最後に残った道しるべ   作:ジジイキャベツ

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またあした

どこ...?

 

ここは、どこ...?

 

真っ暗...

 

私は死んだのかな...?

 

暖かい...

 

生きてる...

 

私はまだ生きている...!?

 

 

 

 

目が覚める。

 

そこには、見慣れた天井。見慣れた布団。見慣れた時計。

 

(私...なんで...?)

 

今度こそ、死んだと思ったのに。

 

「目、覚めたか?」

 

そして、ここへと運んだと思しき人は、ここにいるはずのない彼女で。

 

「さ、佐倉さん...?」

 

思わず目を瞬かせる私に構わず、佐倉さんは沸かした白湯を渡してくれた。

 

「悪いね、勝手に上がらせて貰ったよ」

「あなた、なんで...」

 

なぜ彼女が私を気遣うようなことをするのかがわからない。

私は佐倉さんの家族を傷つけ父親を殺した。

それが佐倉さんにとっての真実のはずなのに。

 

「...母さんから聞いたよ。母さんとモモを傷付けたのはあんたじゃないって」

「...!」

 

よくよく考えてみればそうだった。

私が撃った場面を直接目撃していなくても、それ以前に殺されかけていたのは彼女たち本人なのだから隠しようがないことだ。

 

「よく考えればおかしな話だったよ。あたしのソウルジェムもあまり濁ってなかったしさ。どうせ、こっそり病院に忍び込んで浄化してたんだろ?悪役ぶりたいなら徹底的にやるべきだったね。...ま、それができるならあたしはあんたの弟子にもならなかっただろうけど」

 

徹底的に、と言われても、あれ以上二人を傷つけることなんてできやしなかったし、あらかじめこう伝えて欲しいなどと打ち合わせする暇もなかった。

騙し通すのは最初から無理だったという訳だ。

 

「...でも、あなたのお父さんを殺したのは事実だわ」

 

そう。佐倉さんのお父さんを撃ったことだけは間違いなく事実。これを弁明するつもりなどないし、私を恨むことで佐倉さんが救われるならそうあってほしい。

 

「...ああ、そいつだけは許せない。どんな状況だったとしても、あたしはアンタを許さない」

「......」

 

佐倉さんの刺すような視線が痛い。でもこれでいい。むしろ彼女の幸せを壊してしまった私には生ぬるいくらいだろう。

 

「けどな」

 

言葉を区切った途端、佐倉さんから感じていた視線の刺々しさが瞬く間に消えた。

 

「あんたは、モモと母さんを助けてくれた。そいつもまた事実だろ」

「え...?」

「あたしさ、今までみんなに甘えてたんだ。誰も悪くないと慰めてくれる母さんに、こんなあたしでも信じてくれるモモに、力になろうとしてくれるあんたに。

でも、そのせいであたしは父さんをあんたに背負わせちまった。本当なら、ふんじばってでもあたしがなんとかしなくちゃいけなかったのにな」

「......」

「だから...さ...」

 

それまで強気だった彼女の肩が震えだし、語気も弱弱しくなっていく。

 

「頼む...これ以上、あたしの大切な人を奪わないでくれ...勝手に背負いこんで、勝手に死のうとしないでよ...」

 

佐倉さんが縋りつくように私の胸に顔を埋めると、身体を通じて彼女の震えが伝わってくる。

 

佐倉さんの大切な人。

それは彼女の家族であり、そして...

 

「...私、あなたのお父さんを殺したのよ?」

「...わかってる」

「あなたの祈りも、一番大切なものも全て奪ったのよ?それでも、あなたは私を大切な人と呼んでくれるの?」

「当たり前だ!」

 

佐倉さんの叫びと共に、私の頬を温かいものが伝う。

今の私に、それを止めることなんてできやしなかった。

 

 

 

 

「...ごめんなさい」

 

そうだ。最初から、私たちはこうしていればよかったんだ。

 

「...許さない」

 

見栄を張らずに、素直に感情をぶつけあって。

 

「...ごめんなさい」

 

「...違う」

 

「...ありがとう」

 

見せかけの嘘なんて、いらなかったんだ。

 

そうして、しばらくの間、わんわんと二人分のみっともない泣き声が小さな部屋の中で響き渡るのだった。

 

それからどれくらい経っただろう。

泣きつかれた私たちはようやく落ち着いて、真っ赤に晴れ上がった目を見てお互いに「ひどい顔」とけらけら笑いあって。

ほんの少し前まで当たり前だったそれが、なんだか凄く懐かしいものになったと感慨にふけってしまった。

 

 

「...ねえ、マミさん。あたしさ、しばらくあんたから離れようかと思ってるんだ」

 

そろそろ母さんたちが心配するから、と帰ろうとした佐倉さんは唐突にそう切り出した。

 

「え...?」

 

どうして、と私が聞く前に彼女は強い決意を宿した目で口を開く。

 

「やっぱりさ、このままだとどうしてもマミさんに頼りっきりになっちゃうと思うんだ。だから、あたしはもっと強くなりたい。

護られるばかりのあたしじゃなくて、護れるあたしになりたいんだ」

 

だから、と言葉を切ると、彼女は拳を突き出しニカリと笑みを浮かべた。

 

「マミさん。今度組むときは、弟子じゃなくて相棒だ」

 

私は思わず唇を噛み締めた。

悔しいとか悲しいとか、そんな感情じゃない。

佐倉さんが私を対等に見てくれることがこの上なく嬉しかったんだ。

 

「...わかった。けど、絶対に無茶だけはしないでね」

「わかってるよ。どうしようもなくなった時は、絶対に今回みたいに隠したりなんかしない。マミさんこそ、また魔法が使えなくなるまで自分を追い込まないでよ」

「もちろんよ。あなたに貰ったこの命、罪を償うまで決して無駄になんてしない」

 

突き出された拳に、私も握った拳をコツンと当てる。

 

「...またね、マミさん」

「またね、佐倉さん」

 

 

 

『それじゃまたね』って手を振って、無理に笑って寂しくなって...

 

でも、これは決別なんかじゃない。

 

これは、私たちが強くなるための約束。

 

もう誰も失わないために、誰にも背負わせないために必要な誓いだ。

 

私たちはそう思っていた。

 

そう、思っていたんだ。

 

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