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駆け寄ってくる音が聞こえた。
それが誰かなんて考えるまでもない。何度も繰り返してしまった状況なのだから。
「...まどか」
「ほむらちゃん...!」
片目が潰されて、残った方も血で塗れていてあまり見えないけれど、まどかが涙を流しているのはわかる。
頭の片隅では、もう魔法少女になるしかないと決意を固めていることも。
「ごめん...本当にごめんね...私がもっと早く契約してれば...」
謝らないで、まどか。謝らなければいけないのは私。
あなたに最悪最強の魔女の素質を持たせてしまったのも。
あの巴マミに隙を与えてしまったことも。
全ては私の弱さが招いたことだから。
「だめ...まどか...」
声に出しつつも、状況がそれを許さないことは理解している。
まどかが契約しなければどうなる。
まどかも彼女の家族や町の人たちもワルプルギスに蹂躙されておわりだ。
仮に美樹さやかが契約をしても勝機はない。
おそらく、巴マミを蘇生させる願いは、平凡な日常を生きてきた彼女の素質では足りない。
私の怪我を治す願いを叶えたところで、時間停止が使えない私がなんの役に立つだろう。
助っ人の可能性などは以ての外だ。
最も見滝原市に近い魔法少女である佐倉杏子は既にいない。彼女がいない以上、新たに魔法少女が参戦してくれるなど妄想幻想も甚だしい。
万が一ワルプルギスの噂を聞きつけやって来たとしても、その時にはもうワルプルギスは町も人々も破壊しつくした後だろう。
どういう形であれまどかが契約をしなければ、そもそもまどかは死んでしまうのだ。
(もう、時間を戻すしか...)
盾に手をかけ―――思いとどまる。
やつは言っていた。
私が時間を繰り返せば繰り返すだけまどかの因果が強くなり、その因果の量に彼女が耐えられなくなる可能性があると。
これは半ば憶測だ。けれど、決して無根拠な虚言ではない。
現に繰り返す度にまどかは強大な素質を孕んできた。
因果の量が許容量を超えたとき、その器は壊れてしまうと考えるのが妥当だ。
ならば、私がこれ以上繰り返すことは彼女を苦しめる―――それどころか彼女を存在すら消してしまうのでは。
...可能性は可能性。それでも、万が一でもそうなる可能性があるのなら。
私は、もう時間を巻き戻すことはできない。
「待っててほむらちゃん。すぐに治すから」
まどかがそう力強く私に告げる。
幾度も経験してきたから、こうなった時の彼女が止まらないのはわかっている。
もはや、魔法少女の真相を明かし思いとどまらせるような時間も無い。
私に出来ることはもうほとんどない。
あとは、ワルプルギスを倒したまどかが生きて戻るのを待ち、彼女が魔女になる前にその命を断つ。
彼女が自身で愛した者たちをその手にかけることのないように。
そして、私は自分でソウルジェムを砕いて...いや、彼女の祈りで復活するであろう巴マミに、私のグリーフシードを残そう。
最後まで役立たずだった私のせめてもの償いだ。そんなことで、これまでの愚行を拭うことなんてできやしないが。
(...間違い、だったのかな)
私はまどかが死ぬ世界なんて認められなかった。だから契約した。
彼女が死んでしまう度に何度も何度も時を戻し続けてきた。
けれど。
人は死ぬ。それは誰にも抗えない事象だ。
これはそんな当たり前のことを受け入れられなかった罰なのだろうか。
まどかのいる世界に戻りたかった...そんなに許されない願いだったのかな。
「ごめんなさい」
もう謝罪も誰にも届いていないだろう。
「ごめんなさい」
なんとなくだが、言葉を漏らす度にソウルジェムが濁っていくのがわかる。
それでも言葉に出さずにはいられなかった。
まどかが魔法少女になるまで私の方がもつかもわからなくなってきた。
....ああ、最後にと決めたことさえ満足にできないなんて。やっぱり、私はどうしようもなく駄目だなぁ。
「弱くて、ごめんなさい」
パリン、となにかが割れるような音がした。