最後に残った道しるべ   作:ジジイキャベツ

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第二章 約束の物語
決戦前夜


カチ、カチ、と時計の針は時を刻む。

 

『暁美ほむらが時間を撒き戻すほどまどかは強い魔女になる』

 

私は、作戦会議を終えた後、キュゥべえから聞かされた真実について想いを馳せていた。

思い当たるべき機会はいくらでもあった。

けれど、迂闊な私は気づけなかった。ほんとは、気づかないようにしていたのかもしれない。

まどかを救おうと願った想いが世界の破滅へと爪を立てていた―――それだけならば、ここまで引きずることはなかっただろう。

まどかが最強の魔女になるという素質があるとして、それが意味を為すのは契約した時だけ。契約さえさせなければその最悪の魔女は姿を見せることはないのだから。

しかし、キュゥべえは最悪の仮説を私に押し付けてきた。

 

『このまま時間遡航を続けていれば、いずれ鹿目まどかという存在は消えてしまう』

 

私が束ねてしまった平衡世界の因果線を空気、まどかという存在を風船に例えて。

果たして風船に空気は無限に入るかどうか。答えはNo。そんなもの幼稚園児にもわかる話だ。

無論、あくまでも推測にしかすぎない。本当はもっと複雑なものと異常が重なり合った結果なのかもしれない。

しかし、私はあいつの推測を否定できるだけの材料は持っていなかった。

もしも推測が正しいのなら、あとどれだけまどかという器は耐えられるのだろう。

100回巻き戻してもまだ耐えられるのかもしれない。あるいはその逆で、もう一度巻き戻した途端に器が壊れて彼女は消えてしまうかもしれない。

 

もう、時間は巻き戻せない。

 

この時間軸の佐倉杏子は既に死んでいる。

彼女という強大な戦力がいないのは非常に心許ない。

純粋に数の面でも不安だ。

ワルプルギスの夜はヤツ本体の強さもそうだが、並の魔女とは比較にならない強さ且つ数の使い魔を用している。

ヤツラを私と巴マミの二人で迎撃する。それがどれだけ困難な道か、考えたくもない。

 

けれど悪いことばかりじゃない。

この時間軸の巴マミは、私の知る中で最も強い。

 

いつもの優雅さや可憐さは一切ナリを潜め、淡々と、より効率よく正確に敵を倒すだけの戦い。

その為、戦闘のほとんどは彼女主体でこなし、私は軽く補佐をする程度だった。

薔薇の魔女も。相性が最悪のお菓子の魔女も。彼女はほぼ単騎で圧倒してしまった。

きっと単純な戦闘力であれば私はおろか佐倉杏子でも敵わないと思う。

なにより、彼女は佐倉杏子の件により、まどかと美樹さやかの契約を断固として許さなかった。

その点は彼女に非常に助けられていた。

 

 

そしてまどかと美樹さやか。

 

彼女たちはここに至るまで契約をしなかった。

巴マミと共に再三の警告をしたのもそうだが、極めつけは、彼女が語った佐倉杏子の件だった。

彼女たちからすれば知らぬ存在だが、他者の為に祈った彼女の絶望は、二人に契約を思い留まらせるには充分だった。

ワルプルギスの夜への戦力になりたいという二人の懇願はめっきり消え、代わりにプライベートでの交流が増えた。

魔法少女関係なしの放課後の誘いだったり、みんなでマミの家でお泊り会をしたり。

魔法少女じゃなくても傍にいたい。力になりたい。友達でいたい。

そんな彼女たちの心遣いが嬉しかった。それはマミも同じだったようで、涙ぐみながら三人纏めて抱き着かれた時には、二人は朗らかに笑い、私も照れくささで頬が紅潮してしまった。

 

思い返せば、この時間軸はいつ以来かの充実した時間軸だった。

 

マミという頼れる魔法少女仲間がいて。魔法少女でなくとも親身になってくれるまどかとさやかがいて。

あと一人、佐倉杏子さえ揃っていれば万全だったのだが...

 

...いなくなってしまった人のことを嘆いている余裕はない。

彼女には悪いが、私はこの時間軸をやり直すつもりはない。

ワルプルギスの夜は二人で倒す。まどかも絶対に契約させない。

 

私たちは勝つ。勝って、未来へと進む。

 

決意と共に、私は机に置いてある携帯電話を掴み上げた。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

「......」

 

私の掌の中のグリーフシード。

 

かつて、教会にいた魔女を倒して手に入れはしたものの、未だ使い切ることのできなかったものだ。

 

魔女は倒さなければならない存在だ。けれど、あの魔女にだけはなぜか敵意を向けきることができなかった。

 

あんな凄惨な事件を引き起こしたのは事実だけれど、それでも佐倉さんの家族を護ったあの姿を忘れることはできないからだ。

 

「...ついに、この時がきたのね」

 

暁美さんのあれだけ強力な魔法を使っても倒せず、更には幾多の歴史を滅ぼしてきた伝説の魔女。

 

勝てるだろうか?いや、勝つしかない。

 

さんざん生にしがみついてきたが、その命を燃やす時がきたのだから。

 

「でも...もしも。もしも、私たちの力が及ばなかったら...」

 

右手に持つ、かつて佐倉さんたちを守っていたグリーフシ-ドに問いかける。

 

当然、返答などあるはずもなく。

 

だから、私は私の思ったようにこの子に力を貸してもらう。

 

(どうか見守っていて。優しいあの子たちが救われるように...なんて、魔法少女が魔女に頼むようなことではないのでしょうけど)

 

私はグリーフシードにヒモを付け、飛ばされないように首にかけ、部屋を後にした。

 

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