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「ぅ...」
全身が痛む。頭痛と共に吐き気を催す。
てっきり死んだと思ったが、響き渡るあの聞きなれたやかましい笑い声が、現実であることを証明してくれた。
(助かった...?運がよかったのかしら)
とはいえ安堵している暇はない。すぐにあいつの、ワルプルギスのもとに行かなくては。
(まって...なぜあいつはあんなにもピンピンしているの?)
マミのあの大砲を受ければ、倒せずとも深手を負わせることはできたはずだ。
だが、あいつが弱った気配はない。いったいなぜ...
その答えは、すぐに思い知らされることになる。
―――パァン。
銃声が響いた。
私は思わず音の出所に目を向けた。
マミだ。彼女が、私に背を向け立っていた。
「巴さ...」
言葉に出そうとして気がつく。
彼女の衣服は至るところが破れ、綺麗だった肌には数多の傷が刻まれていたこと。周囲に、使い魔が群がっていること。彼女の足元には夥しいほどの血が流れていたこと。
私は彼女のもとへと駆け寄ろうとする―――が、動けない。
瓦礫だ。巨大な瓦礫が、私の右足を押しつぶしていたのだ。
「――――――!!」
己の惨状を認識したことで、痛覚が蘇り、言葉にならない激痛が身体を駆け巡る。
あまりの衝撃に意識が飛びかけるが、しかし、気絶なんてしてる場合じゃない。
行かなくては。彼女がいなければ、ワルプルギスの夜は倒せない。
どれだけ足を引っ張っても瓦礫から抜ける気配はない。
拳銃で援護しようにも、使い切ったのかどこかにばら撒かれてしまったのか、盾の中はもう空だ。
いまここにいる私が、彼女の為にできることなどなにもない。こうしている間にも彼女は私を守る為に傷ついている。
早く行くんだ。脚が邪魔しているのなら、こんな脚なんて必要ない。
落ちていたガラス片を拾い、脚を斬りつける。
もちろん、包丁やハサミですらないコレであっさりと切り離せるはずも無い。
何度も、何度も振り下ろし肉を、繊維を、骨を削っていく。
感じる痛みなんて遮断する。そんなものを気にかける暇など無い。
―――背後から幾度も鈍い音がする。
手を止める暇も振り返る暇もないが、マミが嬲られているのだろう。
蹴られ、殴られ、撃たれ、焼かれ、刺され。
それでもいま私がガラスを振り下ろしていられるのは、彼女が耐えているからだろう。
私を守る為に、私を救うために使ってしまった残り少ない魔力を支えに。
彼女が、使い魔にあんなにも一方的に嬲られるはずがない。
ワルプルギスの夜が、あの技を受けてあんなにも平然としていられるはずがない。
私の怪我が、この程度で済んでいるはずがない。
...そう。語られなくてもわかる。彼女は、大砲をワルプルギスに撃たなかったのだ。
私を救うために。私の即死を防ぐために、彼女はビルを撃ち私への直撃を逸らしたのだ。
どうして。絶対に勝つと約束したのに!私なんか、放っておいてよかったのに!
私の右足は、もう肉も骨も見えるほどに、ドロドロのめちゃくちゃになっていた。
これでいい。これでようやくあの人のもとへと駆けつけられる。
躊躇うことなく、最後の一回を振り下ろした。
ぶちぶちと残っていた筋繊維が切れ、右足が剥がれていく。
待っていて、マミ。私が戦うから。隣に立つから。
私は大丈夫だって伝えるから。いつも強がっていたあなたの代わりに、今度は私が強がるから。
無様でも、逃げてもいい。あの子達と生きて。
あなたは絶対に―――死なせはしない!!
振り返った時、ブチリ、と音がした。
あの人の身体が上下の二つに別れて、使い魔たちは新しい玩具を手に入れた子供のようにけたけた笑い、彼女をさらに細かく切り裂いた。
残された希望は、あまりにも呆気なく折られてしまった。