最後に残った道しるべ   作:ジジイキャベツ

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帰るべき場所

 

 

―――ん

 

――さん

 

マミさんっ!

 

 

「―――ッ!」

 

目が覚め意識が覚醒する。

瞬きをして視界を白黒とさせながら自分の状況を確かめる。

あれ...私、さっきまでなにしてたんだっけ?

 

「やっと起きた。そろそろ準備しないと間に合わないぞ」

 

私の顔を覗き込むのは、燃えるような赤い髪の少女―――佐倉杏子だ。

その姿を認めた時、私は思わず彼女の頬に手を伸ばしていた。

温もりを、存在を確かめるようにペタペタと、何度も触って離して、ぐにぐにと弄って。

 

「お、おいマミさん?」

 

そんな私の奇行にも思える挙動への不審と羞恥からくる恥ずかしさで、彼女は頬をほんのりと紅潮させながら戸惑った。

 

「ご、ごめんなさい、なんだかあなたを見たら安心しちゃって」

 

そう。なぜか私は佐倉さんを見た時安心してしまった。

なんだか無性に愛おしくなってしまった。

 

「変なマミさん。ま、いいけどさ」

 

理由を聞くこともなく、彼女は私の手を引きながらはにかんだ。

 

「早く行くよ、マミさん」

 

彼女の笑顔につられて私も笑い、引かれるままに彼女についていった。

 

二人で歩いていると、ほどなくして、三つの影が見えた。

鹿目さん、美樹さん、暁美さんだ。

 

「マミさん、杏子ちゃん!」

「待たせたなまどか」

 

私たちを見つけた鹿目さんが駆け寄り、後に続いて美樹さんと暁美さんも向かってくる。

 

「こんにちわーマミさん。全く、遅いぞ杏子」

「なんであたしにだけ言うんだよ」

「どうせあんたがもたもたしてたから遅刻しちゃったんでしょ。さやかちゃんにはお見通しなのだー」

「ちげーよ、マミさん起こすのに手間取ったんだよ」

「ごめんなさい、美樹さん」

「なんと寝起きマミさんとは!こいつはレア物だ!」

「おい、あたしと対応違いすぎないか」

「マミさんは特別なんですぅ」

 

美樹さんと佐倉さんが火花を散らしあうのを他所に、暁美さんと鹿目さんがこれからどこに行こうかと話し合っている。

きっと、これから私たち5人で遊びに行くのだろう。

和やかで、賑やかに、楽しいことを思い切り楽しんで。休みが終わったらみんなで学校へ行って、勉強を頑張って。

きっとそれは幸せなことなんだろう。当たり前にあるべき、平和な光景なのだろう。だからこそ

 

「ありがとう佐倉さん」

 

お礼と。

 

「...ごめんなさい」

 

謝罪を。

 

「マミさん?」

 

心配そうにこちらを見つめる佐倉さんに、頑張って笑顔を作る。

 

「私ね、ずっとこんな日々を望んでいた。あなたがいて、皆がいて、戦いなんて無縁で、なんでもないささやかな日々を」

 

言葉にする度に、私の身体が崩れていく。

こんな当たり前のはずの日々を"夢"だと断ずれば、もうそれを現実と認めることはできなくなる。

いまさっきまで鹿目さん、美樹さん、暁美さんだったものが、蠢く黒いもやに変わってしまう。

だらりと伸ばした腕が赤く染まり、視界の半分が消えうせ、服からは赤い染みが滲みはじめた。

 

「私は魔法少女なんて嫌だった。あなたがいなければ、きっと、もっと早くに潰れてた」

 

もしもこの夢に溺れていられれば、それはとても幸せなことなのだろう。

痛みもない、悲しみも無い、私の理想の世界だ。

だからこそ、この理想は否定しなければいけない。

 

「...嫌なら、忘れて、いいだろ」

 

佐倉さんの声は震えていた。震えながらも、力強く訴えてきた。

 

「もう充分だよ。マミさんはずっと戦ってきた。あんたがそこまで頑張らなくても、あとはあいつらが解決してくれる。...そうだ、あんたがなにもかもを背負う必要なんてないんだ。

あいつらだって誰もあんたを恨んでなんかない。あたしとの約束に縛られてるなら、そんなもの忘れてくれていい。わかるだろ、あんなのただの出まかせだ。

あんたに死んでほしくなかったから適当にでっちあげただけなんだ。だから...もういいんだよ」

 

佐倉さんは消え入りそうな声で必死に捲し立てる。

そんな彼女を受け入れたくなる。今すぐにでも手をとって全部忘れたくなる。

けれど。

 

「それでも忘れられないの」

 

私の信じてきたものが虚構だという言葉に衝撃を受けることはなかった。

本当はわかっていた。

もしも私が佐倉さんの立場だったら、見知らぬ人を救う為に命を賭けろなんて思っただろうか?きっと思わない。

もっと単純に、死なないでほしいとか、元気に過ごしてほしいとか。そういうことを願うと思う。

でも、あの時の私だと多分「あの子を救えなかった自分が生きているのを許せない」とでも言って自殺を選んでしまうだろう。

だから、佐倉さんが仮初の目的を作って少しでも長生きさせようとしたのはなんとなくわかっていた。

わかっていたけど気づかないふりをして生きていく支えにしていた。

 

「それにね、私が幸せに溺れている間に、まだ戦っている子たちがいる」

 

魔法少女にならなくても、頼らなくても、人を助けることが出来るのを証明してくれた子たちがいる。

 

背中を預け、共に命をかけて戦ってくれている子がいる。

 

彼女達が苦しんでいるなら、まだ諦めていないなら、私がここで夢を見ている場合じゃない。

 

「私はあの子たちを護りたい。償いでも誓いでもなく、私の心に従って」

 

「ッ...」

 

佐倉さんはなにか言いかけたけれど、私の眼を見た彼女は、なにかを察したかのように言葉を失った。

 

「本当にありがとう。...じゃあ、行ってきます」

 

そんな佐倉さんに感謝を伝え、私は振り返り足を進めた。

 

瞬間、ズキリと身体中に痛みが走った。

 

私の身体が拒否している。

 

ここから離れないで、夢の中にいさせてと。

 

ならばこちらに進むのが正しい。

この痛みこそが護るべき現実なのだから。

 

蝕む痛みに耐えつつ、私は歩みを進める。

 

一歩一歩が私と現実の死を思い出させる。

 

ぼとぼとと流れ落ちていく血を踏みしめながら、覚束ない足取りで前へと進む。

 

ぼとり、と左腕が落ちた。別段それに想いを馳せることなく、進む。

 

進む。進む。

 

気がつけば血はもう流れていなかった。

足元を見ても、私の中に詰まっていたものすら見えなくなっていた。

代わりに、ぐらりと私の視界が傾き、べちゃりと無様に転がった。

 

(行かなくちゃ...)

 

行かなければ何も護れない。夢から覚めなければなにもできない。

 

震える腕で起き上がろうとするけれど、ガクリと力が抜けて倒れてしまう。

 

なんともみっともない姿だろう。

こんな様でいったいなにが護れるというのだ。

 

(私はまだ戦える...まだ...)

 

それでも這ってでも進む。絶対に、彼女たちを諦めたくない。

その一念だけで私の意識は繋ぎ止められている。

 

そんな私を見かねたのだろうか。

頭上から佐倉さんの声がした。

 

 

 

 

ここから分岐になります。

杏子の次の言葉によって展開が変わります

 

1.「頑張れ」

2.「もういいんだよ」

3.「馬鹿だな、あんたは」

 




本作は分岐を含め、全て執筆済みです。
読後の率直な反応(評価・感想)は、物語を完結させるための最後のピースとして、大切に受け取らせていただきます
次回から、「頑張れ」と言ったルート、「もういいんだ」と言ったルート、「馬鹿だな」と言ったルートを順次公開していきます
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