇所には、例の隙間があった。

 

次の瞬間、トールの肉体から魂が浮かび上がっていく。

 

「………これ、は……!?」

 

未知の感覚に驚愕するトール。

 

『バカがっ!!その隙間に触れると魂が肉体から離れるのさあ!!

俺の狙いは最初からこれだあ!!』

 

アンジェロは狂ったように笑った。

 

『お前を始末してから、そこのブス眼鏡を殺す!!

ただ楽には死なせねえぞ!!

俺を舐めた罰として、地獄を味わってもらうからなぁ!!

ひゃあはははははははははっ!!!』

 

トールは震える手を小林に向け、精一杯声を振り絞る。

 

「……小林さん……逃げて……!!」

 

「トールッッ!!!」

 

同じく手を伸ばす小林。

だが、すでに魂の状態となったトールに魔の手が迫る。

 

『ひひっ!!ヒヒヒヒッ!!勝った!!』

 

ファニー・ヒルの指が、

確かに――トールの魂を掴んだ。

 

次の瞬間。

 

ファニー・ヒルの手が弾かれる。

 

『……あ?』

 

アンジェロが違和感を覚えた、その刹那。

 

 

ドゴォッ!!

 

 

轟音と共に、ファニー・ヒルの身体が真横から吹き飛ばされる。

 

壁を砕き、地面を抉りながら宙を舞う。

 

『ガッ――!?』

 

初めて、ダメージがアンジェロに入った。

 

『カ、ア………カヒュッ……!

な、何が――!?』

 

必死に酸素を取り込みながら、アンジェロは理解が追いつかなかった。

 

見えないはずだ。

触れられないはずだ。

自分は――最強のはずだ。

 

「いいや」

 

静かな声が、頭上から降ってくる。

 

「お前の負けだ。アンジェロ」

 

東条仗助が、姿を現した。

 

 

 

 







スタンド名: ファニー・ヒル
姿形: 黒とグレーが混ざった色のレースを纏ったピエロ。その表情は泣き顔でもあり、笑顔でもある。
所有者:安藤滋郎、通称アンジェロ

破壊力 C
スピード C
成長性 D
持続力 B
射程距離 C
精密動作性 B

能力: あらゆる物体の隙間に潜り込む。


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