最後に残った道しるべ   作:ジジイキャベツ

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嵐の前に

――――――――――――――――

 

ワルプルギスの夜襲来 当日。

 

避難所で私たちは集まり、各々の行動の最終確認をとっていた。

 

「それじゃあ、行ってくるわ」

「いい?なにがあっても落ち着いて行動すること。事情を知ってるのはあなたたちだけなんだから」

「は、はいっ」

「大丈夫、二人のこと信じるからさ」

 

緊張でガチガチのわたしと違って、さやかちゃんは朗らかな笑顔で激励をかけていた。

これを最後にするつもりなんてないんだから、さやかちゃんみたいに笑って送り出さなきゃいけないのに、臆病なわたしにはどうしてもそれが出来なかった。

 

「ほむらちゃん、マミさん。恐くなったら、辛くなったら逃げてもいい。だから...絶対に生きて帰ってきて」

 

だから、わたしにはこんなことを言うのが精いっぱいで、それでもマミさんとほむらちゃんは微笑み頷き返してくれた。

 

二人が去っていくのを見届けると、さやかちゃんがわたしの肩に手を置いた。

 

「さっ、まどか。お互いひとまずは家族のところに戻ろ」

「...うん」

 

力なく頷き踵を返した時だった。

 

「その前に少しいいかい?」

 

突如、足元から声がした。

キュゥべえがいつの間にか、わたしたちの足元に姿を現していた。

 

「ッ...なにしに来たのさ」

 

さっきまで笑みさえ見せていたさやかちゃんの顔が強張り、敵を見るような眼で睨んでいた。

さやかちゃん、どうしたのかな?

 

「現状の確認さ。君たちにも今の状況を把握してもらいたいからね」

 

そんなさやかちゃんの視線など気にも留めず、キュゥべえはつらつらと言葉を紡いでいく。

 

「マミは歴戦の魔法少女だ。僕の見た限りでは、彼女には及ばずとも暁美ほむらも充分に強者といえるだろう。

けれど、それだけの戦力でワルプルギスの夜を倒せると思うかい?その程度の魔女が、今までに伝承として多くの魔法少女に語り継がれると思うかい?」

「...二人には、勝ち目がないの?」

 

わたしが不安げに問いかけると、キュゥべえは目を瞑りながら答える。

 

「0ではないかもしれない。ただ、勝算を大雑把に見積もるなら、1%にも満たないだろうね」

 

「そんな...!」

 

勉強が得意じゃないわたしでもわかる。1%以下の勝率というものがどれだけ絶望的かなんて。

 

「けれど、きみが契約してくれればそれだけで勝率が跳ね上がる。いや、確実に勝てると言っても過言ではない。まどか。マミたちを助けたいなら、僕と契約するべきだと思う。でないと彼女たちは―――」

「まどか、耳を貸さないで!」

 

キュゥべえが契約を持ち掛けてきたところで、さやかちゃんが怒鳴り声を遮った。

 

 

「さやかちゃん...」

「マミさんに言われたでしょ。契約はどうしようもなくなってようやくするものだって。それに、1%でもなんでも、勝機があるなら絶対に掴み取ってくれる。それがあの二人でしょ」

 

力強く断言するさやかちゃんを見て、改めて思う。

そうだ、マミさんたちはわたしたちや町の人達を護るために戦うんだ。だったら、わたしたちが信じなくちゃいけない。

それがきっとマミさんたちを支えるっていうことなんだと思う。

 

「...うん、わかってる。ただ、少し不安になっちゃっただけ」

「ならよしっ。...不安なのはあたしも同じさ。だからこそ、二人を信じないとね」

「......」

 

話を打ち切り、しっしと手で払うジャスチャーをするさやかちゃんをキュゥべえはジッと見つめている。

 

「...理解できないなあ」

 

やがて、ポツリとそう言葉を漏らした。

 

「先ほどから君達は二言目には信用だの信頼だのと口にするけれど、それになんの意味があるんだい?」

「...なによ。喧嘩売ってるの」

「僕はただ率直な考えを述べているだけさ。信頼や信用に殉じたところで、死んでしまえばなんの意味もなさない。でも、二人が契約して共に戦えばそんな不確かなものよりも確実に彼女たちを救うことが出来る」

 

受け流していた先ほどとは違い、キュゥべえはさやかちゃんの怒りに反論するかのように持論を述べていく。

 

「少し厳しい言い方になってしまったかな。でも、きみの契約は今の状況を打破するには一番効率がいいということは忠告しておきたかったんだ」

 

そこでようやくキュゥべえの言葉が途切れた。わたしはそんなキュゥべえをらしくないと思った。

いつもだったら契約を迫るにしても、それはあくまでも選択肢の一つ、という程度に収めていた。

でも、今回は違う。契約しないことのデメリットばかり挙げて、私から見ても半ば強制的に契約を結ぼうとしている。

どうしてだろう。

 

 

その答えを知る前に、雷が甲高く響き渡った。

 

 

 

――――――――

 

 

「もうすぐ来るわ。気を引き締めて」

「ええ。...暁美さん、少しいいかしら」

 

魔力の気配が濃くなり、あと数分もすれば出てくるだろうというところまできて、急にマミは語り始めた。

 

「今までの私の戦いは、両親を、佐倉さんたちを見殺しにしてしまった償いのための責務だった。彼女の父親を撃ってしまった償いだった。だから、漠然とした誰かを守ったところでそれを誇りになんて思えなかった。

でもね、私なんかのために涙を流してくれた鹿目さん、自分の気持ちを素直に伝えてくれる美樹さん。そして、隣に立って支えてくれるあなた。

私ね、自分の意思であなた達を守りたいと思えた。魔法少女としての義務じゃなく、償いでもなく、あなた達だから守りたいんだって、初めて思えたの。だから...」

「巴さん。いまそういう台詞は縁起が悪いわよ」

 

聞いてて耳が熱くなっていくのがわかった。

感謝してくれているのは嬉しく思う。けれど、この状況であの巴マミに言われるのが妙に照れくさかった。

だから無理やり遮った。このままだと映画なんかでよく見る死亡フラグまっしぐらだったのもなにか嫌だった。

 

「...そうね。ふふっ。暁美さん、顔、赤いわよ」

「き、気のせいよ」

「そう、気のせいね」

 

誤魔化したけど絶対にバレているわねこれ。でも嬉しさと恥ずかしさは紙一重だから仕方ない。

 

「...暁美さん、絶対に勝つわよ」

「ええ。その為に、私はここにいる」

 

だから、続きはこの戦いを終えてからだ。

 

 

 

「ウフフ...アーハハハハハ!!」

 

そして奴は甲高い笑い声と共に姿を現した。

最強の魔女、ワルプルギスの夜。

奴との最後の戦いが幕を開けた。

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