魔女の脇を通り抜け、私は彼女たちのもとへと駆け寄る。
不思議なことに、魔女は無防備な私に槍を突き立てはしなかった。
「しっかりして、佐倉さん!目を覚まして」
思い切り肩を掴み、名前を呼び続けるが、彼女は反応しない。
がくがくと何度揺らしても反応はかえってこない。
当然だ。私が触れているそれはもう死体なのだから。
「佐倉...さん...」
よく見れば、彼女の家族たちもそうだ。
佐倉さんのお母さんとモモちゃんは、首元に一文字の大きな傷が走っている。他の部分も全身継ぎ接ぎだらけで、まるで壊れたヌイグルミを繋ぎ合わせたかのようだった。
神父の人に至っては使い魔だ。佐倉さんのお父さん本人ですらない。
「なんで...なんでこんな...」
夢だと思いたい。また共に戦おうと誓い合った彼女が、彼女が守ろうとした家族が、こんな目にあっているわけがない。
だが、彼女たちの冷たさが、乾ききった瞳が、これは現実だと突きつける。
「...許さない!」
振り向き様に銃を放つが、魔女の姿は掻き消えてしまう。
(そこっ!)
ヒュッ、という風を切る音がするのとほぼ同時に背後に弾丸を放つ。
が、手応えは無し。横合いから、馬の強力な蹴りを浴びせられる。
ぐっ、と思わず鈍い声が漏れかける。
骨が折れたような激しい痛みだが、なんとかまだ動ける程度なのは幸いだ。
体勢を立て直すと、そこにいるのは3体の魔女の姿。
複数の幻影...佐倉さんと似た能力のようだ。
魔女たちが、私の周りをぐるりと囲む。
左右の魔女に銃をつきつけ、正面の魔女と睨み合う。
訪れる沈黙。
やがて、耐え切れなくなったのか、正面の魔女が動き出す。と、同時に左右の魔女も跳びかかってくる。
だが、引き金はまだ引かない。
魔女の槍が私を貫くまであと2メートル。まだよ
あと1メートル。まだまだ...
あと50センチ。もう少し
あと5センチ。いまだっ!
両手のマスケット銃を空中へと投げ、空いた両手で正面からの槍をいなす。
隙が出来た魔女の胸部へと蹴りを放ち、そのまま足場にして宙の銃の元へと跳躍する。
そして、掴んだ銃で、2体の魔女を同時に撃ちぬいた。
だが、撃ちぬいた魔女は幻影で、霧が再び魔女の姿を形成する。
「―――!」
腹部に激しい痛みが走り、口から血が垂れる。
先の一撃が響いているようだ。
これでは、ロクに動けそうにない。
3体の魔女が、同時に槍を構えて突撃してくる。
どれが本体かなんて考えている余裕はない。
急いでマスケット銃を精製し、銃を構える。
外せば、その先にあるのは死。
狙いを定め、真ん中の魔女を撃つ。
その姿が掻き消えた瞬間、私は信じられないものを見た。
弾丸は、魔女の身体を貫いていた。