黄色い魔法少女
******************************
―――魔法少女。
たった一つの奇跡と引き換えに、この世の呪いと戦う使命を背負った少女達を、あたし達はそう呼ぶ。
そうしてあたしは今日も人知れず、魔女と戦い続けている
あたしが今戦っているのは、牛のような形をした魔女。
こいつは、あたしが魔法少女になってから初めて戦った奴だ。
自分のテリトリーで逃げられたもんだから、落とし前つけにわざわざ隣町にまで来たんだけど...
「ったた...相変わらずなんて馬鹿力なやつ!」
あの時もそうだった。
あいつの斧での力任せの攻撃には手を焼いた。
悔しいが、力ではあいつに分があるようだ。
「だけど、今回はいつぞやの二の舞にはならないよ!」
そうだ。あの時はこの魔法を使えなかったが、今は違う。
この幻惑の魔法があれば、こいつとも戦える筈だ。
あたしとあたしの幻影。各々槍を構え、二人で魔女へ突撃していく。
そのうち片方が魔女へ跳びかかる。
あいつは、それを斧であっさりと切り裂いた。
でも
「残念!そっちはニセモノさ!」
今度は、隙だらけになった魔女を真っ二つに切り裂いてやった。
魔女の姿は消え失せ、持っていた斧がカランと音を立てて地面に落ちた。
「よしっ、やっとリベンジ果たせた!」
「杏子、まだだ!」
「えっ?わっ!?」
喜んだのもつかの間、突如纏わりついたもやに、あたしの身体の自由は奪われた。
(こ、これはマズイ...!)
あたしの嫌な予感は、魔女の姿が復元されると共に確信へと変わった。
魔女が、あたしを切り裂かんと斧を振り上げる。
(―――――!)
迫りくる死の予感に、あたしは目を瞑ってしまった。
そんな時だった。
「なるほど...幻惑の魔法、面白い力だわ」
声がした。
恐る恐る目を開けてみると、魔女の斧に黄色のリボンが巻きつき、あたしへの攻撃を防いでいた。
「だけど、魔女の方も同じ能力だったのはついていなかったわね」
リボンを操っているその人は、巨大な拳銃を召還し、あたしに銃口を向けた。
「ちょっ」
「ティロ・フィナーレ!」
その巨大な銃から放たれた砲弾は、あたしの顔の真横を通り過ぎていった。
「な、なにすんだよ!?」
「ごめんなさいね。ちょっと荒っぽいやり方で」
「謝るくらいなら最初から...あれ?」
きがつけば、あたしに纏わりついていたもやは綺麗さっぱり消えていた。
どうやら、彼女の砲撃で消しさられたようだった。
「間に合ってよかったわ。大丈夫?」
いつの間にか尻もちをついていたあたしに、その人は微笑みながら手を差し伸べてくれた。
ちょっと戸惑いながらもあたしは彼女の手を握り返し、照れくささに頬を掻きながら礼を言う。
「そ、その...助かったよ。あんたは...?」
「挨拶は後よ。今は魔女を倒さなくちゃ」
そう言う彼女の眼光は、とても鋭かった。年齢はあたしとさほど変わらない筈なのに、なんていうか、本当の『ベテラン』ってやつを感じた気がした。
そしてそれは気のせいなんかじゃなくて
「あの魔女、本体はおそらく斧の方ね」
「え?」
「だから身体の方を倒しても復活してしまうみたい」
この魔女と戦うのが二回目のあたしですらそんなこと思いつきもしなかったのに、この人は初見で、しかもたった数回のやり取りで見抜いていた。
「私は魔女の身体と使い魔を一掃するわ。その隙にあなたは本体を破壊してくれる?」
「...わかった!」
あの人の戦いは凄かった。
ベレー帽を空に投げると、その中から振ってくる大量のマスケット銃。
それを撃っては持ち替え撃っては持ち替えて、次々に使い魔を消し去っていく。
残り一体だけとなった魔女が斧を彼女に振り下ろそうとするがもう遅い。マスケット銃を大砲に変え、砲弾は魔女に放たれ、その姿は消し去られていた。
そして、それを合図にあたしは斧へ向かって駆け出した。
「はあああぁぁ!!」
あたしの槍が斧に突き刺さる。耐え切れなかった斧は、音を立てて粉々に砕け散った。
「や...やった!」
「お見事ね!」
あたしは純粋に喜んだ。
やっとリベンジを果たせたことを。初めて他の魔法少女と共に戦ったことを。こんな凄い人と共に戦えたことを。
彼女の名前は、巴マミ。
この町へ来た理由を話したあたしは、何故だか彼女の家に招待された。
で、お近づきの印にとお菓子を振舞ってもらうことになって、その待機中。
鼻孔をくすぐる甘い匂いにあたしは思わず口元が緩んでしまう。
「...涎、出てるわよ」
テーブルに置かれた、彼女手作りのピーチパイと紅茶。
食べてみると、これがまたウマイ。職人顔負けのウマさだった。
「まだまだあるから遠慮しないでね。一人じゃ食べきれないから」
「いいの!?」
がっつくように、テーブルから身を乗り出してしまったあたし。マミさんは、そんなあたしの様子をニコニコと笑顔で見つめている。
そんな自分の姿を省みて、ちょっぴり恥ずかしくなった。
「助けて貰ったうえにケーキまでご馳走になっちゃって、なんだか図々しいよね、あたしって」
「招待したのはこっちなんだし気にしないで。私も魔法少女の子と一緒にお茶できてうれしいもの」
「ならいいんだけど...」
そういえば、あたしと会ってからのマミさんはずっと笑顔だ。
あたしたち魔法少女は、毎日が戦いだ。無論、一般人を巻き込むわけにもいかないし、魔法少女同士だったら、グリーフシードの小競り合いばかり。
それを踏まえれば、嬉しくなってしまうのも当然かもしれない。
「でも...あたしのほうこそ、今日マミさんと会えてよかったな」
「えっ?」
「あたし、魔法少女としてはまだ半人前だからさ、お茶しながら色んな話聞かせて貰って勉強になったよ。何も考えずに闇雲に戦ってたあたしと比べて、マミさんはこれまでの魔女との戦いを自己分析してノートに纏めたり、魔法の使い方を研究したり...その上、戦いに必要な心構えもしっかり持ってて、実戦においても強くて頼りになる。こんな凄い魔法少女が隣町にいたなんてあたし驚いたんだ」
「そ、そんなことないわよ」
マミさんの頬がほんのりと紅く染まったのを見てなんだか一気に親近感が湧いた。意外に照れ屋さんなのかな。
まあ、それはおいておいて本題はこっちだ。
「だから...その、マミさん。お願いっていうか、図々しいついでっていうのもなんだけど...あたしを、マミさんの弟子にしてもらえないかな?」
――――これが、あたしと彼女の出会い。
あたしが憧れていた、彼女との出会い。
※本作は『魔法少女まどか☆マギカ the different story』の設定・関係性を一部参考にした二次創作です。