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嵐が止んで、魔女が消え去って。
水たまりに尻餅をつくわたしの身体を陽の光が照らす。
その気持ちよさに、こんな時でなければお昼寝でもしちゃうんだろうなと思いながら、頑張って目を開けて。
ほどなくして、わたしが待っていたあの子が息を切らしながら走ってきた。
「まどか...やっぱり...!」
さやかちゃんは、力なく瓦礫にもたれかかるわたしを見ると、目を見開いてがくりと膝を着いた。
それからぽろぽろと涙を零しながら、「なにもできなかった」「ごめん」とだけ消え入りそうな声で呟くと、嗚咽交じりに泣き始めてしまった。
その姿にわたしの心臓が締め付けられ、いたたまれなさと申し訳なさで心がいっぱいになって。
本当ならさやかちゃんと一緒に泣き続けたいけれど、わたしに遺された時間はもうあまりない。
だからわたしはさやかちゃんが安心できるように無理やり微笑んだ。
「無事でよかった」
「あんたが、無事じゃ、なくて、どうすんのよ」
「えへへ、ちょっと無理しちゃったかも...でも、みんな助けられてよかった。ぁ...」
さやかちゃんへと伸ばした手から力が抜け、そのまま前のめりに倒れこんでしまう。
そんなわたしをさやかちゃんは抱きしめ上げて、傍らに佇むキュゥべえに怒鳴り散らした。
「キュゥべえ!あたしと契約してまどかを元に戻して!」
「それは不可能だ。彼女の魔力ときみの素質ではとても釣り合わない。いくら僕たちでもここまでの差を埋める術は持たないよ」
「ッ...なら、まどかのソウルジェムの濁りを無くして!」
「それも不可能だ。まどかの濁りはもはやグリーフシードを使っても取れない域にまで達している。きみが願えばきみの素質の分くらいは緩和できるかもしれないけれど、気休めにもなりはしないさ」
「こ、の...!ううん、それでもいい。あたしの素質で消せるだけの穢れを...!」
契約しようとするさやかちゃんの口に、そっと人差し指を当てる。
嬉しかった。
わたしはさやかちゃんのことが大好きだけど、さやかちゃんがどん臭くてなにもできないわたしのことをどう思ってるか不安にならなかったことはない。
でも、さやかちゃんがわたしを助けようと必死になってくれている。わたしの悩みなんて杞憂もいいところだったと証明してくれている。
わたしが見栄なんて張らなくてもさやかちゃんはわたしを大切に想ってくれるなら、このままさやかちゃんの厚意に縋りたい黒い気持ちが滲み出てくる。
「もう、充分だよ。ありがとさやかちゃん」
嬉しいからこそ、さやかちゃんを契約させたくない。
さやかちゃんまで魔法少女にさせるわけには、死なせる訳にはいかない。
さやかちゃんとほむらちゃんには、マミさんやわたしの分まで生きて幸せになってほしい。
「わたしね、契約したことに後悔なんてしてないよ。家族だけじゃない。さやかちゃんとほむらちゃんも助けられたんだもん」
「ほむら...そうだ、ほむらは」
「もういないよ。まどかのきみたちを助けて、という願いが反映された結果、単純に生命の危機に晒されていたきみは五体満足の復活を。
この時間軸に絶望し魔女になったほむらは、魔女から戻りこの時間軸の記憶が消去され再び過去へと送り出された。
マミはなぜか蘇らなかったけど...もしかしたら、本質的にはこのまま死にたいと願っていたのかもしれない。そう考えるとまどかの『助けて』という願いに準じた結果、蘇生を拒んだのかもしれないね」
キュゥべえはもう上手く言葉を紡げないわたしに変わり、ワルプルギスの夜を倒したその直後に、ソウルジェムが濁り切った魔法少女の末路と合わせてわたしに聞かせてくれた説明をしてくれた。
それはとても助かることだけど、さやかちゃんの意識がキュゥべえに向きそうだったのでわたしは頑張ってすぐに口を開いた。
「わたしね、この世界が大好き。こんなわたしを大切にしてくれる人にたくさん出会えて、大好きな友達がたくさん出来て、楽しかったことがいっぱいあった」
わたしは本当に幸せものだと思う。
家族に恵まれて。
学校では仁美ちゃんや先生みたいにクラスに恵まれて。
マミさんみたいな可愛くてかっこいい先輩に巡り合えて。
こんなわたしを助ける為にずっと戦い続けてくれたほむらちゃんがいてくれて。
この瞬間にさやかちゃんがいてくれる。
わたしはこんなに優しい世界を呪いたくなんてない。壊したくなんてない。
「だから、お願い、できるかな」
わたしのその言葉で全てを察したさやかちゃんは言葉を失い、下唇を噛み締めて俯いてしまう。
酷いことを頼んでるのはわかってる。きっと、この後、わたしは地獄に行くだろう。
当然だ。最高の友達をいまもなお傷つけ続けて、親友の心にすら大きな傷跡を着けていくのだから。
やがて、さやかちゃんは意を決したかのように涙に濡れた顔を上げ、わたしの胸のソウルジェムに手を当てた。
「まどか」
消え入りそうなさやかちゃんの声が耳に届く。
「生まれ変わっても、またあたしと友達になってくれる?」
その問いかけはあまりにも予想外で。わたしにとってはこれ以上ない嬉しい言葉だった。
思わず涙が溢れ、自然と笑顔になっていた。
「また、いつもみたいに遊ぼうね、さやかちゃん」
わたしのその言葉と共に、さやかちゃんが胸元を圧す力が強くなり。そして。
パリン、と魂が割れる音と共にわたしの意識が遠のいた。
意識が完全に消え去るその直前、さやかちゃんの最後の泣き声が聞こえたような気がした。
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この日、最強の魔女は消え、見滝原市から魔法少女は消えてしまった。
けれどそれで世界が変わるわけじゃない。
感情が存在する限り、ほどなくして新たに魔法少女は生まれ、そしてまた魔女へと変わっていく。
見滝原を縄張りとしていた巴マミの死は、瞬く間に魔法少女たちの間に伝わっていき、後釜を狙うかのようにこの街になだれ込んでくるのも避けられない運命の一つに過ぎない。
変わったことといえばひとつだけ。数多の時間軸で魔法少女になっていた美樹さやかが契約することなく、人としての生を全うした。
ただそれだけの物語。
【もういいんだよ】と言った場合のルートはこれで終わりです。
最後は【馬鹿だな】と言った場合のルートになります。