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静寂に包まれた教会の中、杏子の母は夕食の準備を、モモは教会中の片付けに奔走していた。
「お姉ちゃん、マミお姉ちゃんと仲直りできたかなぁ?」
「大丈夫よ。杏子は、マミさんのことが大好きだもの」
「...うん、そうだよね。私もマミお姉ちゃんが大好きだもん」
(...ごめんなさい、あなた、杏子。『いつかは元通りになれる』なんて無責任なことを言って、ロクに言い返すこともしなかったから、こんなことになってしまった...ごめんなさい、マミさん。あなたにはとても辛いものを背負わせてしまった...)
「お母さん、泣いてるの?」
心配そうに顔を覗き込むモモを見た途端、ため込んでいたものが溢れ出したかのように、思わずモモを抱きしめる。
「ごめんね...ごめんねぇ...」
「お母さん...」
まだ幼いモモにはなぜ母が泣いているのかもわからないし、なぜ父がいなくなったのかもわからない。
マミと杏子がなんで喧嘩したのかもわかっていない。
ただ、みんがみんな悲しんでいたのはなんとなくわかっていた。
だったら、皆が泣き止めばきっと前のように楽しく過ごせるしお父さんも喜んでくれるはずだ。
モモは、自分が泣いていた時にいつもしてもらったように、母の頭をよしよしと撫でる。
ギィ、と教会の扉が開いた。
「悔やんでいるのですか?」
「え...?」
その声を皮切りに、ぞろぞろと人影が集っていく。
「ならば、すぐに懺悔しにいきましょう」「そう、いますぐ彼に懺悔をしましょう」「そう」
「我らの教祖様に!」
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「...強くなってやる」
マミさんの家からの帰り道、言葉に出してもう一度決意する。
「もう、母さんにも、モモにも、マミさんにも失くさせなんかしない。押し付けたりなんかしない」
今まで散々助けられてきたんだ。だから、今度はあたしの番なんだ。
「あたしが、みんなを助けるんだ」
あたしの戦いは、これからだ!
そんなあたしの決意は、唐突にあっけなくへし折られた。
「な、なんだ...!?」
もうもうと立ち昇る煙。
方角は、あたしの教会。
(まさか、火事...!?)
ふと、父さんに魔法少女のことがバレた日のことを思い出す。
あの日、信者たちは教本を燃やして火事を起こそうとしていた。
もしあたしの予想通りなら...!
「母さん、モモ!」
急いで、ただひたすらに急いで木々の間を駆け抜ける。
服が枝に引っかかり、時折皮膚を裂いていくが、気にしている暇はない。
そうして教会に着いた先、あたしを待っていたのは―――
「やっときた」
「やっときた」「魔女だ」
かつて父さんの言葉を信じさせられた彼らと目があう。
「魔女だ」
彼らの生気を失った目が、あたしを睨みつける。
「ついに見つけた」
この時、あたしは逃げるべきだったのだろうか。
「殺せ」
それとも、殺されることは承知の上で、父さんを壊した罰を受け入れ、彼らにこの身を引き渡すべきだったのだろうか。
「教祖様を殺した魔女だ」
なにが正しかったかなんてわからない。
「魔女は殺せ」「魔女は殺すんだ」
だが、あたしは自分を止めることなんてできなかった。
「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」
燃えさかる教会を背景に、打ち捨てられたそれと目が合った時、あたしは
「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」
ア タ シ ハ...
「......」
気が付いた時には、辺り一面は真赤になっていた。
だいぶ暴れたためか、教会の火も消え去っていた。
信者たちの腕が、脚が、臓物が。教会中に散らばって、メチャクチャに転がっている。
「...母さん、モモ」
既にこと切れている二人の首を探し出し、抱きしめた。
「......」
魔女の気配は感じられない。
信者たちは魔女に操られていたわけでもなかった。
信仰対象である父さんを殺した元凶があたし達だと判断し、皆で敵討ちにでもきたのだろう。
「...ハハッ」
笑えてくる。
人間に害を為す魔女を倒す魔法少女が、自分の願いで集めた可哀想な一般人を殺したんだ。
家族も大勢の人も、あたしがみんな不幸にしたんだ
なんてことはない。父さんの言ってたことは正しかったんだ。
「クッ...ハハハハハ...!」
...いや、魔女の方がマシだろうなぁ。
魔女だってグリーフシードを落とせば魔法少女が喜ぶ。
あたしは違う。あたしがなにをしようが喜ぶヤツなんていない。
あたしがいなくても困るやつなんていない。
父さんにも母さんにもモモだけがいればよかったんだ。
そうすればこんなことにはならなかった。誰も不幸にはならなかったんだ。
「アハハハハハハハ!!」
あたしは魔女でも魔法少女でも、ましてや人間でもない。
存在することすら間違っていた、クズなんだ。
―――パリン、とあたしの何かが割れたようの音がした。
回想録⑤
「ねえ、『人喰い教会』のウワサって知ってる?」
「なにそれ?」
「ちょっと前に、隣街の外れの教会で変わった教祖様がいてね。その人の演説はとても素晴らしくて聞いた人はみんな虜になっちゃうらしいの。でも、その教祖様は強盗に殺されちゃって...でね、それ以来、教祖様の怨念で、その教会に入った人は誰も帰ってこれないんだとか...」
「他にも色々とウワサの種類があってね。たまたま入る前に引き返した人の話らしいけど、帰ってこれないのは、教祖様じゃなくて教会に住み着いている魔女のせいとか、もっと怖い大きな化け物の仕業とか...」
「な、なんだか怖いね...」
「あなたたち」
「あっ、巴さん。おはよー」
「さっきの話、詳しく聞かせてくれるかしら」
「なになに?巴さんもオカルト系に興味あるの?」
「...ちょっとね」