最後に残った道しるべ   作:ジジイキャベツ

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【頑張れと言った場合のルート】
これが、私の選択肢


「頑張れ」

 

声が聞こえた。

立ち去ろうとする私を応援してくれる佐倉さんの声が。

 

「止まるな。でないと間に合わなくなる」

 

思わず振り返ろうとする私だが、佐倉さんの声に阻まれる。

ああ、そうだ。振り返る余裕などない。

余力はもう限られている。

でも大丈夫。

佐倉さんが見守ってくれている。それだけで私は何処までも進むことが出来る。

 

待ってて、みんな。すぐに行くから。

私が...みんなを...まも...る、か...ら...

 

......

 

......

 

...

 

こえがきこえる。

 

―――悪いな。もう、見てられなかったんだ

 

かなしさとこうかいがにじみでてくるような、あのこのこえが

 

 

......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★

 

一瞬だった。

倒れたビルの窓ガラスがパリン、と割れたと思ったら、閃光が奔り、まどかの顔に当たって弾けた。

弾かれたまどかの頭がぐるりとまわって私と目が合った。

 

死んだ。即死だ

確かめなくてもわかる。だって、あの子の頭と身体は離れ離れになってしまったから。

 

「ぁ...」

 

死んでしまった。

 

呆気なく。

 

死んでしまった。

 

私が何もできないまま

 

死んでしまった。

 

あのこは決意したことすらまだなにもできていないのに。

 

「ぁ、あ、あ、あ、ぁ、ぁ、ぁ」

 

死んでしまった。死んでしまった。

死んでしまった。死んでしまった。

死んでしまった。死んでしまった。

死んでしまった。死んでしまった。

死んでしまった。死んでしまった。

死んでしまった。死んでしまった。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 

声にならない声で叫び、なけなしの力を振り絞り、転がるまどかの頭のもとへと這いずりよる。

全力を出しているはずなのにとても遅い。産まれたての赤ん坊が馬鹿にするくらいゆっくりだ。

そんな醜い私をワルプルギスと使い魔がケタケタと嘲笑う。

もはやあいつらへの怒りも湧いてこない。ただただ胸中を占めるのは、まどかが死んだという悲しみだけ。

 

どうして。どうして彼女がこんなに呆気なく死ななくちゃならない。

彼女は守りたいものを護る為に死ぬことも許されないのか。

いやだ。こんな形でまどかを終わらせたくない。

こんなのが『鹿目まどか』の最期だなんて絶対に嫌!

 

「みと、めない...認めない...!」

 

何度も口にして、溢れそうになる涙を噛み殺す。

...そうだ。私が諦めてしまえば、まどかは死ぬしかない。

例え鹿目まどかという存在がいた痕跡を保持したところで関係ない。

誰が覚えていようが覚えていまいが、彼女が死んだ事実は覆らない。

私にはもう、諦めるという選択肢すらなかったんだ。

 

「次、こそは、かならず...かならず助けるから...!」

 

まどかが消えてしまわないことを祈りながら、左腕の盾に触れ、砂時計を逆さに返した。

 

・

 

・

 

・

 

大型魔女『ワルプルギスの夜』、見滝原市にて上陸完了。

 

崩落建築物数 計測不明。

倒壊家屋数 計測不明。

被害者数 計測不明。

 

生存者数、0名。

 

・

 

・

 

・

 

 

「マミ、頼んだ!」

「任せてちょうだい!ティロ・フィナーレ!」

 

巴マミの放った大砲が薔薇の魔女を貫き爆発した。

魔女の落としたグリーフシードを拾うと、二人ははにかみながらハイタッチで喜び合った。

 

「ヘヘッ、ちょろいちょろい。ベテラン魔法少女がまともに組めば敵なしだぜ」

「もう、調子いいんだから...でも、そうね。これならあのワルプルギスの夜ですら倒せるかもね」

「浮かれてんのはどっちだっつーんだよ。なあほむら」

「え、ええ...」

 

不意に同意を求められた私は、思わず返事を濁すが、そんなことは気にせず二人は勝利の喜びを分かち合っていた。

 

巻き戻した先のこの時間軸ではまどかは消えていなかった。

美樹さやかも契約しておらず、現状では二人との関係も良好なためキュゥべえとの契約の危険性は低い。

更には、巴マミと佐倉杏子の両者が生存しており、前回のような複雑な事情もなく、敵対している様子もなく。

その為、私を含めた三人の同盟は拗れることなく成立。

現状で望める最大の戦力のはず、なのに...

 

(...勝てる気がしない)

 

この周回の巴マミも佐倉杏子も決して弱い訳ではない。ベテランというだけあり実力は確かだ。

それでも、前回の巴マミと比べるとどうしても劣る。

 

以前の彼女であれば薔薇の魔女など一人で容易く葬れた。

大抵の魔女であれば組む必要もなく、あんな大技を使うまでもなく倒してきた。

恐らく、この三人で挑むよりもあの時の彼女一人の方が強い。

これでは、彼女ですら敵わなかったワルプルギスの夜を倒すなど夢のまた夢だ。

 

それでも、巴マミもいる。佐倉杏子もいる。まどか達は契約していない現状は最良と言っても過言ではない。

 

勝つんだ。今度こそ、まどかを救う為にも。

 

・

 

・

 

・

 

やはり勝てなかった。それも、前のように追い詰めた上でじゃない。

為すすべもなく巴マミも佐倉杏子も殺され、打つ手が無くなったまどかが契約してしまうという何度も見せつけられた光景だ。

 

どこで間違えた。

戦力は最大限揃ったというのに、どうして前よりも上手くいかないの。

なにが違う。

巴マミはいる。まどか達とも友好的な関係を築いてきた。むしろ、佐倉杏子が加わったぶん人手不足の面はカバーできたはずだ。

なのになぜ。

 

...違うのは、巴マミの強さだ。

彼女一人の時は、今回の私たち三人が力を合わせるよりも明らかに強かった。

前回も、私を助けようとしていなければ、勝っていたのは彼女かもしれない。

つまり。彼女は一人で戦っている時の方が強い。

 

縁を断ち切って。他者との繋がりをより希薄にして。

そうして独りで洗練した結果があの時の巴マミなのではないだろうか。

 

だとすれば...だとすればだ。

あの時の彼女を欲するのであれば、私と佐倉杏子は必要ない。

ただ距離を置くだけでは駄目だ。

私たちという存在を彼女の中から消してしまわなければいけない。

 

「わざわざこんなところを訪ねてくるなんてとんだ物好きだねえ」

 

深夜、廃協会に足を運んだ私を見て佐倉杏子は警戒心を露わにした。

 

 

...私はいま、バカげたことを考えている。

わかっている。こんな行為で本当にまどかを救えるはずがないことは。

 

でももうあとが無い。これ以上の失敗は許されない。

可能性が僅かにでもあるのならば、もうそれに縋るしかない。

 

「...ごめんなさい」

 

後ろ手に隠していた銃の震えが止まる。

私の突然の謝罪に杏子は眉根を潜め、なにごとかを口にしようとした。

 

けれど、彼女の声が届く前に、引き金には力が込められていて、そして。

 

パァン、と乾いた音が鳴り響いた。

 

完




杏子が頑張れと言った時のルート、終わりです
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