最後に残った道しるべ   作:ジジイキャベツ

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微笑みの爆ぜる時

 

「ッ...凄い圧力ね。流石は伝説の魔女といったところかしら」

 

初めての邂逅に多少面食らっていたものの、やはりというべきか、動揺や恐怖はほとんど抱いていないようだ。

さすがに経験値が経験値なだけに非常に頼もしい。これなら問題なく作戦を実行できる。

 

「手筈どおりに。まずは私から行くわ」

「お願い、暁美さん」

 

時間を停止し、私だけが動ける時間の中でありったけの銃火器を盾から召喚し片っ端から弾を発射する。

その全てが一定の距離をおいて静止し、ワルプルギスを取り囲む。

 

時間停止、解除。

 

動き出した砲弾は一斉にワルプルギスへと襲い掛かり、被弾し爆発を起こす。

 

もしもこれを一個人、あるいは魔女に向ければ数秒と経たず肉体ごと滅ぼせるだろう。

 

だが、あのワルプルギスの夜にはさほど通用しない。

単純にサイズが大きいのもあるが、これまでの統計上、あの魔女は単なる物理攻撃が通じにくい性質を有しているようだった。

 

私の大量の武器はあくまでもその物理攻撃の範囲にある。

故に、ワルプルギスへの有効打にはなりえない。

 

私の攻撃は精精、足止めがいいところだ。

 

「はあっ!」

 

マミが大筒を構え、引き金を引く。

 

本命はマミの高火力の攻撃。一度では斃せずとも、何度も当て続ければ効果があるはずだ。

 

 

「アーッハハハハ!!!」

 

マミの大筒を受けたというのに、奴は依然変わらず笑い声を止めることはない。

 

「あの様だと、手ごたえがわからないわね」

「関係ないわ...このまま押し切る!」

 

出し惜しみなんてしている暇はない。全てを使い切る勢いで武器を取り出していく。

 

「キャハハハ!」

 

「ッ!」

 

爆煙を掻き分け、使い魔が放った紫色の矢が迫ってくる。かわしきれないと判断した私は、咄嗟に防御の姿勢をとった。

 

「暁美さん!」

 

矢が私に触れる寸前に、巴マミのリボンが割って入り被弾を防いだ。

 

「助かったわ」

「まずはあたりの使い魔から蹴散らしていきましょう。それが避難所の守りにも繋がるわ」

「ええ。邪魔よあなたたち」

 

沸いて出てくる使い魔たちを機関銃で一掃する。

その弾幕を避け、私へと迫る攻撃は巴マミのリボンとマスケットが阻み、私達へのダメージを極限まで減らす。

 

この一連の流れさえ掴み、大きな失敗を犯さなければ、私達が使い魔に遅れをとることはない。

 

けれど、ただ私達が生き残るだけでは意味が無い。

まどか達や町の人たちのいる避難所を守りきらねば私達の敗北だ。

 

それはマミも理解している。だったら、私達のするべきことはひとつ。

周囲の使い魔を散らしきった私達は互いに背中合わせになり死角を潰した。

 

「このままではキリがないわ」

 

「そうね。なら、もう守りに入る時間は終わらせてもいいんじゃない?」

 

「このまま粘ったところでワルプルギスへと届かない」

 

「ええ。だから、あなたの背中は私に任せて」

 

「...わかったわ。あなたの背中は私が守る」

 

ここからは、私達の攻撃だ。

 

マミのマスケットと私のベレッタが同時に火を吹き、私達は弾かれるように走り出す。

 

互いに、群がる使い魔たちを撃ち、打ち、討ちのめしていく。

 

使い魔の牽制攻撃などはこの際無視だ。多少の被弾は覚悟でつっきり、とにかく使い魔を少しでも多く散らしていく。

 

どれほど使い魔を消しただろうか。

 

気がつけば、ワルプルギス本体は眼前だった。

 

予想以上に辿りつくのが早かったが、一人ではこうはいかなかっただろう。

 

背中をあの巴マミが守ってくれている。

だからこそ、自分はここまでできたのだ。

 

「アーハハハハ!」

「暁美さん!」

 

ワルプルギスが吐いた炎は、送れて合流したマミのリボンの盾が表面を滑らせ防いだ。

 

「ごめんなさい、少し遅れたわ!」

 

そういうマミの身体にはほとんど傷がついていない。被弾覚悟で突破した私とは大違いだ。

やはり戦闘センスの差があるのだろう。そこに若干の歯がゆさを覚えるものの、すぐに気を引き締めなおす。

 

「ここまで近づいたらもうやりたい放題ね。さあ、ありったけの攻撃をぶつけてやりましょう」

「ええ」

 

―――時間停止。

 

砂時計のことを考えればもうあと何回使えるかわからない。

 

持続時間は30秒もない。ただし、この30秒間を動けるのは私とリボンで繋がれているマミだけだ。

 

私は機関銃を撃ち、マミは大量のマスケットを同時発射する。

 

残り20秒。

 

私が大量の手榴弾を盾から放り、マミのリボンは1個たりとも余すことなくピンを抜く。

 

残り10秒。

 

魔力を通したタンクローリーを半ばヤケ気味に放り、マミは大筒の充填を始めた。

 

5秒前。

 

マミのリボンの盾が私の眼前に張られた。

 

4秒前。

 

大筒の充填が終わったようだ。

 

3秒前。

 

大砲が放たれた。あれは相当な威力だろう。

 

2秒前。

 

マミが私の隣に並び、共にリボンの盾に身を隠す。

 

1秒前。

 

来る衝撃に備え、共に歯を食いしばる。

 

0。

 

激しい衝撃と共に、私達はリボンもろとも投げ出され、爆煙に捲かれながら地上へと投げ出された。

 

 

 

落下する最中、盾になっていたリボンが私達を取り囲み、球体状になって私達を包み込んだ。

 

これなら落下時の衝撃を殺せる...はず。

 

リボンの球は、地面に触れるやいなや、大きくバウンドし、一昔前のピンボールのように何度も激しく跳ねまわり、衝撃が10を超えたあたりでようやく動きを止めた。

 

リボンの球が解かれ、マミは思わずしりもちをつき、私はふらふらと地面に横たわってしまった。

 

(ぅ...吐きそう)

 

「大丈夫?」

「や...やったのかしら」

「そう思いたいけれどね」

 

マミがそう呟くのとほぼ同時。

 

「アーハハハハハハ!!」

 

爆煙を吹き飛ばし、姿を見せたあいつは健在だった。

 

けれど、確かにダメージは残せたみたいで、あいつの飛び方はフラフラとした不規則なものになっている。

 

その上、身体の一部に皹が入り、いまもポロポロとその欠片を落としている。

 

「立って暁美さん。この調子でガンガン行くわよ」

 

「え、ええ」

 

弱った身体に鞭をうち再び跳躍する。

 

それでも、今までの戦いに比べれば、私はまだ比較的余裕がある。

 

マミはまだまだいけそうだ。

 

「巴さん」

 

「わかっているわ。ワルプルギスは私達を認識できていない...今がチャンスね」

 

マミのリボンが大砲を象り、魔力が充填されていく。

 

今までの短時間のタメの比じゃない。恐らく今までで最大の一撃をお見舞いするつもりだ。

 

あれが当たれば、如何にワルプルギスでも耐え切れないだろう。

 

「キャハッ」

 

しかし、ワルプルギス本体が気づいていなくても、使い魔は別だ。

 

いま攻撃を受ければ、如何に巴マミでも集中力が削がれ大砲が撃てなくなるかもしれない。

 

それを防ぐのが私の役目だ。

 

いくら消耗していても、使い魔相手にもたないわけではない。

 

「頼んだわ、暁美さん」

 

「ええ」

 

両手の拳銃で使い魔を蹴散らしつつ、マミからつかず離れずの距離を保ち、彼女の周囲を護衛する。

 

 

 

 

 

(いけるかもしれない)

 

初めてかもしれない。まどかも美樹さやかも契約しておらず、マミと私の二人だけでここまで戦えたのは。

ここまで彼女と噛み合っているのは。

 

「気づかれた!」

「大丈夫、私の方が先よ!とびっきりのをお見舞いしてあげるから」

「なら頼んだわ」

「ええ」

 

私が笑みを携えながら言うと、マミも力強く答えた。

 

(あれ...なんで私、笑って...)

 

戦いの最中、それもこんな重要な局面で。

 

『クラスのみんなには内緒だよっ』

『いくわよ鹿目さん!』

 

頭の中に、彼女達との出会いが過ぎる。

 

...ああ、そうか。いまさらになってわかった。ここにきてようやくわかった。

 

わたしはまどかを救うために契約したけれど、その根底には。

私は彼女とも並びたかったんだ。

まどかと共に私を助けてくれたあの人にも認めてもらいたかったんだ。

認めてもらいたかった人たちと、その先へ進みたかったんだ。

 

「勝ちましょう、巴さん」

 

だから、あの人とこんなにもかみ合うことが、嬉しいんだ。

 

 

 

「キャハハハ」

 

 

 

 

右側頭部に痛みが走り、無様に地面を嘗める。

 

吐き気と共に見つめる地面がぐるぐると渦巻き立ち上がることすらままならない。

 

反応が遅れた。咄嗟の防御も間に合わなかった。

 

念願の勝利を目前に気が緩んだとでもいうのだろうか。

 

繰り返してきた時の中で、それほどまでに私の心は疲弊しきっていたとでもいうのか。

 

「暁美さ...!」

 

「かま、わないで」

 

必死に声を絞り出しマミを制する。

声が届いたかはわからないが、彼女は再びワルプルギスへと視線を戻したような気がするので、おそらく伝わったのだろう。

きっと伝わっているはずだ。

 

 

 

 

ゴ ゴ ゴ

 

おぞましい轟音と共に、巨大な黒い塊が迫ってくる。

 

視界がぐるぐるとしているため正確にはわからないが、恐らく巨大なビルだろう。

 

このままでは潰される。そう思い盾に手をかけるが―――動かない。

 

(時間、切れ)

 

砂時計は尽きていた。もう私にビルから逃れる手段はない。

 

死が迫る中、全ての光景がスローに見え、思考までも冷静になった。

 

私はここで死ぬ。けれど、マミが引き金を引けば、ワルプルギスに勝てるのだ。

 

それに、私がいなくても、マミがまどかたちを魔法少女に勧誘することはない。

 

ならばもう思い残すことはない。

 

どの道、自分のような多くのものを壊してきた女が、正しい道を生きる彼女達の隣に立つなどあってはならなかったのだから。

 

瞼を閉じ、その迫る死を受け入れようとした。

 

暗闇の中で、けたましい轟音が響いた、気がした。

 

 

 

「...どうやら決着がついたようだね」

 

徐にキュゥべえが告げた。

 

「えっ」

 

「本当に!?」

 

「ああ。勝利したのは...」

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